Heaven 


 「ジングルベェール。ジングルベェール。スッズゥガァーナルゥー。」
何気なくテレビをつけると、まゆらがサンタ姿で歌っていた。
「ねー。聖さーん。」
ベッドから伸びる御厨の手は、俺の腰にクルリと巻きつき腰骨に頬擦りする。猫のように頭を撫でながら、珈琲に手を伸ばした。が、口に入れて飲み下す前に体を引かれ、口移しで珈琲は奪われる。もう一口・・とカップを口に運んだ。
「まゆらねぇ。1年間お休み貰うことになったのぉ。」
テレビの声に、俺は思わず口に入れそうになった珈琲を吹き飛ばした。激しく咽返り、御厨に背中を撫でてもらうが、彼も口をぽかんとあけてテレビに見入っている。
「ウソォ・・。聖さん、これ生??」
「さ・・さぁ・・。」
テレビの中のまゆらは終始ご満悦な笑顔。
「聖さん、大丈夫ですか?」
カーテンを開け、こちらを伺う藤堂は、零れた珈琲を見てすぐそれをティッシュでふき取り始めた。藤堂たちの関係はいまだ修復されないままだが、進展も無い。右手の方は脱臼ですんだ。
「ねー、とーどーさん。これって・・生?」
御厨がテレビを指差す。藤堂はそれを見て、軽く笑顔で、ええ。と答えた。
「ええって・・。藤堂は知ってたのか?」
「何をですか?」
「何って・・。」
「まゆらさん、休業って・・。」
藤堂の手が一瞬止まり・・。
「ええええ??いつそんなこと決まったんですか?」
一同・・。沈黙。藤堂が知らないことを、俺が知ってることは無い・・。
「エーーーーー!!!まゆらチャン???????」
インターホンから聞こえる綺羅の声。おい、ちょっと待て。誰もが知らないのか・・この会社。トップアイドルが勝手に決めたってのか????事務所の電話がひっきり無く鳴りつづけ、藤堂が慌てて事務所に戻っていく。綺羅もかけつけたらしく、電話応対に悪戦苦闘。とうの本人は笑顔のまま、歌の準備に入っていった。
「ねぇ聖さーん・・。チューして。」
「ん?」
「チュ。」
つ、つ、つ・・と体を引かれ、俺は御厨にかぶさる。ちょっと突き出された唇に軽く唇をあてがうと、彼は俺の髪を掴んだ。
「もっと。」
青い目が俺の目を惑わす。もっと。そういわれキスを交わし・・。御厨の手が腰のあたりから服の中に滑りこみ、俺の乳首を摘む。
「ね、感じる?」
「くすぐったい。」
「・・感じてよ。」
誘うその目に惑わされながら・・。彼と舌を絡ませた。
「なぁ、綺羅。そう言えば、まゆらってクリスマスに武道館じゃなかったか?」
「あーー!!??そーだよっ!!」
電話応対に必死な様子で、叫ぶようにして綺羅の声が返ってくる。クリスマスって、25日だよな・・?きょうは・・。もう、16日・・。俺はふと、指折り日数を数え・・・。御厨と顔を合わせた。もう、チケットも売ったし。全て準備は進んで・・。当日を待つばかり。の予定だったような・・。
「そんなことよりさぁ・・。」
俺は御厨にベッドに押し倒され、パジャマの上着のボタンを外された。にっこりと微笑む御厨。俺の両腕を頭の上で重ね合わせ、片手で掴むと、頭はそのまま胸に降りてくる。ペローリ、肌を舐められ、乳首に吸いつかれた。くすぐったさに身を捩ると、彼は嬉しそうに笑う。
「み、御厨、待て。くすぐったい。」
「だーめ。感じて。」
両手は解かれたが、彼の体が俺の体に覆い被さっていて身動きは取れない。ずるずると服を脱がされ、肩。鎖骨。胸と舐められ、手が脇腹を撫でる。感じるというよりはただ、こそばゆい。彼の肩を抱いてやりつつ、テレビを見るが・・。チュッ・・と乳首を吸われ、思わず体をぴくりと反応させてしまった。
「あ・・。み、御厨・・っ。やめろって・・。」
「今、感じたくせに。聖さん、可愛いんだもーん。」
キスを受け・・。御厨の手が服の中に偲びこみ俺の股間に伸びていく。そっと先端に触れられ・・。反応してしまう。鳴り止まない電話のベル。それに対応していく人数も増えたようだ。テレビのまゆらは、カメラが向く度に飛びきりの笑顔を振り撒く。
「もー。こっちに集中してよ。」
御厨は、テレビのリモコンを手に消そうとしたその時・・・。ガシャーン!!という轟くような音とともに、映像が乱れ、まゆらの座る場所の目の前に照明器具が粉々に砕け散った映像が流れた。一瞬固まるが、そのまま気を失うようにして倒れるまゆら。テレビはすぐにコマーシャル映像に摩り替わり流れた・・。
「しゃ、社長!!!まゆらさんが!!」
ベッドから飛ぶようにしており、走っていく御厨。
「え?!」
の、声とともに・・。藤堂等の声が「社長!!!」と響き渡った。


 盛りのクマのように、腕組みをしながらうろつく綺羅。俺の胸に震えながらすがるまゆらを抱き寄せ、背中をぽんぽんと撫でる。
「社長、落ちついてください。」
ホットミルクを運んできた藤堂は、まゆらにそれをそっと手渡した。
「これが落ちついていられるかっ。ま、まゆらチャンが、狙われたんだぞ。」
「・・事故かもしれませんし。まだ、状況は・・。」
「事故だって、まっ・・。」
綺羅はふと、まゆらの姿を見て言葉を飲みこんだ。カップを両手で包み込み、ゆっくりとミルクを口に運ぶまゆら。顔色は青く、目は潤んでいる。小さく鼻を啜りながら、それでも落ちつこうとミルクを飲む。若干、16歳の少女が懸命に意識を保とうとする強い姿勢は痛々しいほど切なかった。
「・・まゆらチャン、大丈夫?」
「うん・・。大丈夫。嫌がらせとか、いっぱい受けてたし・・。でも・・恐かったの・・。」
泣き出しそうな彼女からカップを受け取ると、そのまま俺の胸に顔を伏せて肩を震わせる。途切れ途切れの嗚咽。細い腕に力が入り、震える手が冷たい。優しく抱き寄せながら、藤堂が運んできた毛布に彼女を包んだ。しばらくして彼女が眠りにつくと、マネージャーが彼女を抱上げて六階の自宅に運んでいく。
 
 俺達責任者連は、狭い会議室に場所を移した。ここなら会話を盗み聞くことは出来ないし、窓が無いので狙い撃ちされる事も無い。ふと、その唯一あるドアが開き御厨が入ってきた。
「ねぇ、いろんなとこで事故起きてるみたいだよ。」
小さなメモ帳を綺羅に渡しつつ、御厨は俺の隣に座る。
「本当に事故なのか・・?」
珍しく真剣な綺羅。
「まゆらチャンの公演。中止だな・・。代わりを立てるか・・。止めるか。」
「社長、止めるなんて言わないでください。億単位で損益が・・。」
「他の奴出して、今度人身事故でも出したらどうするんだよ。それこそ損益では済まなくなる。」
トップ連が頭を抱える中、俺はふ・・と煙草をふかした。
「藤堂。珈琲。」
「あ、はい。」
「俺も手伝うよ、とーどーさん。」
「ありがとうございます。」
二人が部屋を出て行く。
「そりゃ、会社にとっては利益を取りたい。だけど、人命には代えられない。」
呟く綺羅の言うことはもっともだ。だけど・・何かが違う。脅迫文に書かれていたこと。あのあと何通も寄せられたものの中にある写真や、中傷。メッセージ。そのどれも、この会社が潰れるのを望むものは無い。綺羅からメモ帳を受け取り、その名簿を見る。ぼんやりと・・浮かぶ・・。犯人像。これだけの事をしてパホーマンス抜群。だが、全てニアミス。傷つけることは無い。いや・・。傷つけようとしてない。脅えあがらせて楽しんでる。愉快犯だ。被害を受けているのは全て女の子。・・。二人が珈琲を運びこみ、全員に配り終えるか終えないかの時に綺羅が口を開いた。
「やっぱり、中止に・・・。」
「いや。代役でやる。メンバー構成は任せるが、女を使うな。」
「ちょ・・。聖・・。」
「本番まで日が無い。動け。」
それぞれ、蜘蛛の子を散らすように走っていく面々。俺は珈琲を啜りながら、右手で唇に触れた。
「藤堂。済まないが、仁也の部屋から俺のベース持ってきてくれないか。」
「・・え・・。あ、はい。今すぐに。」
配膳を御厨に任せ、藤堂は走っていった。
「聖、お前・・。」
「受けてやろうじゃん。あっちが楽しいなら、こっちも・・な。」