今年最後の締め切りも終わり、ホッとしたのも束の間。僕と文仁君との間はなんとなくぎこちなく過ぎていた。そんなことを抱えながら、世の中はクリスマスムードに盛り上がる。大嫌いな日が近づく。
「は。る。な。」
仕事を抱えつつ、顔を上げる。浮かれ気味のナツキさんの顔。髪は肩口より伸び、前と同じような雰囲気に戻りつつあった。ただ、ずっとパンプスなのが気がかりで、今日はロングスカートだ。
「なあに?」
「クリスマスの日。予定ある?」
「別に。」
「じゃあ、みんなでパーティーしない?」
「しない。」
「何でよ。楽しいじゃん。」
「楽しくないよ。」
「何よ、やってもいないのに白けさせないでよ。」
「・・ごめん。」
ずっと。書類を眺めていた。顔を持ち上げられて彼女の目を見つめる。
「謝るなら目を見て。私、何か悪い今年してる気分になるわ。」
「被害妄想だろう?」
「何の?どんな?」
「・・知らないよ。」
彼女は溜息をつく。素っ気の無い態度で怒ったのか、眉をひそめた。
「子猫に爪を立てられたの?」
「いないよ。」
「あ。噛まれたんだ。」
「・・いない。」
「威嚇された?」
「居ないって言ってるだろ!」
「・・・・。」
いらいらしているのはみとめる。でも、当り散らすのは理不尽というもの・・。小さく謝り、溜息をついた。
「クリスマスの行事は嫌い?君、仏教徒だった・・っけ。」
「ううん。」
「神教?}
「いや・・。無信教だよ。死ねばただの躯。・・それだけ・・。」
6年・・。そんな言葉が胸を刺す。怒りで震えがくる。いや、怒った所で何も解決はしない。済んだこと。過去。もう戻らない。まだ・・。もう。囚われた意思はまだ解き放たれない。当り散らすのは意味が無い。普段の僕に戻りたい。笑って居たい。大人しく・・振舞いたい。醜態を晒したくない。普段よりずっと増えたタバコと酒の量。前にも増して仕事に打ち込んだ。思い返して居たくない。文仁君もずっと黙ったまま、僕を抱きしめてくれている。この頃毎日泣いている。魘され・・。眠れない。不眠がイライラを募らせるのか、僕は毎日棘棘しているように自分でも感じていた。
「クリスマス。楽しんできて・・。」
「うん・・。ねえ、話があるんだけど・・。いい?」
「何?」
彼女は開きっぱなしのドアを閉めた。念入りに、カギもかける。
「君、血液型なんだっけ?私、聞いたこと無かった・・?」
「A型。聞かなかったよ。」
「一度も?」
「うん。一度も。」
「私は何型か知ってる?」
「B型。」
彼女は暫く黙り、閉めたドアに凭れていた。
「プラス?」
「僕?マイナス。」
「・・A型の・・マイナス・・かぁ・・。」
彼女は溜息をつく。
「とし君もBなんだよね・・。」
「それがどうしたの?」
「・・・・・。妊娠したの・・。」
暗い表情で言う話ではないような話だ。あの夫婦では、飛び跳ねて喜びそうな・・。
「おめでとう。」
「・・四ヶ月って・・言われたの。私たち、九月の一日に挙式上げたよね。」
今は十二月。・・順当に行けば四ヶ月・・弱。
「もしかしたら、君の子かなぁ・・って。君の子だったら、どうする?」
下を向いたまま。彼女は呟くように言った。僕は書類から目を離して彼女を見やる。
「だって・・。彼とは・・?」
「初夜に・・抱いただけ。そう言うところ、彼は古風なの。その月はそれっきりだったし・・。」
沈黙が流れた。
「あ。ホント、もしかしたら。なのよ。でも・・君は・・。もう、可愛い子居るんだものね。私なんか・・。」
「・・僕の子なら・・。殺して。」
「え?」
「生んで欲しくない。母が、可能性を持ってた。兄は無事で、・・その子は色が見えなかった。」
僕は奥歯を噛み締めた。彼女もきっと、憤りを感じていたに違いない。彼女の顔を見ることが出来ないまま、僕は机に肘をついて手を組んだ。
「その子、どう?」
「大人しい・・子だったよ。学校に馴染めずに苦しんでた。僕は・・。嫌な事があれば暴力の的にした。荒んでた。妹の・・子は・・。」
「・・。」
「・・知らない。」
彼女は暫く黙ったまま、下腹部のような・・足元のような場所を眺めていた。痩せていて、まだ膨らんでもいないお腹。妊娠した。そう聞けば、旦那である越賀君は泣いて喜ぶだろう。
「妹さんは?」
「・・知らない。聞いておけば良かったかな・・。聞いても・・。どうにもならないけど。」
「泰生・・。」
「どっちでも。僕の子なら・・降ろしてくれ。ごめん。」
「な、何謝ってるのよ。二人の過ち・・でしょ?それに、君はちゃんと意見を言ってくれたんだもの。ねえ、それより。君は何でそんないらいらしているの?」
「大嫌いな日が近づくんだ・・。」
「何それ。誕生日?」
「僕は八月だよ。」
「・・あら・・。」
彼女は軽く、明るめに振舞った。僕も軽く笑う。
「ごめんね。体、大事にして。」
「うん・・。」
沈黙が続く。・・が、どこかで何かが爆発するような音が聞こえ地響きがし、悲鳴がこだました。慌てて鍵を開け外に出る。
「な、何?」
「ナツキさんはここにいて。」
僕は周りの話を聞きながら爆発音が起こった場所に向かった。僕が爆発事故に巻き込まれて以来、小鼓はいったん地下の倉庫に送られ自動的に機械の検査にかけられてから安全が確定されるとそれぞれの部署に送られることになっている。爆発は、その地下で起こったらしい。係員は昼食をとって、休憩中だったのが幸いした。回りにあった荷物は粉々に砕かれ、部屋一面が焦げたようにきな臭い。小さな火を放つ場所が所々あり、暫くしてスプリンクラーの水が降り注いだ。僕は苛立ち紛れに拳を壁にぶつける。脆くなった壁は簡単に穴を開けた。
「くそっ!!」
叫びはしたが、強く息を吐き部屋に戻る。警察が現れ、辺りは慌しく動き・・。仕事をしている気分ではなく家に帰った。
「うーわ。今日は凄く早いねー。まだ二時だよ?」
玄関のドアを開けると、文仁君が目を丸くしてたち尽くしていた。
「・・また、昼だ。」
僕はそう呟くと部屋にあがり、そのままリビングに入りソファに座り込む。彼は僕のネクタイを解くと、細く笑いながら何も言わず上着を脱がせた。
「お昼。何食べる?」
僕は首を振る。
「そう・・。彼は上着を持ったまま、リビングを出ていった。爆発魔の犯人は、半分は分かる。確信はまだ無い。彼は僕のもとにもどり、僕の手を握った。
「血が・・出てるよ。」
「ん・・ああ。壁を・・殴ったんだ。血が出てるなんて知らなかった・・。」
「うん。怒ってるからね。麻痺しちゃうんだよ。」
そう言って・・。僕の手を嘗める彼。少し、穏やかになれた・・。
「ねぇ。僕がね。前に付き合っていた女性が、・・。」
「妊娠でもした?」
僕は言い当てられ、言葉を飲んだ。
「当たり?やっぱり。高塚さん、ゴム嫌いだからね。」
「嫌いって・・事は・・。」
「でも、妊娠したんだろ?」
「・・。旦那の子かは、・・わからないんだけど・・。僕ね。酷い事を言った。降ろせっ・・って。」
彼はふーん。と頷いただけで何も言わなかった。僕の手の怪我を眺め、小さいや。そう呟く。
「今でも愛してる?」
「・・彼女を?」
「誰の話をしてるんだよ。」
僕は首を振った。
「今は・・愛してない・・。」
「その女の人は知ってるの?」
「僕を振って、結婚した。」
文仁君は息を呑むと、ニヤニヤし、そのまま爆笑した。腹を抱えて床を転げまわっている。
「あははははは!!そ、それ。それが何で今更ー??」
「四ヶ月だってさ。」
「じゃあ、高塚さんの子じゃー。」
「・・ありえるから困ってるんじゃないか。」
「へ??」
彼は笑いを止め、起き上がった。
「で、その女の人は何て?」
「聞かなかった。爆発があって・・。」
「何それ。」
僕もわけがわからず首を振る。タバコをくわえて火をつけ、半分吸ってはまた消して・・。
「赤ちゃんのことは、生まれてみてっから考えれば?もし、高塚さんの子なら俺が育ててもいいよ。」
「え・・?」
「だって、その夫婦には要らないだろ?俺だって、置いて行かれた過去があるんだし。高塚さんがパパなら問題無いじゃん。そっちの子なら、もっと問題無いし。」
「・・君は・・。」
「何も考えてないって言いたい?深く考え過ぎるよりマシだと思うけど。俺は、高塚さんが苛々してなきゃそれでいいから。」
「ごめん。」
「謝るなって。無理も無いからさ。」
彼は僕に近づいて、軽くキスをした。僕はそのままソファに彼を沈めて着物を肩までずらして肌を貪る。
「ふ。。あ・・っあっあ・っ。」
乳首を嘗めあげ、脚の付け根に手を滑り込ませて握り擦りあげる。酷く暴れ、体を捻り捩る。押さえつけながら服を乱して穴を広げ、指を捻じ込んでは掻き乱した。髪を掴み引っ張られ、ワイシャツが引き裂かれる。足を押し広げ指の代わりに腰元のものを深く捻じ込んだ。
「あっああ・・あーーっ。」
悲鳴のような声が耳元で響く。それを口で塞いで、腰を振った。中で突き出し、無理やり引き出す。彼は怒り狂うかと思ったが、僕にしがみ付いた。ぽろぽろと涙を流しながら、僕の胸にすがり寄る。
「そう言うのやだって言ったじゃん・・。ちゃんと話してよ・・。道具なら外でして来いよ!!」
離れようとするが、彼はその度にしがみ付いた。震えて・・泣いて。動こうとする僕には腕を掴んで爪を立てて・・。
「なんか言ってよ。言えよ・・。言えってば!!」
胸が痛い。後悔するならしなきゃいい。謝って・・楽になるのは僕だ。
「僕なんか、居なきゃ良かった・・。」
「そうじゃない!!」
「じゃあ、何て言えばいい?爆発事故も起きない。彼女は妊娠しなかった。君だってここで泣いてない!!」
「あんたが居なきゃ・・。俺はここに居ない・・。じいちゃんの後追ってたかもしれない。ううん。じいちゃんはとっくに死んでて俺は親と死んでたかもしれない!!」
「じゃあ・・どうすればいい・・。」
「取り敢えず、俺を慰めて。ベッドでちゃんと服脱いで・・。優しく抱いて。」
言われるまま、僕は彼を横抱きにして寝室に向かった。服を脱ぎ、彼の着物の帯を解く。泣いた彼の涙を拭い、嗚咽が漏れる口塞ぎ・・。震える肩を抱いた。女を抱くよりはるかに優しくし、労わりながらその肌に触れる。絹のようなすべらかな肌が、次第にしっとりと濡れ・・。嗚咽が喘ぎ声に変わり、震えは止まって敏感に反応する。無理やり中に出したものを指で弄り、シーツの上に溢れ出させた。彼は身悶える。太ももに垂れるそれを嘗め取ってやり、股のそれを口に含んでは吸い上げる。指で内部を弄り深くまで広げ、二本の指を入れた。腰を逸らせて体を捩り、足を閉じようとする。頭を押さえられたが嘗めるのをやめず、指の腹で内部を撫でた。
「ひあ・・ん・・・。あ・・ああ・・。」
熱い吐息と漏れる声。
「も・・もっと・・・。もっと・・して・・。」
言われるがままの奴隷になったかのように彼の全てを弄んだ。指を抜くと、彼の駅が僕のものと交わって指を濡らしている。
「た・・高塚さんが・・。満足するまで・・いいよ。俺・・。本当には・・。・・わかって上げられない・・もん・・ね。体なら、丈夫だし・・。苛立ち・・ぶつけて・・。それしか出来ないって・・。俺・・。わかったから・・。」
僕は、彼を攻めるのをやめた。呆けている彼に布団をかけ、部屋を出る。そのまま熱いシャワーを浴びた。タオルを腰に巻き、リビングのソファに座る。ぼんやり煙草をふかしつつ、机に買い物のリストがのるメモ用紙を見つけた。僕の好物がびっしりと記されたメモ。丸印がついているものは買うつもりなのだろうか・・。バルコニーに出て、冷たい風を浴びた。濡れた肌が突然冷されてぴりぴりとした刺激を受ける。髪は凍りそうだ。東京は、いつ雪が降るのか・・。空を見上げ、都心を眺める。遠くに海が見える。ふと、手に力が入らなくなり手にしていたタバコが下に落ちていった。それを眺めて体がバルコニーから出ようとする。掴めそうだったが、掴めば火傷する。ただ落ちていくタバコ一本。風に吹かれて道に転がった。突然。背中を掴まれて部屋の中に引きずり込まれ、床に押し倒された。頭を打ち。ゴン!と音が響く。
「痛い・・・。」
「馬鹿!!何やってんのよ!!」
「え?ナツキ・・さん?」
怒り顔の彼女が僕を見下ろしている。後ろに越賀君が居て、文仁君が着物を着て僕の隣にへなへなと座り込んだ。青ざめた顔。唇が震え、目に生気が無い。僕はナツキさんを払い退け、体を上げた。
「文仁君・・?」
「・・・こわ・・かった・・。そのまま落ちるんじゃないかって・・。お姉さんが・・。止めてくれて・・。」
彼はぽろぽろと涙を流し僕は彼を抱きかかえた。
「え・・。いや、タバコ落としちゃってさ。掴もうと・・してね。・・二人とも・・。いらっしゃい。」
彼女夫婦は思いきり大きく溜息をついた。文仁君は僕にしがみ付き、震えたままだ。
「いらっしゃいじゃないわよ。服くらい着なさい!!」
「え?・・あ、ああ。シャワー浴びて・・。」
「髪、凍ってるわよ。・・もう・・。君って・・。早とちりし過ぎよ。良かった、来て。」
彼女はソファに座ると、腕組みをした。足を組んで横柄な態度を取る。文仁君は僕の髪に触れると軽く掴んだ。
「ほんと・・。凍ってる・・。また、火傷するくらい熱いお湯浴びたんだろ?」
「ん・・。火傷はしたことないよ・・。立てる?」
「うん・・。頭、痛くないか?凄い音したよ・・。」
「あ・・ああ・・。大丈夫かな。丈夫だ・・よ。」
彼を立ちあがらせると、彼は僕の腕を掴んだままとぼとぼと歩く。服がある部屋で二人向き合い、キスをした。彼は軽く笑い、僕に着物を着せる。
「あの人が、彼女だった人?」
「あ・・ああ・・。」
「綺麗だな。いくつ?」
「ん・・34。」
「高塚さんより年上なんだ。そう言うのが好み?」
「・・偶然・・。」
ふーん。彼は一つ唸り、部屋を出ていった。僕も後から部屋を出て、リビングに向かう。
「やっだ。君が泰生の子猫ちゃんなのー?イヤー。わかーい。お肌きれー。」
ドアを開けようと手を伸ばすが、そんな彼女の声がして・・。僕は部屋に入るのを躊躇してしまった・・。僕は本当に、愚図で間抜けてトンマで卑怯者で・・。臆病者だ。
「泰生も、夢中になるわよねー。周りが見えないってああ言うこと言うのよ。君を独占したくって。見られたくなくて、でも自慢したいのに話せないのよー。言い寄ってた子達もね、泰生の態度の変わりようにみんな驚いてたわ。ぜーったいに大事な子が居るって。喧嘩してるって言うのもバレバレでねー。」
「・・やめて・・・。」
「何よ泰生。居たの?」
おずおずと部屋に入ると、彼女は丸で知らなかったわ。という素振りで言い放った。僕は立ち尽くしている越賀君を彼女の隣に座るように促すと、文仁君を座らせてお茶を入れにキッチンに向かう。手っ取り早いのは紅茶なんかのお茶だが、時間をかけるためにわざわざドリップ珈琲を入れた。粉を深めに蒸してゆっくりと抽出させる。わざと時間をかけて入れた珈琲をカップに注ぎ、ソーサーをつけて彼女らの前に出した。
「ありがと。君の入れる珈琲は美味しいのよね。たーっぷり。時間をかけてくれるから。」
「・・どういたしまして。何しに来たの?」」
「あら。そんな態度を取るなら、話してあげない。」
ぷいっとそっぽを向く彼女。まあまあと越賀君が肩を叩く。
「樹。冗談にしてはブラック過ぎるだろ。いい加減にしろ。」
彼が一言静かに言うと、彼女は大人しく珈琲を口に運んだ。さすがに、彼の言葉は聞くんだな・・。暫く珈琲を飲んだ彼女は、徐に切り出した。