仕事もようやく、自分のものに指しかかっていた6時過ぎ。ナツキさんと越賀君に拉致された。新しいゲームセンターが出来、そこに行くと話が進んでいる。上着の無い僕は寒さの中手をポケットに突っ込んだまま歩いた。
「遅くなってもいいのよねー。泰生。」
「う・・うん。いいけど・・。何でゲームセンター?」
「俺が好きなんです。」
「とし君、お酒全然駄目なのよ。デートはいっつもゲームセンター。レーシングゲームが好きなのよ。」
「へぇ。何か、意外だな。」
「免許は持っているんですけど、そっちはペーパーで・・・。」
苦笑する彼。彼女は呆れる。
「あ。そうだ。賭けをしない?泰生、会議でずるしたでしょ。その話し決着つけない?」
「あの話はもう終わりだよ。済んだの。」
「私たちが勝ったら。受けてもらうわよ。問答無用!!」
右手を拳にして突き上げはしゃぐ彼女。諦め悪いなぁ・・。そう呟くと、越賀君はすみませんと謝った。
「あ・・いや。」
「でも、本当に・・。素敵な絵だと思います。ありがとうございました。」
「あ・・はあ・・。」
嫌味のつもりで描いた。なーんて、もう絶対に言えないな。ゲームセンターの喧騒の中に入り、ちょうど空いていた席が四つ並ぶレーシングゲームの座席に座る。僕は二人に挟まれ、それぞれコインを入れた。座れば思い出す。懐かしい記憶。ハンドルを握り画面を見て、ふと・・隣に父が居るような思いにかられた。
「泰生?」
「ん?」
「最初はウォーミングアップ。ね。ラスト一周が勝負。いいわね?」
「はいはい・・。」
半ば諦めつつ、スタートが切られた。アクセル。ブレーキ。・・ギアチェンジ。本物は絶対に運転できない僕。忙しい父さんが、来てごらん。そう連れてきてくれたゲームセンターの・・座席。全ての騒音が消え、のめり込んでいた頃。
「ラスト!!」
彼女が叫ぶように言い放つ。ずっと、最下位を走っていた僕はギア比をかえながらアクセルを踏み込んだ。二つの車を簡単に抜き去り、一着ゴール。
「うそー。何で勝つのよ!」
「だって・・。賭けだろ?僕の勝ち。あの話しは無しね。」
僕はなんとなくまたコインを入れ、ゲームは一人で再開された。
「凄い・・。うまいですね。」
「練習したんだ。18の夏にね。父が、僕に30万くれた。教習所に通う程度の金額なんだってね。それでここで没頭したことがあるんだ。気がついたら夏休みは終わってたよ。」
「太っ腹なパパねぇ・・。」
「一通り。経験させたいって。彼は口癖だったから。」
画面を眺めつつ、ハンドルを切る。運転が面倒になって思いきりハンドルを切ってコーナーアウトさせ、車は転倒し爆発炎上した。その光景に少し・・うんざりして頭を振る。
「パパ、今どこに住んでるの?」
「・・さぁ。煙草吸ってくる。」
席を立ち喫煙場に向かう。が、後ろから両脇を抱えられ驚いている間にゲームセンターを後にした。
「ちょ、ちょっと・・。どこ行くの?ゲームしたかったんじゃないの?」
「またするわ。賭けは負けたんだもの。呑み行きまショー。」
「行こう行こう。居酒屋、ふっちゃんへゴー。」
「ちょっと・・二人とも・・。」
「遅くてもいいんでしょー??」
異常なノリのまま、暖簾をくぐった。こじんまりとした店だが、座敷がありそこに追いやられる。
「高塚のボトルでー。御金払いにきたわよー。」
「毎度!」
店のカウンターの中の主人が軽く手をあげた。そう言えば、・・記憶がある。お酒が進むうち、彼女の目が溶けそうなくらいに涙ぐむ。
「ナツキさん、もうやめようか?帰ろうよ。」
「いーやー。君の子猫ちゃんを見て帰るー。」
「子猫・・ですか?そう言えば、珍しくメールが来ていたとか。」
「ああ、あれは・・。」
「絶対に女の子。女の勘よ。勘!熱燗もう一本!」
彼女はそう手をあげたが、僕らは主人に要らないと手を振った。徳利の中に残るお酒に、グラスの水を足して軽く混ぜてから彼女が持つ盃に注いでやる。
「熱くないー。」
「え?熱いよ。ナツキさんが火照ってるからじゃないかな。」
「そーぉ?」
「そうそう。熱いよ、樹。」
むーん・・。そう彼女は唸りながら、盃を口に運んだ。が、電池が切れるように机に突っ伏した。
「高塚さん、いつも樹が・・すみません。先ほども何か失礼なことを・・。」
「あ、いや・・。慣れてるよ。帰ろうか。」
「あ・・、はい。」
越賀君の背中に彼女を乗せて、店の外に出させた。支払いを済ませて外に出ると越賀君はどうにかして財布を出そうと四苦八苦している。
「ゲームに勝ったから、コレくらいは負けてあげる。帰れる?タクシー呼ぼうか。」
「あ。すみません。ありがたく、ご馳走様です。今、金ためてるんでタクシーは・・。」
「え?二人の給料で足りないの?」
「家の頭金貯めてるんですよ。今は俺のアパートに居るんですけど、子供が生まれたとき賃貸では保証とか面倒なんで思い切って買っちゃおう勝って事になって。高塚さんは持ち家ですよね。失礼なんですが・・。いくらでした?」
「計画的・・。いいなあ、新婚さんは。夢があって・・。」
「あ、いやぁ・・・。でも、高塚さんだって子猫ちゃんを・・。」
僕は思わず肩を揺らして笑った。
「え?」
「君の口からその言葉が出るなんて思っても居なかったよ。帰ろう、帰ろう。」
「ちょっ・・。高塚さん?」
「気をつけて。これ以上イチャイチャしてると嫉妬するよ?」
「え?」
「じゃあ、明日。おやすみ。」
彼らに軽く手を上げて僕は一人歩いた。聞かれたことに殆ど答えなかったのは、やっぱり羨ましいからなのかな・・。途中でタクシーを拾い、乗込んだ。
今日が明日にかわる時間。玄関の扉を開けると、文仁君が玄関に三つ指ついて頭を下げた。慌てて中に入りドアを閉める。
「何してるの?」
「お帰りなさい。何って・・。お出迎えだよ。お酒飲んできたんだ。じゃあ、夕食は要らない?」
立ち上がった彼は僕から鞄を取り、僕が部屋に上がるのを待った。
「少し貰うよ。あんまり口にしてこなかったから・・。」
「そっか。」
先を歩けと促され、僕はリビングに向かおうとしたがスーツ部屋に入れられた。暗い部屋に明かりが点る。向かい合わせでネクタイを解かれて、彼は後ろに回ってスーツを脱がす。
「棚、買えた?」
「うん。あ、メール見た?」
「見たよ。僕もうどんにした。」
「真似っ子?」
「考えるのが面倒だったんだ。食べないこともあるし・・。」
「ほうら。食べないじゃん。朝飯も抜いて昼も無し。夜は簡単に酒。それじゃ体壊すよ。」
彼は呆れた様に言い、ワイシャツのボタンに手をかけた。僕はその手を握り・・。見を屈めて彼の唇を奪う。着物の合わせ目から手を入れると、それは止められた。
「嫌だ?」
「嬉しいよ。でも、飯が先。」
僕は簡単に頷いた。ワイシャツを脱ぎ、ベルトを外してズボンを脱ぐ。彼は僕の後ろに回ると浴衣を羽織らせた。
「うん。やっぱり、似合うね。部屋片付けてて、驚くほど普段着ってやつが無いんだモンな。黙ってカード使っちゃったよ。居間に転がってた書類とかは、本棚のあった部屋に移動させた。後で見て。」
「・・。」
「あ・・。嫌だった・・?」
「え・・。い、いや・・。何て言えばいいのか分からなかっただけ。」
うん。彼はそう言い、優しく笑った。食卓につき、軽く酒を飲みながら食事を済ませ、風呂があるといわれて風呂に入り・・。寝室。ベッドに押し倒されて馬乗りに乗られ。
「ねえ、何かあった?」
優しい声の問いかけに僕は首を振る。
「嘘だ。からかわれたんだろ?」
「・・うん。すこしね。」
「それで疲れたんだ。」
「かも・・。見えるとこはやめて欲しいなぁ・・。」
「見せびらかさなきゃ意味無いじゃん。なんてね。」
彼は静かに僕に覆い被さる。キスをして求め合い・・。僕は彼の腰に手を伸ばした。
「え?」
「されるのは嫌かい?」
「高塚さんが出来るの?男、抱ける?」
「君なら・・ね。」
彼は僕の全身を嘗め、僕は彼の肌に触れてそっと・・突き上がるものに触れる。ピクンと反応する彼。腰が浮き、お尻の割れ目を手でなぞり締まる穴に指の腹を当てた。そっとそこを撫でて弄り、彼の体はそれに応えるように震えた。指を入れると跳ねあがる。
「や・・・。」
「イイ?」
「ん・・。でも俺・・。イクよりイかせたい。」
彼は僕の喉仏を嘗める。全身がビクっと痙攣し、彼の中に入れていた指が強く動く。彼は僕の手を掴むと、そこから指を抜かせた。彼の一物を触っていた手も退けられる。両手をベッドに押しつけられ、彼は僕を見下ろしながら軽く笑った。
「まだ、抱かせてやらない。高塚さんが本気で俺に惚れたら、好きなようにさせてあげる。」
「・・分かるのか・・?」
「分かるさ。今は衝動だろ?ただの鬱憤晴らしだ。なら、俺が消してあげる。あんたを泣くまで犯してあげる。快感で全部・・忘れるまでね。」
彼は執拗に僕の首を嘗めた。全身を弄り歯を当てる。絶えられなくなり、イクと、それを口に含んで強く吸い上げた。残っているもの全てを吸われるようで・・思わず喘ぐ。全身。どこからどこまでもが性感帯になる。触れられるたび声をあげて嫌がれば押さえられ・・。洗い息を堪える暇も無く、声は溢れた。目を強く閉じ過ぎて涙が頬を伝っていく。
「も・・。ゆるして・・くれ・・。や・・。」
「駄目。俺の中でイって。」
ようやく、彼の中に入れてもらい・・。彼は跳ねてベッドがきしむ。中の暖かいものに包まれて擦られ、きゅっと・・窄められ・・。彼を掴みたくてもその手はベッドに押さえつけられた。
「ん・・・くっ。」
「あああ・・。」
奥のほうで僕が果てると同時に、彼も体液を飛ばす。一滴、顔に飛んだ。彼は僕の胸に体を乗せると荒い息を野整えようとする。僕は解かれた手で・・。顔を拭ってそれを嘗めた・・。意識が朦朧とする・・。呼吸のし過ぎなのか・・足りないのか・・。
「まだ・・。足りないよね。」
「・・え??ちょ・・待って・・。もう・・。」
「俺を憂さ晴らしに抱こうとしたこと。怒ってんだからな。楽しませろよ。」
もう・・。彼の愛撫に耐えられる力は・・残っていない。喘ぎ声より、殆ど悲鳴に近い声をあげ・・。
「や・・。もう・・。やめてくれ。頼む、嫌だ。」
僕は・・本当に泣いていたのかもしれない。映画のような、陵辱されて泣き叫ぶ少女のように行為に甘んじながら頭のどこかで嫌がり首を振る。乳首を弄られ、片方を噛まれ。まだビクっと反応する。
「悪かった。ごめん・・。もう、抱かないから・・。やめて・・。」
域も絶え絶えに声を上げると、彼は愛撫を止めてくれた。その代わり僕の頭を胸に抱き入れぎゅっと力を込める。僕が彼の体に手を回さないで居ると彼は僕の手を掴んで腰に回させた。
「もう・・。しないから・・。ごめ・・ん・・。」
「誤魔化さないって。そう言ってくれればいいんだ。抱え込んだまま、何も無い顔して、体だけ求めないで。何かあれば言えよ。俺なんかじゃ力になれない?一緒に・・さ。暮らしてって・・いいんだよな。」
「・・あ・・・。」
まだ、嗚咽が残る。彼は僕を抱きしめてくれているのに、僕は・・回された手すら放そうとしていた。
「駄目・・かな。ごめん。虐めすぎた?ほら、もう・・泣かないでよ。」
「僕は・・。怖いんだ。・・・。」
「うん。俺、知ってるから。そりゃ、また居なくなるの怖いよね。でもさ・・。作り笑いで逃げないでよ。受け止めて、・・・。無理だよね。」
彼は僕から離れて部屋を出ていった。ようやく、力が入ったのは暫くして・・。彼は、この家を出ていったものだと思っていた。だから・・。どうでも良くなって・・。手探りでライターを探し、火をつけて・・。布団に火をつけようとしたところを平手で頬を叩かれた。
「おい、どうしたんだよ、しっかりしろよ!!」
「・・。居たんだ。」
僕は軽く笑った。
「居るよ。・・ごめんな。そんなに嫌だった?」
「いや・・。気持ち良かったよ。ただ、時々ね。全部嫌になって死にたくなる。出来ないくせにね。」
「・・笑いながら、言うことかよ・・。」
気がつかなかったが、部屋に明かりがついていて、彼はホットミルクを作ってきてくれていた。
「これ、飲める?牛乳嫌いなら、カフェオレとか・・。」
「ありがとう。落ち着くんだよね。」
「うん。・・タバコのほうが・・いい?」
「・・・。」
僕は彼からカップを受け取って、軽く口をつけた。仄かに・・甘い。カップを返そうと彼を見上げると、ゆっくりと彼の顔が下りてきて軽くキスをされた。
「また、抱いていいだろ?今度はちゃんと、優しくする。嫌がればすぐ止める。」
「・・僕が・・。」
「抱かせてよ。」
「なんか・・。恥ずかしいよ。うんっていえば、抱かれたいみたいだし。嫌だって・・。言えないし・・。」
彼はにっこりと微笑むと、軽く目を泳がせた。
「もう一回って言ったら・・死ぬ?」
「無理。さっきのキスでさえ・・全身・・。」
「じゃあ。キスだけ。」
カップを取られ、ベッド脇の机に置かれた。彼はベッドに座り、僕の体を引き寄せてキスを交わす。僕が逃げると軽く手を離し、また引き寄せる。僕は・・震えていた。いろんな思いが交錯して纏わりついて鎖になる。ループし始める前に解かなければ・・。囚われる。一度味わったうつ状態の気持ち。簡単に僕を呼び寄せる。
「壊して紡ごうよ。一人じゃ無理なら、俺も居るから。ずっと、居るから。」
「嘘だ。」
「高塚さん・・・。」
「嘘だ。居るわけ無いじゃないか。すぐ飽きて出て行く。俺は弱い・・。邪魔だろ?」
「だから。駄目な男ほど、いい女がつくって言うじゃん。俺は男だけどさ。飽きるのは、俺じゃなくて。高塚さんだよ。ちゃんと、何時に帰ってきても。ここに居る。帰るの待ってる。・・待ってもらうの、無いんだろ?待ちぼうけは寂しいよね。行きたくなっても、今度は俺が待ってるから。俺を待ちぼうけにさせないでよ。」
ぼんやりと・・。している。タバコをくわえさせてもらい、火がともる。無意識に吸いこんだ煙。吐き出すと、ぼんやり曇っていた何かまで出したような気分だ。
「君は・・。本当に知ってるんだね。」
「あ・・。うん。じいちゃんに、・・聞いた。じいちゃん、言ってたんだ。あんなつまらない男になったか・・って。」
「つまらない?」
「うん。あんなに、曖昧じゃなかった。もっときっぱりと物事決めつけて、頑固で・・。頑固は変わってないか。って笑ってたけどさ。じいちゃんは、わかってたみたいじゃん?でも、俺は全部はわかんないんだからな。いい言葉も言えないし、・・。」
「うん。なんとなくわかるよ。だから、・・楽なんだ。無理やり笑わないからね。三つ目は・・。想像以上に重たいな。」
「・・三つもあるのかよ。疲れない?」
「ふたっつは、もう済んだよ。・・もう一つも・・。済んだことなんだけどね・・。」
拘るな。囚われるぞ。ふと、先生の言葉が戻る。
「今、何時?」
「6時。」
「・・・・・・。少し、寝る。疲れた・・。」
「お休み。・・って、俺も寝る。」
彼は部屋の明かりを消しにドア近くまで走り、電気を消して戻ってきてベッドに潜り込んだ。僕は体の疲れの方が大きく、力を抜くとすぐに睡魔に襲われ・・。隣に彼が居るとわかっていながら、眠りについていた。