「ねえ。あなた。あの人、ボールペン忘れていったわ。」
妻のシェリは長い茶色の髪をかきあげながら小さく笑った。その細い指に摘まれているのは青いラバーペンで、よく使いこまれているのか部屋の明かりにキズが反射している。
「ああ。そそっかしいなぁ。あいつは・・。届けに行って来るよ。」
「なにも今行かなくてもいいでしょ?今日はラティスの誕生日なんだし・・。」
「ああ、すぐに戻るよ。あいつ、これが無いと部屋中をひっくり返しかねないからな。」
シェリからボールペンを受け取り、その頬に軽くキスをして俺は笑った。暖炉の上に飾られた家族写真。俺と、シェリ。その真中にいる少女が愛娘のラティス。今日で九つになる。彼女が学校から帰ってきたら、食事にいく約束をしていた。時計を見ると、後1時間ほどで彼女は帰宅する。俺は車のキーを手にすると、足早に家を出た。田舎に越してきて半年。はじめて彼女の誕生日を迎える。空を見上げると外はまだまだ鮮やかに晴れ渡っていて、ラティスは道草が好きだから、遅くなるかな?
あいつの家までは往復したって10分もかからない。途中の道で歩いているかと思ったが、見当たらなかったのでそのままあいつの家に直行し、ポストの前にボールペンを置いた。親父さんからもらった大事なものなんだろ?頭の中で呟いて苦笑しながら車に乗り込むと、もと来た道を引き返した。彼女が選ぶプレゼントは今年は何だろう。どんな顔をして笑ってくれるかな。・・。もう、九つ・・か。シェリと結婚して5年。ようやく授かった命。でも、いつか嫁さんに・・。なんて考えている俺は自分で自分を笑った。俺もシェリを彼女の父親から奪い取った。みたいに思われてるのかなぁ・・。
家では禁止されているタバコは、車に隠し持っていて、それに手を伸ばしてライターで火をつける。一瞬、前方から注意を背けた。ほんの・・一瞬。顔を上げたときには、黒い髪のコートを着た人が目の前にいて、俺は思い切りハンドルを切った。車は辛うじてその人物を避けたが、そのまま立ち木に激突。俺の意識は走り去るように遠ざかっていった・・・。
「ねえ。大丈夫だよね。カーク。」
「ええ。貴方が作り上げるものに失敗はありません。」
「・・そうだといいんだけど・・。」
そんな声に気がつき、ゆっくりと瞼を開けると、金の髪の少年が俺を見下ろしていた。その後ろにはひきそうになった黒髪の人がいる。
「ああ。よかったぁ。体に不都合はない?どこか痛い?」
・・知らない少年。体に異常はないか。と聞かれて、手を動かしてみる。体を持ち上げると、全裸で机状のものの上に寝かされていたときがつくが、どこにも傷跡がない。俺は・・。あの時・・。車で立ち木にぶつかったはずじゃあ・・。
「博士が聞いているんだ。答えろ。」
「え・・あ・・。うん・・。はい。どこも異常は・・ないみたいですけど。」
黒髪の男に凄まれ、取り敢えずは答えたが、異常がないこと自体が異常で・・・。
「よかった。」
「・・ところで、ここは?」
「ここはダラスの地下。外に出られない意外、不自由はないから。」
「・・ちょ、ちょっと待てよ。外に出られないって・・、どうしてだ?俺は・・。」
「外ではお前はもう死んでいる。死んだ人間が外に出てしまうほうが不都合ではないのか。」
少年と青年が交互に語り・・・。俺が・・・死んだ人間という。では、この体は一体なんだ。俺は幻や夢に翻弄されているのか?シェリは?ラティスは・・・?
頭の中がどうにかなりそうだ・・。
「僕はデビル・ディアス。いつからかそう呼ばれてる。彼はカーク。僕が作ったロボット。貴方は?」
「・・・・・・・・。忘れた・・よ・・。」
「記憶障害でしょうか。脳に外傷は・・。」
「ショック状態・・かな?君が連れてきてくれたときには、もう心停止状態だったけど・・・。」
交わされている言葉は・・現ではないような気分だった。
俺は地上世界では死んでいて、この体は脳を使い擬似的に作られた機械だという。そんなものに馴れるまで、何年を要しただろうか。体は機械だというのに、脳は有機栄養素を要求する。食べなければ脳が死ぬらしい。
少年は、青年になりかけ、いつも忙しそうになにか研究に没頭していた。地上部からの命令だとカークはいう。俺の存在は地上部にも伝えられてはおらず、存在するようなしないような腑抜けた立場だ。ただ、何の不自由もない。・・・。妻と娘に会いたい・・だけ・・。
「ねぇ。見て見て。ちびカーク!!」
子供のように走りよって来ては、新製品。と研究している完成品を見せる少年。面倒なので、俺は俺を[ディー]と呼んでいた。ダラスの土地の地下に住むドクターでもある科学者のデビル・ディアス。彼の精神面は子供のまま成長がない。大きくなった掌の中の、小さなロボットは奇妙なダンスを披露してくれた。玩具製造に力を入れているのだと思っていたが、彼の買主は政府で政府は・・・。人を殺す道具を造らせている。要人のみを残し、世界を壊す。それは直接伝えず、子供の彼に面白おかしく伝え、子供が玩具を作るが如くに試作品をばら撒く。カークはディーの言葉に一切の疑問も持たず逆らいもしない。絶対服従の話し相手・・。それに気がついたのは、ある一つの通信を耳に入れてしまったときからだった。
俺はいない存在。居てはならない存在。だから、いくらその事実を知ったとしても動けない。俺は・・。ずるい。地上に居るはずの妻と娘。それと、親友のあいつだけをカークに頼んで安全な場所に避難させた・・。生き残って・・何ができるという。絶望を見せ付けるだけだ。ぐるぐると回る・・思考。
「ねぇ、あれって・・。どうやって遊ぶんだろうね。」
「・・ん?何が?」
「だって・・。あれは、ロボットに組み込むんだよ。僕、チップは作ったけど、ロボットを作ってないもん。」
「ちびカークは?」
「おじさんたちに上げてないよ。君に造ったんだから。」
「・・・俺に?」
「うん。だって・・。君はここに居る以上、死ぬことはないから。寂しいでしょ?」
地上から送られる食事を頬張りながら、あっけらかんと彼は言い放った。そう、彼は普通の人間で、俺は・・・。脳のみが人。その脳も、ややこしい機械やらなにやらに守られていて、老化しないそうだ。
「カークは?」
「僕が居なくなれば自動的に眠る。」
「・・ふーん・・。」
何気なく聞くような話でもないような気もしたが、俺は聞き流した。
ディーの研究も大洲目を迎えたあたりで彼は時々気を失うように眠りにつくようになり、カークの起動もやや不安定になってきていた。ちびカークはそんな中、俺を楽しませようとしてか踊り始めるが、飽きるものだ。
「なぁ。ディー。」
「うん?」
「俺に、そのチップを壊す役目をくれないか?}
「え?どうして?僕、せっかく作ったのに。僕の研究なんて役に立たないのかなあ?」
「・・。いや。いずれ、そんなもの要らなくなるだろうから・・。完璧なものを壊すには、造り主が手を加えたほうが壊れやすいかなぁ・・と。」
そう話している矢先でも、彼はうとうとと眠り始める。そんな中。俺は一つのチップを手渡された。
「あれが・・要らなくなる世界になればいいね。僕、そんな世界を見てみたかったな・・・。」
「・・・ディー?」
「僕ね。一つ君に聞きたいんだ。」
「何?」
「名前・・思い出した?」
「・・。ルネ。なぁ、ディー?・・ディー?」
「・・うん・・。ルネ・・・。君と・・居てね。嬉しかった・・。もう一度、外に出てみたかったなぁ・・。」
椅子の背もたれにもたれる姿勢のまま、彼の頭はコトリとうなだれた。俺は医者じゃない。彼を・・助けることはできなかった。項垂れたディーをカークは静かに抱き上げ、俺が一度も入らなかった研究室に入っていく。俺は自然とカークの後を追い・・・。
「ルネの馬鹿ぁーーー!!!!!起きなさーい!!」
フラネルロの大声にたたき起こされた。やっと思い出したのに。肝心の最後の部分が消えた。不て腐れながら起き上がる俺の上に赤子が置かれ、[チーズ]の声と共にフラッシュがたかれる。
「・・寝起きに・・何のようだよ・・。」
「お祝いにきたんですよぉ。ルーブル警視のとこには女の赤ちゃんが生まれたので、今日になっちゃいましたけど。名前はラティスだそうです。おっきな茶色い目で、将来美人さんになりますよ?」
「どうです?ディーくんのフィアンセってことにしません??」
浮かれた男達の声・・。ダグラスと・・・。なんだっけか・・。
「やだ、ラルフさん。まだ生まれたばかりよ?」
暖かい珈琲を運んでくるフラネルロは、珈琲を配り終えた後ポケットから一つのボールペンを取り出し、ダグラスに渡した。
「随分来てくれないんだもの。渡しそびれてたんだけど・・。貴方のよね?」
「あ、すいません。でも、これ、ラルフの・・。借りてて忘れてた。」
ダグラスはそのボールペンを隣の男に手渡す。それを俺が無理やり取り上げしげしげと眺めた。キズだらけの青いラバーボールペン。飾りに特徴があって・・・・。
「ああ、それ。僕のご先祖様から、代々長男に受け継がれてきてるんで、そんなにキズだらけなんですけど・・。絶対に無くしちゃだめだって。親友に会えなくなるって言われてたんですけど、こんなところにあったんですね。」
ラルフはダグラスと顔を見合い、苦笑しあう。俺は・・。目頭が熱くなるのを感じた。ただ、涙は出ない。胸のあたりが切なくなるだけだ。
「・・ルネ、どうしたの?」
「・・いや。俺も・・あいつに会いたいなぁって・・。ほらよ。」
ボールペンをラルフに投げ返しつつ、珈琲カップに手を伸ばした。
「で、お前達。そんな用事できたんじゃないだろう?用件は?」
「あ・・はは・・。気付かれちゃいましたか。本当は、ルーブル警視に止められてるんですけど、警視、休暇中ですし・・。」
取り敢えずディーをフラネルロに渡し、ダグラスから渡された書類ケースを受け取った。中のファイルは全て、あの怪奇事件によく似た殺人事件の報告書だ。全身の骨だけを抜かれる、血管が消える、脳を盗まれる。数え上げたら切りが無いほど・・・。ただ、全てに於いて何かパーツが取られている。何かを作り上げる気か・・。
「お邪魔します。」
そんな声に顔を上げると、イヤーな奴が部屋に進入済みだった。
「ル、ルーブル警視!休暇中では?」
男の二十音が硬く響く。立ち上がりそうな二人を奴は軽くあしらい、彼らの隣に無断で腰を下ろした。
「よう。なんか用かよ。もしかして、あんたも祝いとか言うんじゃねぇだろうな。」
「祝ってはいけないかな。それと、依頼だ。」
「依頼だ?ずーっとほっといたくせに?」
「ああ、君にあれを壊されては解析が進まないので遠慮して貰っただけだよ。それに、あれの製造にかかわった人物のリストアップと、場所の特定。現在の首謀者の割り出し。意外に手間取ってしまってね。」
ルーブルは静かにそう語ると、内ポケットからメモ冊子のようなものを取り出し、俺に手渡した。外見は小説のようなハードカバーだが・・。開けてみると、そこには古い写真が現れた。
あの・・・。暖炉の上の・・・家族写真・・・。
「家の倉庫から出てきたものだ。そこに写るのは君だろう・・?アレの存在をつき止める合間に君のことも調べて居たんだ。現在の人間の遺伝子データは全て記録されているが、君のデータは存在していなかったからね。ただ、君の息子のデータは在ったんだよ。彼が生まれる前に・・存在していた。」
長い・・沈黙。俺が思い出しかけていた記憶の欠落部分に何かあるんだろうか・・。
「そう・・、娘に、ラティスという名を付けさせてもらったよ。私の祖母の名だ。いつも私に、神隠しのように消えた父親のことを話して聞かせてくれた。君だと気がついたのは最近なのだけど、・・・。異論は在るかな。」
「べつに・・ねぇよ。」
ただ、何もかも知っているような目の前の男に腹が立って持っていた書類をぶちまけた。
「祖母に言わせると、曽祖父は優しい人だったそうだけど・・?」
「うるせぇな。何がいいてぇんだ。狸。」
「・・・。事件の首謀者は博士だよ。彼を・・・。殺してくれ。」
こんなところで人物紹介もなんですが・・・。
ルネ・モール・ロウ
訳のわからない男。一応、語りでのような主人公のような・・。
掴みやすいような、掴みにくいような。
もともと、刑事さんだったらしいですけどね。
頭から電波を飛ばす。機械人間・・????
死なないみたいです。
レディー・フラネルロ・バース
いい女。ってモノを連想してください。
ワンレンで、唇が赤い・・・。しなやかな腰つき・・。などなど。
いわゆる。悪女って者ですか。
最近、ママになりまして落ち着きましたが・・。
そうでもなさそうで・・・。
ディー
ルネとフラネルロとの間に生まれた子供。
金の髪に青い瞳の持ち主だが、
はてさて、どちらに似たんでしょうか???
ルーブル警視
主人公の同期だったらしい人物です。
主人公を頼りにしているんですが・・・。
警視になるには、ちょっと早すぎですかね・・って年頃。
ルネさんとは同い年。・・だと思っております。
なんと、ルネさんのヒイ孫・・・・・・・・・・。
ダグラス刑事
O型。
特徴といえば・・。グレーのスーツ??
ようやく名前が出た彼である。
ラルフ刑事
ダグラスと仲がよろしいお人。
昔のルネさんの親友の、血筋らしいです。
昔の親友さんは[あいつ]ですが、名前が思いつきませんでした。
カーク(名前が無かった人)
男女の区別の無いロボット。
博士に作られたらしい。
・・。博士が死んだときに眠るはずだったのだけど、
起きてますねぇ・・・。
シェリ。
ルネの妻。
ラティス
ルネの娘。ルーブル警視の娘も同じ名前。
彼女は、ルーブルさんのおばあちゃんだとか・・・。