ニュータイク通りを斜め前に見て、裏路地を彷徨うとイデムと言う名の怪しいものを扱う店があり、いつもクローズと札の掛かるそのドアをピッキングで無理やりあけて、店の中に入った。ドアを閉めると自動的に鍵が閉まり、薄暗い小さな部屋の奥にカウンターが見える。そのカウンターを二度拳で叩くと、その店の店主、ニグロが現れた。彼は一見優男風の痩身、痩躯。背は高い。無表情のまま俺と顔を見合わせると、カウンターの中からごそごそと荷物を取り出した。
「ハイ。頼まれてた品。・・どうするのっ・・て、企業秘密か。銃を使えばいいのに。うち、品揃え悪くないはずだよ。」
「銃は嫌いなんだ。サンキュ。あ、それから、これ・・あるか?」
うちから持ってきたナイフカタログの一つを指差した。以前、買ったのだがあの女に洗濯機で洗われたため、使用不能になった。ベルトのバックルにナイフが装着してある品で、何かと使える。それともう一つ。ルアーキーホルダー型のナイフ。これは・・趣味。両方ともすぐに手に入り、金はカードで支払う。
「何か楽しそうだね。僕も参加したいぐらいだ。」
「いや、何、今回はちっぽけなものだよ。例の組織とは関係なさそうだし。」
「・・そっか。」
ニグロはふっと溜息交じりの息をついた。こう見えて、好戦的な男だ。
「それよりも、このあたりでマネキン扱ってる店しらねえか?」
「マネキン?そんなの店に行けばいくらでも。・・・あ、ああ。あるある。オリって言うマネキン製作所。噂なんだけど、そのマネキンのモデルにならないかって言う話があるらしいんだ。」
「ほー。いい噂だな。男はやらんのか?」
「マネキンに男って・・。在るけど。そんなの、ただモッコリさせとけばいいだけだろ。」
「なら、女の形に・・モデルが要るのか?」
「ああ、あれはね。毎年人の体のデータをとって、その標準型を合わせるって言うところがあるよ。官能的なラインとか、服を良く見せるとか。」
「・・・・よく知ってるな。」
「もちろん。そのタイプの品も取り揃えております。夜に不自由してない?」
「べつに。ンじゃ。またくる。」
帰りはカウンターを潜り抜け、その奥のドアを開けるとあるブティックのトイレに繋がる。そのトイレで物品を身体に装着させて、何事もなく出て行ける。そのブティックでは、俺はお得意さまなので怪しまれはしない。ということになっているが、店の女主人とあのニグロが夫婦という・・・。巧妙どころか、簡単で間抜けな仕組みだ。でもまあ、間抜けな仕組みの方が怪しまれにくい。のだ。
ニュータイク沿いのオープンカフェでカタログを眺めつつ、優雅を気取る。ま。眺めているのは、あのフラネルロ嬢だけど。もともとスパイをしていたらしい。どれが何処まで本当のことかわからないけどね。彼女は俺を見つけるや否や、近づいてきて目の前の椅子に腰を下ろした。
「よう。」
「・・なにがよう、よ。ここで逢いたいって最初から言えばいいじゃない。意味深なこと言い残して・・・。」
「別に逢いたいわけじゃねえよ。毎日毎日顔を合わせてんのにさ。外に出たら、他の奴をナンパするって。」
「・・・。で、何のようなの?」
冗談の通じない女だ・・・。
「ここらあたりで、マネキンのモデルを募集しているんだそうだ。」
「で?」
「募集中だってば。」
「行けって言うの?この私が?」
「だって、俺、男だし。」
彼女は突然、ニンマリと満面の笑みをたたえた。
「あんたが行ってくれば?イイコトしてあげるから。」
彼女は突然俺の腕を掴むと、俺の行きつけの店に入った。そこで・・・・・・・・・・。
「あら。よく似合うわよー。いい女になるじゃなーい。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。絶句中。鏡の中の俺は・・。フラネルロの姉妹のような姿だ。矯正下着のようなものを着せられ、バストは大きく張り・・。邪魔。ミニ、なのだろうか。腿を見せびらかしたような短いデニムのスカート。長い髪のウィッグ。否応無しに取り外された額のアイマスク。ベルトや小物だけは何とか死守したが、なんとも動きにくい。
「やっぱり、似合うわよ。素質あったんじゃない?」
「・・ふざけるな。」
「ほーらほら、そんな大股開きじゃレディーが台無しよぉ。頑張ってね。」
オーナーに背を押され、飛び出てしまったカーテンルーム。客の視線がくぎ付けになり、照れ隠しに髪をかきあげた。しっかし、こんな格好で潜入操作・・か。遊んでるんじゃねえんだけどさ・・。
「ちょっと、なに色気振りまいてるの?行くわよ。」
しぶしぶ歩き出す通り。ニュータイク通りに突っ立ち、ぼんやりとビルの壁に体を預ける。
「でも、あんたって妙に素直よね。頑固だったりするけど。」
「・・女に適う男がいるかよ。」
「ふぅーん。」
意味ありげに唸るフラネルロ。そういえば、彼女も女の一人・・か。ちらり、と横目で彼女の横顔を伺うが、なんだか照れくさくなり見るのをやめた。女同士で見つめているとなんだか・・。あのときの仕事の続きをしているようで照れる。そういえば、彼女と出会ったのはあの仕事の最中だったっけか。まあ、いいや。忘れよ。
「お嬢さん方。ちょっとよろしいですか?」
「なぁに?」
声をかけてきたのは痩せ型の背の高い男。首から「モデル募集」の札をかけ、手には山のようなチラシを抱えている。隠してはいるが、少し・・影の残る性格だ。フラネルロが対応しているが、男の方は声をかけてきた割には反応が鈍い。俯き加減の顔。上目遣いの視線の下には隈。痩せガリの割には、筋肉質なんだろうと思われる腕の筋・・と。
「ねぇ。どうする??マネキンさんのモデルだってぇ。」
「・・。」
「あたしたちの体がショーウィンドーに飾られるのって、ちょっとエッチよね。」
俺はただ、穏やかに微笑んで頷いた。話し掛けてきた彼に手を差し伸べ、握手を交わす。やはり彼は・・。
「では。ついてきてください。」
ぼそぼそ喋るくぐもった声。覇気というものに欠ける。しかし、都合よく事が進みすぎてることは事実。か。フラネルロが居る手前用心にこした事はないけど、虎穴に居らずんば虎子をえずってどこかの確言だ。
「ねぇ・・。大丈夫よね?」
「さあね。楽しもう。モデルとやらを・・・。」
呆れて首を振る彼女を宥めつつ、彼について歩き始める。案内された場所は、大通りから程近くある、つまり裏通りの寂れたビル。一応看板つき。
「オーグマネキン製作所。」
ポツリ読むその看板の名前。周りを見渡しつつ、潜入・・成功・・。
こんなところで人物紹介もなんですが・・・。
ルネ・モール・ロウ
訳のわからない男。一応、語りでのような主人公のような・・。
掴みやすいような、掴みにくいような。
もともと、刑事さんだったらしいですけどね。
裸で眠るのは・・殺されたとき、不便ですよ。
レディー・フラネルロ・バース
いい女。ってモノを連想してください。
ワンレンで、唇が赤い・・・。しなやかな腰つき・・。などなど。
いわゆる。悪女って者ですか。
ルーブル警視
主人公の同期だったらしい人物です。
主人公を頼りにしているんですが・・・。
警視になるには、ちょっと早すぎですかね・・って年頃。
ルネさんとは同い年。・・だと思っております。・・彼は謎が多いですからね。