「ねえ、るね。僕の研究は、無駄なのかなぁ・・。」
はっと息を呑むように飛び上がった。白昼夢か、俺は寝ていたのか・・・。髪をかきあげると、天井を仰いでため息をついた。
あの妙な事件が相次いだのも、もう9ヶ月も前の話だ。
あのときの妙な雰囲気のセックスで、フラネルロは見事妊娠。出産を控え、なにか浮かれている。見れば見るほどでかい腹だ。それをいとおしそうに撫でながら、雑誌に目を通している。あれから一件の奇怪な事件はなく、ルーブルからの連絡もない。あの妙な人物からも・・・。
妙な夢のようなことに思いを巡らせつつ、また息を吐いた。
「なによ。誰も認知しろ、なんて言ってないじゃない。」
「あー?して欲しいのかよ・・。」
「頼んでないっ。」
イーっと歯を剥き出しに威嚇されたが、彼女の思いは腹の子供にあるようだ。
俺はふと、前の事件を思い出す。
人形にされた女達。
ただ、一人。その消息は掴めないまま。
血を抜かれた人間。
栄養が補充された生き血と、心臓・・。好む血液型は・・・。
AA、AO、BO、OO。
ダグラスが何故、拒否されたのかといえば、若い肉体でなかったため。
仕事の疲れからか、食事もろくに摂っていなかったのだろう。
あれから事件がないのはなにか不安だ。
「ねえ、なに怖い顔してるの?」
「あ?」
「・・っっっつつつ・・。」
ふと、話し掛けてきたかと思えば突然腹を抱えて痛み出す彼女。
「なに。どしたの。」
「・・う・・・・・・・。」
「う?」
「生まれるのっ!!!」
「・・何が。」
「ばかぁ!!病院つれてってよっ!!!」
・・・。病院。そう云われ、意識混濁もそっちのけで、腹のでかい彼女を車に乗せ、言われるままの道を辿って病院に直行した。
白衣の天使に見とれる暇もなく、フラネルロはベッドに乗せられて長い廊下を巡る。
ある部屋に彼女は入れられ、俺はそこでしばらく待つ羽目になった。
廊下の隅に設置されているベンチに腰を下ろし、周りを見まわす。
そこには三人程の男が熊のようにうろついていたが、それぞれ何かそわそわした様子だ。
何時間ほど待つのかと聞けば、首を傾げるばかり。
仕方なく、俺は病院の入り口まで戻り自動販売機で珈琲を買い、彼女が入っていったドアの前まで戻ると、どこかの部屋の中からオギャーと産声が聞こえ、熊のようにうろつく男達は目を見開いた。三人ともが同じ病室に入っていく。
珈琲を口に沿えつつベンチに腰をかけようとした途端、部屋の中から聞こえる男達の声。
「ほら、俺の子だ!!」
同時に同じ言葉を発する三人の男。父親が誰だか確認しに来ていたということだ。しかし、三人が三人とも自分が父親と名乗るのだから、母親になった女はさぞかし美人・・か、人が良いのか。もてるのには違いない。
ぼんやりと珈琲を飲みながら・・。どのくらい経ったのか。
途中で居眠りをしながら、外を見やればもう夕暮れ。彼女を病院に連れ込んだのは朝だったような気がする。そういえば、腹が減ったな・・。朝から珈琲一杯じゃ、当たり前か。
俺はしぶしぶ、彼女が入っていった部屋のドアを開け、飯食いに行くぞ、と告げようとしたが、激しい産声にその声はかき消されてしまった。
ようやくのご誕生・・らしい。その声の煩さに耳を覆いたくなりつつ、彼女の横に立つと、真っ白な布に覆われた子供を抱かされた。小さく、ぐにゃぐにゃの軟体生物・・。
「よう。おれ・・腹減ったんだけどさ。」
「あんたねー。感動の言葉はないわけ??パパになったのよ??」
「・・まあ。オメデト。」
小さなぐにゃらとした赤い生物の髪は見事な金色。瞳は鮮やかな空色。・・。
どこかで・・見たような・・。
「おい、これマジで俺の子?」
「ちょっと・・。まだ言ってるの?いいじゃない。」
「・・。」
看護婦に子供を返し、俺は部屋の外に追い出された。
2時間の検査の後に現れるフラネルロと子供。彼女の顔はやけに穏やかで、母親になった喜びをかみしめているらしいが、俺にとってはなんだか気味が悪い。
いや、怒られているほうが普通というか・・・。なんだか、間の抜けたような・・。
そのまま家に戻れると思ったのだが、何かしらの買い物に付き合わされ、帰宅したのは夜の10時過ぎ。俺のことに目もくれない彼女を横目に、俺はあたりのものをかき集めて食事を摂った。
子供の色彩・・。金色の髪の・・。青い目の・・。ここいらでは当たり前にいるようなその色彩。だけど・・。どこかで見たことのある感じで・・。
「いやね。なに睨んでるの?子供がそんなに疎ましいわけ??」
「・・違うよ。それに、良く見りゃいい男だ。」
「ふぅーん。」
彼女は子供を抱き上げると、そのこの顔に唇を突き出し、キスを迫っていた。
「ねぇ。名前は決めたの?」
「あのさぁ。何で俺に言うわけ??お前の子だろ?」
「私だって考えてないわけじゃないけど。貴方に付けて欲しいのよ。ルネ。」
改めてファーストネームを呼ばれると、ドキッとする。彼女に感づかれないよう、ごくりと喉をならし溜息のような吐息をついた。
「るね。僕が・・ったら、・・思い出してね。」
「・・・・・・。」
「誰も・・知らないんだ。」
「・・・・・」
「僕は・・。」
「・・・ディー・・・。」
白昼夢のように脳裏の中を巡り流れ込む言葉。子供をあやしていたフラネルロには感づかれなかったようだが、俺は小さく首を振った。
思い出しそうな人物。あれは・・。とても懐かしい。いつか、失ってしまった・・気がする。
いや、・・。顕在するのかどうかわからない。知らないわけではないのだろうけど・・。
「ねー。あんた、本当にこの子の名前考えてるの??男の子なんだからね。」
「ん・・ん、ああ。」
脳裏の中の人物。僕。と名乗るのだから、常識的に聞けば男なのだろう・・。金の髪の青い瞳の持ち主。顔はまだ、少し幼く、線が華奢で・・。大きな瞳で・・。俺は・・。
「・・ディー・・。」
「あら、いいじゃない。よかったねー。君の名前はディーだぞ。」
ポツリと口にしてしまった声が、彼の名前になったようだ。ディー。俺は彼のことをそう呼んでいた。何故だか・・。忘れた。
「ねえ。スペルは?」
「・・んん?ABCDのD。・・なぁ。お前、ダラスって知ってるか?」
「えー?ダラス??目の前の公園の石碑に刻まれてると思ったけど・・・。もしかして、そこから付けたの?」
「・・・。ダラス・・・。石碑?」
「そうよ。世界のあちこちにあるじゃない。うーん。なんだっけ。」
彼女はしばらく考え込んでいたが、突然思いついたように目を見開いた。
「そうよ。そう。失われる前の世界。そう呼ばれていたって言う土地の名前。」
「・・は?」
「石碑よ。百年ぐらい前、世界が一度滅んだの。」
「・・・。??」
「あのときの事を忘れたがって、誰も話そうとしないんだけど・・。そこで、全てをまっさらにして、世界を造りなおしたって話。あら。ぜんぜん知らないの?」
「・・。ああ。知らない。」
「やめて!!!!」
突然叫び声が頭に響き渡り、俺ははっと息を飲んだ。その拍子に驚いたのか子供が泣き始める。俺は・・しばらく頭を抱え込んだ。
百年ほど前かどうか解らないが、俺はダラスの街にいた。そう、どこか、冷たい地下室のような無機質な場所にいた。長い黒髪の男と・・。金の髪の[ディー]と。
街が壊れていく様を・・知ってる。覚えてる・・。
忘れていた・・?全て・・・。俺は・・・???なんだ・・っけ・・。
「ディー。いい子ね。泣かないで。ご飯かなぁ?」
泣きじゃくるその声・・。脳裏の[ディー]とシンクロする。
「ディー。もう、泣くなよ。お前はここにいるんだから・・。」
彼女が抱く小さな命に手を伸ばし、その髪を撫でる。手に触れる柔らかい髪質・・。
「お前・・。もう、・・・自由なんだから・・。」
「・・ルネ?」
「・・寝る。」
子供に触れた手をぎゅっと握り締めながら、俺はソファに寝転がった。子供は落ち着きを取り戻し、彼女に見をゆだね始める。
「ルネ。あんたって時々、詩人みたいなこと言うのね。」
「バァカ・・。」
ごろりと横になった俺は、吸い込まれるようにして眠りに入っていった・・・。
こんなところで人物紹介もなんですが・・・。
ルネ・モール・ロウ
訳のわからない男。一応、語りでのような主人公のような・・。
掴みやすいような、掴みにくいような。
もともと、刑事さんだったらしいですけどね。
頭から電波を飛ばす。アナタは・・機械ですか・・??
レディー・フラネルロ・バース
いい女。ってモノを連想してください。
ワンレンで、唇が赤い・・・。しなやかな腰つき・・。などなど。
いわゆる。悪女って者ですか。
ディー
ルネとフラネルロとの間に生まれた子供。
金の髪に青い瞳の持ち主だが、
はてさて、どちらに似たんでしょうか???
ルーブル警視
主人公の同期だったらしい人物です。
主人公を頼りにしているんですが・・・。
警視になるには、ちょっと早すぎですかね・・って年頃。
ルネさんとは同い年。・・だと思っております。
・・彼は謎が多いですからね。
とても,金持ちらしいです。
ダグラス刑事
O型。
特徴といえば・・。グレーのスーツ??
ようやく名前が出た彼である。
まだ。名前がない。
男女の区別もわからない謎の人。
季節は・・どうか。わからないんだけど。
コートを着ているんだね。