一昼夜開け、雪が振り出した。先生の容態は悪く、峠だといわれ病室にいる。機械の音が静かに鳴り、かすかな呼吸音が響く。喫煙所に向かい、ぼんやりとタバコをふかしながら雪をみて、慌しく動く医師団を見送った。その後すぐ。泣き叫ぶ声が聞こえた。僕は設置されている電話と対峙し何かのためと財布に入れてあった100円玉をいれ、番号を押す。明け方というか、真夜中というか。そんな時間だ。だから呼び出し音は長く長く続く。
「誰だこんな時間に!!」
怒り狂った声で壬生氏は叫んだ。
「すみません。僕、高塚です。」
「ん?なんだ。お前か。なにか用か。」
「ええ・・。水墨画家圭二二代目、渡瀬川住夫が亡くなりました。」
「何だと?圭二が・・死んだ?」
「はい。会長である貴方に・・知らせた方がいいかと思いまして・・。」
「そうか・・。わかった。すぐ会連集めていく。どこだ。」
僕はこの病院の名前と先生のうちの住所を教えた。受話器を置き、部屋に足を向ける。先生の胸に伏せ、泣き咽る文仁君。彼の隣に立つと、彼は僕を見上げた。
「大丈夫だって・・。言ったじゃないか・・。」
「・・ああ・・。」
「知ってたのかよ。じいちゃんの体のこと。」
「ああ。長くはないと聞いていたよ。画家たちの集まりの・・連合があって、そこで知った。君も知っているものだと思っていた。」
「う・・・。」
ぽろぽろと涙を流し、彼はまた先生の胸に伏せた。酒好きが講じた肝臓ガン。末期で長くない。そう、何度か聞いた。長くないとは言っても、老体だから簡単には死なないと思った。静かに眠る彼の顔は穏やかで、軽く笑みを浮かべているように見えた・・。
寺に、渡瀬川先生の遺体を運ぶ。画家連のお偉いさん方が顔を揃え、神妙な面持ちのまま葬儀は滞りなく進む。通夜などの儀式はなく、役所からの火葬許可が下りるとすぐに火葬場に向かった。先生が骨になる間、寺の好意で軽食が振舞われた。僕は外に出て、煙突を眺める。雪はまだ振り続いていた。風もなく、静かに音を飲みこんでいく。
「おう。高塚。圭二のじいさんはなにか言ってたか。」
タバコに火をつけながら、壬生さんは僕に聞いた。
「ええ。彼に、三代目を名乗らせろ・・と。」
「彼?あの、若いやつか?」
「ええ。」
僕もタバコに火をつけ、煙をふかした。二つの煙は真っ直ぐに空に上がっていく。
「ほーお。で、お前は何故にここに居る?虫の知らせってやつか?」
「・・さぁ・・。偶然ですよ。」
煙突を見上げると、煙が真っ直ぐに昇っていった・・・。
「また一人。手の届かない場所に行ってしまいましたね。」
「お前は、幽霊とか信じるタイプか?」
「いいえ。死ねばただの躯ですよ。有機体を燃やすから、煙が上がる。」
「ふ・・。現実的過ぎてつまらねー男だ。・・春樹達もそうしたな。」
僕は黙って昇る煙をみつめながら煙草の煙を吹いた。納骨だといわれたが、僕は行かなかった。先生は天涯孤独。身内がいないため、骨は寺に預けられた。寺の和尚は渡瀬川の古い友人だという。家の処分などは役所に任せることになり、文仁君は一度帰ると車に乗込む。僕も荷物があるので行くことにしたが、壬生氏もついてきた。二代目圭二の最後の作があるんじゃないか。などといっていたが、それも彼の仕事だ。僕らは無言のまま車に揺られ家についた。玄関の裸電球が寂しく光っている。だるまストーブをつけ、暖まりながら部屋の中を少し片付け、タバコをふかした。壬生氏は家の中を散々探し回った挙句、壁にかかる僕の絵を見てちらりと僕を見るとふっと笑った。文仁君は部屋に閉じこもったまま出てこない。心配になり戸をノックすると、返事はなかった。
「文仁君、開けるよ?」
そう声を駆け引き度を開けると、彼はあの綺麗な絵を全部引き破いてその中に座り込んでいた。
「文仁君・・。」
「じいちゃん、俺の絵・・。誉めてくれなかったんだ。最後まで・・。ただ、一回、黙ってから笑うんだ。」
「・・彼は、人の絵を誉めないよ。そうやって、黙るんだ。認められた証だよ。」
「俺は、そう言って欲しかった!!」
また、涙を流す彼の目は、酷く腫れていた。部屋に戻り、荷物を持つ。
「何だ。置いてくのか。」
「彼は車があるし、ちゃんと実家があるんです。気が済めば向かうでしょう。すみませんが、僕を駅まで乗せてくれませんか?」
「ああ、いいが・・よ。」
壬生氏が先に家を出て、僕は一瞬躊躇いながら靴を履いた。外にはちゃんと高級車が停まっており、運転手と目があって頭を下げる。
「まって!!高塚さん。」
そう叫ばれ振り向いた。
「待って。もし、高塚さんが良ければ、俺を連れてって。俺、何でもする。だって、惚れたから。」
「・・・どこに。」
口実としか受けなかったが、彼は必死だった。
「体!!」
「は?」
壬生氏は大笑いをした。
「あのね、そんな人聞きの悪いこと言わないでよ。」
「そりゃーいい!!」
壬生氏は高らかに声を張り上げ、僕の隣にくると耳打ちした。
「三代目、名乗らせるには時間が要る。世の中物騒だし、お前の元において置けば安泰なんだかな。」
「都合のいい事言わないで下さいよ。」
「ん?あの若いのはお前の体目当てだろうに。ふ・・。まぁ。お前も新しい家族を迎えろって言うことじゃねーか?あいつだって、そう望むさ。」
僕は文仁君と目があい、小さく溜息をついた。
「荷物。あるなら持って。君の車で・・帰ろう。」
「ある。ちょっと待ってて!!」
彼は踵を返して部屋の中に入っていった。壬生氏はニヤニヤと僕を見る。
「何です?」
「お前、あれに惚れてるだろう?」
「何でですか。」
「目をみりゃ分かる。」
「僕はそんなにモノ欲しそうな目をしましたか?」
「ああ。してた。・・ま、俺は先帰るぞ。議連の奴らにも連絡をしなけりゃいけねーんだ。」
「ごくろうさまです。・・突然。ありがとうございました。」
僕は深く頭を下げた。
「何、仕事だ。二代目もお前に会えて幸せだったろうよ。」
彼はそう言うと車に乗込み、ちらりとも僕を見ないまま姿を消していった。数分後、文仁君は一つの楕円形のスポーツパックを肩にかけ家を出てきた。それを車の後部座席に乗せ、振りかえると家に向かって深く長く頭を下げた。
「で、高塚さん。家はどこ?」
「取り敢えず、東京。」
「何その適当な答え・・・。」
車に乗込み、発車した。新幹線使っても半日以上かかった道のりを、車で帰るとは・・・。それに、僕は運転を代わってやれない。さっきまで泣いていた彼に、そんな体力があるのだろうか。と、言うか・・。この僕に体力がなかった。彼は夜通し爛々と輝く目で運転し、僕の方が道を案内する気力も体力もなく、最終的にマンションの名前を告げた。
「なあ、マンション前についたぜ。駐車場はどこ?」
「・・地下・・。」
「地下ぁ?ああ、ここからか。何番?」
「18A−6。」
彼は器用に駐車場所を探すと、車を止めエンジンを切った。
「ついたよ。すっげーマンション。なあ・・。大丈夫か?」
「・・ん・・。」
はしゃぐ彼に支えられながら、エレベーターに乗込み18の数字を押した。引き上げられる感覚はなく、乗込む人もないままドアが開いた。廊下を歩き、部屋の前に立つ。
「鍵は?」
「・・無いよ。」
僕は利き手を上げ、指紋照合のパネルに人差し指をつけた。機械の隣の小さなカメラを見る。
゛ピッ。確認できました。゛そう、機械の音声がなり、ドアの鍵が開いた。ドアノブを押し下げ玄関に入る。
「うわっ。玄関にでかいツボ?何これ、傘立て?広い部屋だなぁー。廊下長っ。なあなあ。探検していい?」
「好きにして・・。でも、外に出ると戻ってこられないから・・ね。僕は・・寝るよ。」
ボーっとした頭のまま、久しぶりに寝室に入りベッドに転がり込んだ。寝入るのに数秒もかからず爆睡。寝返りが打てないので目が覚めた。が、寝返りどころか身動きすら取れない。僕を見下ろしているにこやかな顔の文仁君は、全裸だった。
「文仁君?」
動かない腕を見ると、手首に紐がついている。もう片方も紐が繋がっていて、片方を引っ張ると片方が引っ張られた。紐は繋がっているらしい。足も同様の動きをした。
「何これ・・。」
「へへへ。では。頂きます。」
彼は両手を合掌させると軽く頭を下げた。寝ぼけ頭のまま、何が起こっているのか理解できない。彼は僕に覆い被さってくると、口を塞いだ。軽いキスかと思ったが、舌を入れてくる。驚き逃げようとすると顔を押さえられた。口の中を舐められ、舌を吸われ・・。抗うと彼は嬉しそうに笑う。
「ふ・・文仁君?」
「据え膳逃す男はいないよ?」
「え?」
「大丈夫。俺、うまいよ?」
彼の顔が僕の首元に下り、キスをされ舐められた。
「ふっ・・。」
全身の神経が研ぎ澄まされる。ぺちゃぺちゃと音を立てながら肌を食われた。体中がびくびくと跳ね上がる。首に意識を集中させまいと考えれば考えるほど過敏になった。
「は・・ぁあ・・ん・・。」
「もっと鳴いて。」
耳元で囁かれた。喘ぐ声を押さえようとしても手が届かない。顎で彼の頭を退けようとしたが、前髪を掴まれ顎を上げられた。
「ふみ・・や・・・。やめ・・。」
「まだ始めたばかりだよ。」
彼の手が僕の体を這い、僕ははじめて自分も裸だということに気付かされた。太ももをゆっくりとなぞらえる指。喉仏を咥えられ、舌先で弄られてあまがみされ・・。堪えて声を飲みこむが、口に指を入れられた。
「あ・・。ふ・・・。」
「ちゃんと鳴いてよ。俺、まだここしか知らないんだから。」
首の皮膚に唇を触れさせ話された。全身の神経が・・壊れそうだ・・。力が入らない・・。彼は僕の口から指を抜くと、その濡れた指で僕の乳首を摘んだ。ビクっと体が跳ねる。
「・・はっ。んぁ・・。」
「ここもイイ?他はどこだろう。」
彼は僕の上に跨ったまま、体を上げた。首を攻められ続けたせいで意識が飛びそうだ。
「これじゃ、背中は無理だから・・。ここは当たり前だし・・。」
僕の体を舐めるようにみつめ、彼は振りかえった。僕に背中を見せ体制を整えると、その背中は丸まっていく。そして、うち太ももに息を吹きかけるとペロリと嘗めた。
「やっ!」
「ここもイイ?しかしほんと、可愛いなぁ。」
彼は大きなおもちゃを貰った子供のように浮かれた。脚の付け根、尻。袋の裏・・。次々と味見をしていくように嘗めていく。僕が暴れるほど、感じるほどに執拗に体を嘗めた。
「ふあ・・。も・・やめ・・ろ・・。嫌だ・・。やめてくれ。」
「そんなこというとすねるよ。」
彼は再び、僕の首を嘗めた。もう・・。抗えない。感覚とともに喘ぎ、体を捩り・・。
「んくっ・・。」
僕は重なった彼の体に体液を浴びせていた。
「クスっ・・。首だけでイッちゃった?そんなにいいんだ、嬉しいなぁ・・・。」
首を弄ばれながら、彼は体を動かし僕のモノを股で擦り上げる。心臓が痛いほど激しい鼓動を打ち、全身に汗が滲む。腕に紐が食い込む。
「待ってね。今、入れてあげるから。」
「え・・?」
「こんなにおっきいの、入るかなぁ・・。」
彼は腰を上げると、僕の一物をそっと手で包んで固定させ、徐々に彼の体が降りていく。キツイ入り口に頭が入りこむ。
「くぅーー。やっぱ痛い。」
彼は腰を上げ、僕を解放した。そして手で僕のモノを擦り上げると、ぱくんと口に入れる。
「んっ・・」
滑りのある温かい空間。ぺたりと張りつく舌。吸いつかれ、離され・・。また、脈打つ。一物が十分に猛り、濡れたことを確かめると彼はまた僕を飲みこんだ。今度はするりと入り口を突破し、彼の中に深く入り込む。
「あ・・・。入った・・。動くから、好きな時にイって。」
文仁君はベッドのスプリングを生かしながら跳ねる。強く締め上げられ、擦られ・・深く、浅く。
「あっあっ・・ふ・・・っ」
彼も感じるのか声を上げた。堪え切れず、両手を僕の腹に当て突っ張る。それでも跳ねて・・。一番深く入りきゅっと強く包まれ、僕は絶えられなかった。
「んんんー・・。」
彼は身震いをした。彼の体液が僕の胸に飛び、彼は繋がったまま僕の体に倒れこむ。
「すご・・。イイ・・。」
ハアハアと荒くさせた息。
「逃げないから・・。ほどいて。」
「ほんとーに?」
「そんな・・体力・・。無い。」
「ん・・。」
倒れたまま、彼は僕の手を手繰り寄せると紐を解いた。もう一方は自分でほどき、髪をかきあげる。
「足は?」
「まだ・・。繋がってたい・・。」
そんな言葉にゾクゾクと神経が高ぶる。
「解いてくれたら・・。満足するまで攻めてやるよ。僕は女しか知らないからイイかはわからないけど・・。」
「ホントに?」
「仕返ししたい。」
彼はクスリと笑うと、ゆっくりと体を上げて腰を浮かした。僕は彼の体から開放されたが、彼の股につつーっと液体が流れ出ていく。彼はそれを構うことなく、僕の足を縛る紐を解いた。やっと自由になり、僕は体を起こす。
「約束だよ。・・でも、そんな体力ある?」
彼は僕にしがみ付き、キスをした。小悪魔のように軽く笑うと、僕の耳元に「ご馳走様」と囁いてベッドを降りる。
「ね。軽蔑した?」
「・・少しね。縛った上強姦は酷いんじゃないか?」
「ごめん。高塚さんとこういう思いで作りたかったから。」
なんとなく、それは嘘だと感じた。渡瀬川氏が死に、その悲しみから逃れたかった。・・そう感じる。僕も過去にそんな経験があった。泣くよりも繋がって居たかった。寂しさを壊したかった。
「文仁君。一緒にシャワー浴びよう。それで、ご飯を作って・・食べようか。」
「え?俺・・許してくれるの?俺に惚れてくれた?」
「・・・・・。」
答えが見つからないまま、僕は途方にくれた。