コントラスト

    〜 不真面目な天使〜
 「匠斗!あれは?」
「んあ?なに?」
包帯を巻いただけの素っ裸のカイルに揺すり起こされ、寝ぼけ眼にあたりを見回す。現在の時刻は夜の二時を過ぎたあたり。眠い。
「匠斗、起きろ。上着に入っていたものはどこにやったんだ?」
そう言われ、俺は体を起こす。そう言えば・・・。と、今まで枕にしていたクッションを退けると、カイルはすばやくソレを拾い上げ操った。表情は一変する。
「何、何。どうしたんだよ・・。」
「起きて。運転、頼む。ソレから、服は何を着たらいい?」
「その辺にあるモノなら・・何でもいいよ。何だよ・・急に・・。」
カイルの動きから、寝ぼけている暇もなさそうだ。とりあえず俺も着替えを済ませると目覚ましに顔を洗う。
「カイル。腹は痛まないか?血は?」
「・・大丈夫。ソレより、早くしてくれ。」
「おう。」
言われるがままに車に乗り込み、行き先はとある高級ホテル。そのホテルのまん前に車を止め、置き去りにするとホテルマンの制止も聞かずにエレベーターに乗り込んだ。向かう先は最上階。ビップルーム。その階に一足踏み入れると、そこは黒服ガードマンの山・・。俺達を取り押さえそうになったが、カイルの声を聞いて全てのものが動きを止めた。そして、さっきとは打って変わった扱い。俺らをある一つの部屋に案内すると、ドアを開け中に入れてくれた。中に居たのは財界、政界人。テレビで見るような人物ぞろいで、その中を突っ切るようにしてカイルは歩いていく。そして、一番奥の部屋のドアにつくと、カイルは俺に待つように言った。カイルが無茶をしそうで内心は離れたくない。ただ、その有無を言わさないような瞳に圧倒され、俺は息をついた。
「くれぐれも無茶はするなよ。ちゃんと後で説明してもらうからな。」
カイルは軽く笑うと自分でノブを回し、部屋に入っていった。閉められたドアに耳を押し付け、中の様子を伺おうとしたが全くわからない。仕方ないので、そっとドアを開け、気がつかれないよう中に忍び込む。また、会話は英語だ。言っていることがチンプンカンプンだが、緊迫している様子はない。ひとまず、安心・・か。
『・・カイルか。久しいな。』
『ええ。お久しぶりです。今回、このような国に何ようですか。』
『言わずと知れたこと。ビジネスだよ。事業拡大。この国は裕福だ。』
『・・ええ・・。そうですね。だけど、あなたには限度を知って欲しい。』
『ソレがなんの役に立つ?お前の母親の国を食い物にするな、とでも言うのか?』
『・・叶うのもなら望みます。』
淡々と語られる言葉。物音がしないだけ、事は安全に進んでいるのだろうか。
『そう言えば、お前。あいつらを殺ったそうだな。何故だ?』
『前々から気に障っていたものですから。ブツに手を出していたので、都合よく消させていただきました。もうすこし、品のあるもの達を傍に置いたらどうですか。』
『いや、あれはあれで使えてな。まあ、お前の気に障ったなら仕方ない。始末はつけておいた。』
『ありがとうございます。』
ドアから外れたあたりの壁に背を押し付け、話を聞く。ゆっくりと・・・開いていくドア。そこから現れたのは、口元に指を置いた一人の男。どこかで見たことのある・・痩せた・・外人。見覚えのあるその顔は、・・そうだ。あの時、あの帆船修理場で腰を抜かしていた男!!思わず叫びそうになって俺は男に口を塞がれた。そのまま、男は胸ポケットから警察手帳をかざす。驚いている俺に、静かに。といわんばかりの行動をして彼は部屋に入り、ドアを閉めた。
男は、手帳に何やら文字を書いて俺に見せる。そこには、平仮名で『かいるはどこだ」と書かれており、俺は部屋の中を指差す。奴は眉毛を上げた。
『失礼ですが、一つ・・質問をしてもいいですか?』
『ん、何だ。』
『あなたは私にこの名をつけたとき、どのように成長して欲しかったんですか?』
はっはっはっは。そう笑い声が聞こえた。話は何やら、愉快なのだろうか。
『勿論、私の後を継がせるつもりだったさ。まあ、警察という法律の犬になりあがったときは殺してやろうかと思ったが、今は便利だな。使える息子だ。』
『・・。カイル。ソレは、母が読み間違え、書き記したからそう付いただけ。私の名は、・・。』
『ん?』
『C・O・I・L。コイル。では?』
『・・お前、何が言いたいんだ。』
『あなたと繋がったものを、立ち切らせるために来た。さよなら。』
そんなカイルの声に反応してか、後から入ってきた男は突然部屋の中に飛び込んでいった。ソレを追いかけようと足を踏み出すと同時に聞こえる一発の銃声。慌てて部屋に入り、床に転がっているカイルを抱き起こすと、カイルは俺の胸に顔を埋めた。
目の前に広がるのは大柄でふくよかなスーツの男が、細い華奢な男に取り押さえられ手錠をかけられている姿。銃声からか、部屋の中に雪崩れ込んでくる黒服の男達。男達は、その手錠をかけられたふくよかな男を部屋から連れ出していった。あっという間の出来事に、目を回しそうになる。カイルを抱き起こして立ちあがらせるが、彼は俺の胸から顔を上げなかった。俺の服が、何かに濡らされているように・・冷たい。
「シー。全く、お前は無茶をする。あいつ一人殺したところで、事は終わらないってわかってるんだろう?全く・・。それに、その体で・・。撃たれた個所は大丈夫なのか?」
男はふてぶてしく弾丸のように口早に語った。ようやく、俺の胸から顔を上げるカイルは、深く一息をつくとただ一度だけ頷く。
「いくら役付きだからといって、無断で突っ込むのはどうかと思うぞ。」
『・・あいつだけは・・。この手で、終わらせたかった・・。』
「はあ・・。」
日本語と、英語の入り混じる会話。カイルは、また俺の胸に擦り寄り・・。
『ほら。いちゃいちゃしている暇があったら、即刻本国に戻って治療しろ!!」
「・・。ディーの・・薄ら馬鹿。」
『はあ?なんだそりゃ。」
「・・なんでもない。」
ディー。と呼ばれた男は、呆れ返りながらカイルの肩を掴み、一緒に歩き出す。
「ちょ、ちょっと待てよ。俺は?」
「ああ。帰っていいぜ。バイバイ。」
「バイバイって・・。おい、カイル!!」
カイルはゆっくりと振り向き、もと来た道を戻ると、俺の頭を下げさせてキスをねだり・・。唇を合わせるだけのキスを交わし、軽く微笑んだ。
「向こうで処理が済めば、またくる。今度は・・忘れるためじゃなく、体に刻み付けて。」
そう耳元で囁かれ、俺は一人赤面した。踵を返し、部屋から出て行くカイルを眺め、俺は一人残されたが、どうにもやりきれない気持ちでいっぱいだった。
 次の日から。俺は英語の猛勉強をし始めたのは言うまでもない。


 「だーかーらー。発音が違うんだって。」
「発音?」
「ふぅ・・。」
だめだコリャ.と言わんばかりの立花の顔が、目に焼き付いて離れない。気分が悪い。
署の机にかじりつき、ヘッドホンをしながら英会話レッスン。駅前留学にしとけばもう少し上達するのだろうか・・。うーむ・・。文法・・。筆記体・・と。わからない事ばかりで首をかしげていると、ヘッドホンを掴み取られた。そこには課長の苦虫を噛み潰したような顔。
「げ・・。」
「げ、じゃない。何度呼べばわかるんだ??笹川。お前という奴は、客の相手をしているのが一番の仕事らしいな。警察には向かん!!」
首を縮め、ポータブルCDプレーヤーの電源を落とす。あれからもう、1年が過ぎようとしている。何の連絡もないまま、1年・・。俺は元の職場に、あの一週間が何事もなかったものとして扱われ、普段のままの生活に戻りつつあった。あのときのカイルは、まさに客人。彼の気がすむように街案内をし、彼をエスコートしていればよかった。ということになっていた。
ただ、立花が入手した英字新聞には、カイルの顔と、あの太ったおっさんの顔が写真で載せられており、いまだ、中身は解読不能。立花は読めるが、全て英語で読んでくれた。和訳は俺自身がしなくては意味がない。と・・。はじめぐらい、手伝ってくれたってよさそうなもんだがなぁ。
「笹川・・。貴様、聞いているのか・・???」
「は、はひっ。」
全く聞いていませんでした。・・なんて言ったら殺される・・・。
「ネクタイを締めろ。上着を着て・・。空港に行け!!」
「エー。またっすかぁ・・?何も俺じゃなくても・・。」
「お前意外、暇そうな奴はいないぞ・・。笹川。」
こにやかに微笑む課長は・・。今にも血管打ち切れそうで・・。
「いってきまーす・・。」
どんな人物を呼ぶのか、時間も聞かないまま、公用車を借りて車を走らせた。
空港の駐車場で、面倒くさかったが、言われるがままにネクタイを閉めなおし、着たくもない上着を羽織る。
ため息をつきながら空港に入り、何か人待ちをしていそうな人物を探した。ふと、目に付く人だかり。なんだか・・。懐かしい。ああ言った中に、カイルは静かに座っていた・・っけ。記憶を呼び起こされながら、また野次馬根性でその人だかりの中を覗く。そこには・・。
腰ほどもある長い金の髪の、細く華奢な人物が大きな窓ガラスの外の景色を眺めていて・・。今回は座ってなく、そのガラスに細い指を触れさせ、遠くを眺めている。
その・・窓ガラスに触れる右手首の時計。あの視線の向け方・・。あの・・立ち姿・・。
「・・カイル・・。」
思わず、小さな声で呟くとその人物は俺のほうを向いた。長い髪を揺らしながら近づく。
「遅いね。相変わらず。」
「・・カイル・・。」
鮮やかに微笑むその顔は、いつかもらったあの写真よりずっと・・素敵で・・。
「どうしたんだ?ぼーっとして・・。」
「・・。今度は、何のようだよ。あのときの話も聞かせてもらってないしな?」
「君の署に行けばわかるよ。」
「って・・おい!!」
前を歩くカイルを追って、公用車の前に立つ。運転は俺で・・。後部座席にカイルを乗せて。
車の中では終始無言。ただ、違うのは、車の中でカイルが煙草を吸っていること。
車を降りる前に、彼は長い髪を一つに束ね、「きっと驚くよ」と言い残して行った。
まず、俺の部署の課長に敬礼するカイル。
「昨年は、ありがとうございました。これから、よろしく。」
そういい、カイルと課長は警察署のエレベーターに二人で乗っていく。課長だけが戻ってきて、俺の肩を叩くと、最上階に行ってこい、と呟きガラス越しの部屋に戻っていった。
俺は首を傾げつつ、エレベーターに乗り込む。最上階、といわれたので、一番上のボタンを押したが、・・・。ソレって・・・。この土地の、警察官の・・最高地位じゃないですか?
エレベーターのドアが開き、俺は何もしていない・・と首を傾げつつ、始めて訪れるじゅうたんを踏んだ。この階には部屋は一つしかない。その、重厚そうな扉の前で息を呑み、ノックをすると、扉は開かれた。大きな一枚ガラスの前。偉そうな席に座る人物。・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「やあ。匠斗。座りなよ。」
言われて、黒いソファーに腰を下ろすと、秘書のような女性がコーヒーを運んできた。
彼女が去った後に、その人物は俺の前の席に腰を下ろす。
「英会話習ってるんだって?上達した?」
「・・・。な、何でだよ・・・。なんでお前がここに・・。」
「去年から無理を承知で転属願いを出していたんだ。まあ、地位としてはランクは下がったようなものだけど、・・満足してるよ。」
「・・そうじゃなくって・・。」
「あれ?聞いてなかったかな。私の半分は日本人だって。国籍もあるし、無理な話じゃない。それに、前々からここのポストが空くって話は聞いていたからね。」
「・・・・。」
それに、簡単に入り込むことができるこいつの立場って・・・。俺・・。すげえ人物と・・。
「・・。なんで髪伸ばしたんだ?」
ふと、疑問に思ったのをつい口に出してしまった。短い髪も・・綺麗だった・・。
「ああ、あの時は動きにくかったから切ったんだ。普段は、動かないようにと、枷のつもりで伸ばしているんだけど・・。ほら、匠斗のポケットには長い髪の写真が入ってたし・・。」
コーヒーを口に運ぶカイルの手には、少し大きめの傷跡が残っていた。あの時は、何もかも必死で・・。今思えば滑稽だっただろうか。ううーむ・・・。
「なあ・・。あのときの・・わけは・・?」
「あれ?英語・・。」
「・・・・・。」
「新聞に全部書いてあったはずだけど・・。立花君に聞いてみれば?」
「自分で読めってさ。」
「ふふ・・。彼らしい意見だ。じゃあ、私も教えない。」
「何でだよ。約束したじゃないか・・。」
「したよ。でも、その約束は・・。
           この体に、一生残るように刻み付けて。」
机を挟んだだけのこの距離感は・・・。
 俺はその誘惑に、叛けない。
 手を伸ばせば触れる距離と、1年ぶりという・・・感覚。
  色鮮やかな対比の中渦巻く明暗は・・。
    小意地の悪いエンジェルの手の中に握られているのだろう・・・。





                                         終わり




笹川匠斗 ささがわたくと 
 33さい  182センチ
カイル・ハウザー  
 カイルの綴りは C らしいね。
  27さい  176センチ
 なにか、ど偉い人みたいだけどさ。
立花
  医者。詳細なし。
  ・・・いい人かも。
  いつか、どこかでカイルと繋がりがある・・・のか??
ディー
  代・・何話かで、出てきて腰を抜かしてたチンピラ。
  潜入捜査中だったんだけど、
  偉い人が出てきて二度びっくり。
  その方にタメ口を聞く、べらぼうな方。
  日本フリークか。彼は、日本語がお好きな様子。

〜注意〜
 カッコ 『 』 は、英文だと思うように。
 読めるが、読めない振りをしよう!!
 高校のとき。いや、中学から。英語を捨て去っていたためにこうなる・・。
 今思うと、必要だけどねぇ。
 日本語もろくにできないので、まあ・・いいか。←何が?と突っ込みは遠慮。


事件の詳細は、バレバレだから書かない。
それに、事件自体終わってないし・・。