久しぶりの休日。昼近くに目覚め、ぼんやりと天井を見上げていた。不意に、二人の子供を預かっていたことを思い出し、面倒ながら体を起こしベッドを出る。子供、そういってももう立派な大人になった従姉妹の女の子で、会社のイベントの帰りこの家が近いことを思い出し夜中に泊めてと飛び込んできたのだ。ぼんやりしつつ、一階に続く階段を降りると従姉妹の妹のほうがキッチンに立っていた。バターの焦げるようないい匂いがする。
「サキ、キイは?」
「ねぇちゃんはもう仕事行ったよ。おはよう。勝手に使ってる。姉ちゃんも食べる?」
従姉妹の姉のほうがキイ。妹はサキ。二人とも私のことを姉ちゃんと呼ぶ。彼女が作っていたのはフレンチトーストだった。
「うん。食べる。器用だね、サキは。」
「こんなの誰でもできるよぉ。」
笑う彼女を見ながら、洗面所に出向き顔を洗い歯を磨いた。リビングに戻ると、サキは食卓に皿を置いていて、私を見つけるとにこやかに微笑む。
「できたよ。あったかいうちに食べて。」
「うん。ありがとう。」
礼を言いつつも、食卓に着き用意してもらったフォークとナイフを手に取った。
「姉ちゃん、私これ食べたら仕事行きたいんだけど、姉ちゃんなんか予定ある?」
「予定?」
フレンチトーストを口に入れつつ、ぼんやり思考をめぐらす。そういえば青いラジカセを修理に出していた。それが直ったと連絡が入ったのは先週だ。それを受け取りに竹花に行かなければならない。
「竹花に行くよ。ラジカセ貰いに。」
「ラジカセ?あの青いやつ?相当古いのにまだ使ってるの?新しいの買えばいいのに。」
「愛着あってね。」
目を丸くさせる彼女はとても現代っ子であり、古いものに対して興味もなければものを直すといった行為が珍しいらしい。新しいの買えば?・・そう、あの青いラジカセはどういった経緯で自分のものになったか。ということがわからない。メタリック調の外観と、もう使うことのないカセットテープを入れる場所がひとつ。それもすでに壊れていてラジオを聞く以外に用途はなくなっていた。カセットテープを使わないので別に壊れていても良かったのだが、ラジオの周波数を合わせても音が聞こえなくなってきていたので泣く泣く修理に出したのだ。彼女の方は、まだ車の運転ができないのである場所まで送っていって欲しいという事だろう。このあたりはバスも一時間に一本あればいいほうだし、働き始めて間もない彼女がタクシーということもない。電車に乗るのも車で30分かかる距離だ。
「竹花ってどこにあるの?」
「塩田。」
サキはちょうど良かった。というように笑顔を見せた。丸子にある自宅まで送ってほしい。そう切り出されたが、朝食(すでに昼食になりかかっていたが)を作ってもらったので文句も言えない。適当に着替え、ラジカセの受取書を手に車の鍵を持った。サキは念入りに化粧を整えるとあわてて家を飛び出してくる。家の鍵をかけ車に乗り、とりあえず丸子の家に寄ってサキを送り、塩田にある竹花に向かった。何年通っても塩田の道は覚えにくく、頼りにならないほどの記憶を呼び起こしつつ何とか到着。実際はこじんまりしているただの文房具屋だが、そこは夢らしく大型ショッピングセンターのようだった。店に入り、カウンターでラジカセの受取書を渡す。
「お呼びいたします。」
そういわれ、なんとなく店の中をぶらついた。店には、いつも良くしてくれている男性がいる。肩まである髪を耳の辺りの髪だけ後ろで束ねた背の高い若者だ。名前は知らないが、奥様のような方に商品説明をしている。それを横目に見ながら、また店内をぶらつくと、100分以上時計というものがあった。アバウトな時計である。万歩計のような形状で、透明プラスチックの作り。値段は380円ほど。物珍しくそれを眺めていると、先ほどの男性が私の後頭部を掴んだ。
「よ。」
振り向くと気さくに笑う。
「見てみて。100分以上時計、だって。」
店員なのだから当然知ってはいるだろうが、私はそれを見せびらかし自慢した。
「ああ、それ使いにくいのに何故か人気なんだ。まあ、珍しいから買っていけよ。」
見れば、店頭に並ぶ在庫はあと一つ。安さもあり、買うことにした。
「店内にいらっしゃる青いラジカセの受け取りのお客様。」
店内放送があり、自分のことだと確信した私は彼に別れを告げカウンターに出向いた。ラジカセを受け取り、その代金を支払う。そのまま車に乗り込み帰ろうとしたが、帰路途中で100分以上時計の代金を払い忘れていることに気がついた。あわてて戻る途中、今までは走っていなかった電車が現れた。自分も、何故かラジカセを抱いたまま線路路脇に立っている。まあ・・、夢だから仕方ない。電車に手を振ると、電車は急停車して扉が開いた。そこから何故か所長(現在働いている場所の男性)らしき人が出てきて、何故か電車脇に座った。私が抱えているラジカセを受け取りじっくり眺めながめている。
「こんなところでどうした?君は休みだろう?」
「ええ。ちょっとこのラジカセを受け取りに来たんです。それと、この時計の代金払い忘れて戻るところ。」
ポケットに入れていた100分以上時計を見せると、彼は分厚い眼鏡をかけなおして意味深に笑った。
「まあ、乗りなさい。」
そう促されて電車に乗り込む。電車は日本のものだったのだが、いつの間にか横壁のないものに変わった。強い風を受けながら景色を見ていると、線路脇に家がたくさん並ぶ風景になり、そこに幼い私とおばあさんが見えた。幼い私は何故かおばあさんを線路の中に押し込んでいる。
「おばあちゃん殺す気・・?」
ポツリ呟くと、所長のような男性が私に青いラジカセを抱かせた。
「行きなさい。」
そう言い、私の背中を軽く押す。しかし・・電車から飛び降りろというのか。彼を見ると、彼はまたにこやかに笑い一つ頷いた。意を決して飛び降りる。落ちた拍子にごろごろと転がり、見ていた景色にはなかったはずの藪の中に頭を突っ込んでいた。顔にかかる葉っぱを退け、ようやく前を見ると、幼い私は青いラジカセを拾い私を見て指を刺す。
「おばあちゃん、見て!!ぞうさん!!」
・・・・私は小さな象になっていた。
終わり
と、いうところで夢から覚めた。どうやら、私は私からラジカセを受け取ったらしいが、いったいそのラジカセはどこから手に入れたものなのか。なぜ私は象になったのか。別にそんなに象は好きではない。まあ、夢なのだから矛盾だらけであろう。
夢を見ておきる。それはいくらでもあることで、そんなに鮮明に覚えていることもあまりない。ある晩夏の夢があまりにも滑稽であり、鮮明に記憶していたので文字にしてみた。しかし、滑稽な夢であった。