「夏目課長。お日柄も良く。」
「何よ。せっかく迎えに来たって言うのに居ないじゃない。」
「ごめん。」
ふんぞり返ったまま足を組み替える。彼女の定番ミニタイトスカートの・・。
「誘ってる?」
「この部屋、カメラは?」
「知らないよ。ほとんど居ないから探す時間も無い。」
僕は彼女の傍に歩くと、僕を見上げた彼女に覆い被さるようにしてキスをした。スカートの中に手を忍ばせ太ももに触れる。そのままショーツに手を伸ばし、布をずらして局部に触れるところで電話がなった。
「ばっかねぇ。まだ、たくさん残ってるでしょ?」
「出たくないな。」
「出なさいよ。待っててあげるから。」
そう言われ、僕はしぶしぶ受話器を持ち上げた。
「あ、よかったぁー。室部長。郡山先生のことでお聞きしたいことがあって・・。」
「ああ・・はいはい。書道家の先生・・だよね。」
彼女は机から足を退け、椅子からも降りた。その椅子に僕を座らせると、首に腕を絡ませた。
「ええ、そうなんですけど・・。先日、亡くなられて。こっちで展覧会を開く予定になっていたんですが・・。」
「亡くなられ・・た・・?いつ?」
「先週です。木曜・・だったかな。」
「そう・・。」
「あ、あの・・。」
相手の話もそこそこ聞き、僕は途中で受話器を置いた。
「どうしたの?」
「・・お母さんが・・。亡くなった。」
「え?」
「たくさんいるお母さんの中で、一番年上のお母さん。僕が小学校の頃から慕っている人で・・。亡くなったなんて知らなかったよ。」
ナツキさんは僕の頭を優しく・・。その柔らかな胸の中に包んでくれた。しばらく黙っていたが、僕が受話器を取ると彼女は手を離す。そして、僕のタバコを箱ごと持つと応接のソファに向かい、座った。電話は数回呼び出し音を鳴らし、「はい、郡山です」と男性が出る。
「高塚と申します。御無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした。先生・・。亡くなられたと聞いて・・。」
「ああ、坊ちゃんですか。母も年でしたからね。最後だ。と東京で個展を開くなんて言ってて、坊ちゃんに会えるかなあと笑っていたところでしたよ。」
「すみません、僕・・。何て言えば・・いいか。ここ何年も連絡一つしなくて。」
「いやぁ、便りの無いのは無事な証拠。雑誌などのコラムとかで、名前を見るたびに喜んでいましたよ。また、おいで下さい。」
「ありがとうございます。・・あ、個展・・のことで。」
「私どもが代わりに行きますよ。まあ、殆どがそうでしたから。よろしくお願いします。と担当の方にもお伝え下さい。」
「はい。・・ありがとうございます。」
とても穏やかで、こちらに気を使ってくれながら話を進めてくれた。受話器を置くと溜息が漏れる。
「泰生。」
「何?」
「・・。真剣な顔。出来るのね。」
「え?どう言う意味?」
「私のときはすぐに誤魔化すくせに。」
彼女はすっくと立ちあがり、僕の隣に立って長い髪を垂らし・・。目を伏せ、キスをした。激しく舌を絡ませあい、彼女はそのまま僕のネクタイを緩める。悲しみなど忘れ、僕は彼女のスカートを腰のあたりまでたくし上げ、ショーツとストッキングをずり下ろすと局部に指を当てた。
「あ・・。待って。濡らしてくれなきゃ痛いよ。」
「嘘だ。焦がれて待ってたくせに。」
局部の口に触れると、とろりと密が溢れて指に絡みついた。
「ほら。大丈夫。」
「意地悪。」
彼女を立たせたまま、僕は指を中に入れた。耐えて身悶える顔がいやらしい。僕の体に体重を乗せ、がくがくと振るえる足でどうにか立っている状態の中、僕の指は彼女の中を広げ、撫でる。耳元に喘ぐ声。熱い吐息。必死に掴まる手。胸は張り、服の上からも分かる二つの突起。
「ナツキさんってさぁ・・。」
「・・ん・・?」
「羞恥プレイ、好きだよね。」
「君が・・させてるのよ・・。」
「嘘だ。」
指を深く突き上げると、彼女は悲鳴のような声をあげた。
「はるな・・。もう・・。いいでしょ?来て・・。」
「持ってないよ。」
「いら・・ないわ。」
指をきゅっと締め上げ、また緩めて・・。彼女自身の手で僕の指を抜くと、吐息を付き身震いして見せた。指や手が・・べとべとする。これだけ塗れるって事は、危ないんじゃ・・ないかな・・。魅惑的な目で見つめられながらスーツを剥がされた。彼女の蜜で塗れた手を舐めると、彼女は嫌がるようにしてその手を退けて唇をまじあわせる。
「お願い。焦らせて終わりにする気なの?」
僕は・・。流されるように・・・。彼女を立たせ、机に手をつけさせて後ろに立つとファスナーの間から一物を取り出し、擦りあげて硬くさせると彼女の局部に入り込んだ。徐々に締め上げられ、興奮する。服の上から乳房を揉み、突起を摘んでは強く掴む。立っていることが辛いのか、上下左右に動く腰。それとも・・僕を刺激してる?騎乗位より深く入り込む感覚。彼女は机に突っ伏し、感覚に悶えた。声を押し殺し、息をのむ。
「で・・出るっ。」
焦らすだけ焦らそうと思っていたが、代謝反応のが早く・・。ドクっとした感覚と吐き出す瞬間がたまらず心地よい。勢いが良すぎたのか、彼女は一気に体を逸らし上げてへなへなと机に倒れこんだ。彼女から一物を抜き、拭いもしないでしまいこんだ。ファスナーを上げ、身支度を整えなおす。椅子に座り、プリンっと張り出したお尻を指で突っついた。
「あんっ。なによぉ・・。」
「情熱的過ぎて・・。ちょっと興醒め。」
煙草を口にくわえ、火をつけ・・。机に体を預けたまま、足をパタパタと動かす彼女の動きを眺めた。
「うん・・。これで、最後にしようと思ってはり切りすぎたわね。」
「・・最後?」
「新婚旅行ね。オーストラリアだって。」
「・・ふぅん。」
「コアラ、抱くんだって。」
「へぇ。」
「お土産、何がいい?」
「・・・・・。要らない。・・君が、憎い。」
煙草の煙を思いきり吸いこみ、吐き出した。
「私なの?とし君じゃないんだ。」
「僕を惑わせて遊んでいるのは君だろ?」
「なら、私は君に遊ばれてるのよ。何も言ってくれない、君が悪いの。」
「・・僕のせいなんだ。」
「違うって、言い切れるわけ?分かってて、抱くくせに。娼婦扱いじゃない。」
彼女はようやく起き上がり、ずり降りたままのショーツを履いた。破けてしまったストッキングをびりびりに破き、僕に投げつける。
「君にとって。私は都合のいい女。なら、私にとっても君は都合のいい男。独占欲が強いくせに、外に現すことすら出来ない臆病者。言わないことが美学なら、私はそれを利用するわ。」
ゆっくりと僕に近づき、僕の首に腕を回しながら・・。妖艶に微笑むとキスを交わす。
「私、自由でいたいの。飛び交う蝶でいいの。」
「じゃあ、どうして決めたの・・?」
細く唇が離れ呟いたがキスで消された。
「欲しい言葉を・・言われてしまったからよ。いくら待っても君は言ってくれないわ。」
「だから・・?」
「小さな切欠・・よ。」
彼女は僕から離れると、お休み。そう言って部屋を出ていってしまった。僕は体に纏わりつくストッキングで指の滑りをとると、その生地を広げて伸ばした。ちょっとの綻びで崩れてしまうくせに、やけに強く良く伸びる布だ。爪を当て引き裂き・・。ピーっとした音を聞く。丸めて縛って投げつけ、跳ね返り床に転がる布。それを拾い、会社内のトイレのごみ箱に捨てた。手を洗い目の前の鏡を見やる。僕にとって、彼女は抱けるだけの都合のいい女・・?好きだって言うのは、・・気の迷いなのか?水を止め、スーツのポケットを探ると彼女のハンカチが出てきた。返しそびれたな・・。なんとなく、それをまたポケットにねじ込み、僕は帰路についた。

 左手の人差し指を機械に当て、「認証しました」という機械音を耳にしたあとドアノブを下ろす。ドアを開け、部屋に入りドアを閉めると、扉は勝手にカギをかけた。部屋には人を感知すると、勝手に明かりが付く。ソファに上着を脱ぎ捨て、ネクタイを外してその上に置いた。キッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。買出しにも行かないままなので何も入ってはいないが、一本の缶ビールがあり手に取った。冷蔵庫の扉を閉め、缶のプルタブを上げて液体を口に運ぶ。強い炭酸が喉を刺激したが、ふっと息をつくとそれもすぐ治まった。一気にビールを飲み干し、缶を潰してダイニングテーブルに乗せる。片付けない潰れた缶は、・・数えて12本あった。ベルトを引きぬき、リビングに投げつけてバスルームに向かい、服を脱いで脱衣籠に入れる。洗濯物も溜まったな。そんなものを見てみぬふりしつつ、バスルームに入りシャワーコックを捻った。すぐに温水が出て、全身を濡らす。適当に体を洗い、適当に流して水を止め、腰にタオルを巻いたままリビングに戻ると、置いた上着などを蹴散らしてソファに横になった。髪から水が滴る。拭いてないのだから当たり前だ。明かりが点ったまま、僕はソファの背もたれに向かいながら目を閉じた。土、日。外出もせず、ぼんやりとして過ごす。部屋の片付け。掃除。洗濯。ゴミだし。食料の買い出し・・。やることは山ほどあるが、何もしなかった。ただ、なんとなくシャープペンシルを左手に持ち、見ているものを描きとっている。ただ、何も考えたくはなく、考えなければならないと思いながらも思考は働かず。動いていないので疲れず、眠れもしないまま月曜日を迎えた。適当に身支度を整え、転がしておいたままのネクタイをつけ、開けてもいない鞄を手に出社した。室部長。そうかかれた部屋に入り、鞄をソファに投げつけて椅子に座る。僕が出社すると、秘書課の沢渡さんという女性が来て僕にコーヒーを出してくれた。
「おはようございます、室部長。」
「ああ、おはよう。」
「出社なさって宜しいのですか?」
「何で?」
「御友人の結婚式かと。営業の数名と、編集部数名。企画一同。休みです。」
「僕が行かなきゃいけない理由はないよ。」
コーヒーを口に運び、タバコをくわえてパソコンを立ち上げ。一日。何も変わらない一日が終わろうとしていた。だが、一部何かのざわめきが聞こえ・・。ウェディングドレスを身にまとったナツキさんが息を切らして部屋に入ってきた。後ろには燕尾服姿の・・越賀君の慌てた顔。
「どうしてこなかったのよ!!」
両手で机を叩き、彼女は激昂したまま声を上げた。
「べつに。」
「なによそれ、私は君に見せたかったのよ。ずっと待ってた。君のためにっ。」
「・・。僕のため?」
ふつふつと沸く・・怒り。
「そうよ、君に見せたかったんじゃないっ。この姿・・。」
「だから、何?僕にその姿を見せて、優越感に浸るって話か?あざけ笑って、強請のネタにでもするのか?綺麗だとでも言われたいのか?!」
「そうよ、言って!!」
「ふざけるな!!俺はあんたの奴隷じゃない!好き勝手に生きる為の布石じゃない。言われたいのなら決めた男に言わせろ。俺を笑い者にするな!!・・・出て行け。俺は道具じゃない・・。」
「・・はるな・・。」
「今は消えてくれ。そんな姿見たくもない。俺を・・惨めにさせないでくれ・・。」
しんと静まり返った・・部屋。会社全体が静かだ。越賀が動き、彼女を連れて出ていった。怒りや憤りで押さえ切れない体はかすかに震えている。僕が・・彼女を怒鳴り上げる権利はない。遊ばれていたのなら、遊んでいたのだ。都合の言い女に仕立て上げていた。・・物欲と同じ・・・。
「た・・高塚。呑みに行こう。」
何人かに慰められるようにして言われたが、首を振った。動けなかった。どうしても受け入れたくなくて・・。彼女の流した涙が残像として残る。僕は彼女を悲しませる材料だ。手に入れても満足できない。僕は・・。
「さいてー・・・だ・・。」
ただ、唇を噛み締めることしか出来なかった・・。