「湯水せんせーーっ。」
はしゃぐ子供らの声に振り向くと、彼らは無邪気に俺の体に体当たりし、しがみ付いた。純粋で真っ直ぐな彼らの大きな瞳は、何故だかいつも輝いている。そう見えるのは俺の心が・・。笠原さんの言うとおり、まだ歪んでいるせいなのだろうか。
「どうしたの。病院内は走っちゃ駄目だろ??」
そんな言葉なんて聞く気も無いような子達。ここで知り合い、そしてここで分かれる。ここだけの友達付き合いは、彼らにとって掛け替えの無いもの。それは医師である俺も同じ立場。退院を控えているのに、寂しい・・なんていえば彼らはどんな顔をするのかな。なんて、俺・・意地悪いな。
「あのね、あのねー。」
「何。一人ずつ喋ってよ。」
口々に話そうとする素直な欲求。いじらしく、それでいて見習いたい衝動。腰を落とし、一人ずつの話を聞く。今日は嫌いな食べ物を食べられた、とか。後何日でお家に帰れる。とか。早く学校に行きたい。・・。こんなに健康になった。それを体中で表現してくれる。それを一生懸命に伝えようと必死になって、目を見開く。しがみ付く。聞いていないとわかれば体を揺らし、注意を引こうとする。皆・・。俺がどこかで無くしてきてしまったこと。彼らが羨ましい。・・。ウラヤム、そんな気持ちも久しぶりで、思わず苦笑すると子供たちは不思議そうに俺の顔を見つめた。
「せんせー。変なの。」
「・・ん。ごめんごめん。ちょっと思い出し笑いを・・ね。」
「せんせーのえっちぃー。」
彼らはそう叫びながら、数人の看護婦に連れ添われて部屋に戻っていった。
「・・えっち・・・ね。」
立ち上がりながら呟く。ここ最近、あいつはとても忙しいようで帰りが遅い。朝も、食事だけ作るとそのまま出勤してしまうらしく、置手紙だけが残されているような有様。置いてけぼりを食ったような気分だが、仕方ないか。毎朝、おはようの代わりのキスはしてくれるけど・・えっち・・してないなぁ。いや。したいわけじゃないんだ。ただ・・こう、体に圧し掛かってくる体重が心地良いというか・・なんというか。ぼんやりと中庭を見つめながら、俺は何を考えているんだ。全く。。
「湯水先生ッ。琉璃ちゃんの容態が・・ッ。」
足早にかけてくる一人の看護婦が叫ぶように呼んだ。咄嗟に体が動き病室に入るが、患者の容態は・・心停止状態。あらゆる処置を施しているほかの医師たちもその手を止めた。
「・・・午後二時八分。死亡確認。」
傍で震えながらその言葉を聞いた彼女の母親は、その場に崩れるように倒れ肩を落とす。無く気力さえ残っては居ない。俺は彼女の髪を撫で、剥いだ布団を元に戻した。一瞬。ただ、一瞬の・・処置の手遅れ。呼吸不全は知っていた。だからいつも看護婦を傍に置き、対処はさせていたはずだった。・・それが、はずだということを思い知らされる現実。他の医師たちはそれぞれベッドを離れ、母親に一礼して部屋を出て行く。俺は・・そのベッドの脇に膝をつき、彼女の手を握った。
「琉璃ちゃん。頑張ったね。・・そして、ありがとう。」
小さな手はまだ暖かく、布団に戻してやると本当によく眠っているだけに見える。看護婦に支えられ立ち上がる母親は、ようやく実感できたのか泣き崩れた。愛する娘の死という現実。長い闘病生活。終止符を打つのは病気克服、完治のはずだった。彼女に深深と頭を下げ、部屋を出てた。その前の廊下にはたくさんの子供たちが俯いている。琉璃ちゃんの仲間。彼女と親しくしていた子供たち・・。
「どうしたの。みんな。今日は屋上で遊ばないの?」
自分でも、その言葉は空々しく思った。一人の子供が口を尖らせる。
「だって、るりちゃんと遊ぶ約束してたんだもん。ねえ、るりちゃん元気になるよね。あした、遊べるよね。・・約束したんだよ。・・・。」
「うん。元気だよ。でも、あしたは遊べないんだ。」
「何で?るりちゃん・・しんじゃったの?」
「違うよ。るりちゃん、あした退院するんだ。元気になったから。ほら、君たちも元気に遊んでおいで。」
追い立てるようにして彼らをその場から引き剥がし、その力ない姿を目で追った。しんじゃったの?無垢な言葉は鋭く胸に突き刺さる。このドアの前に立つと、母親の泣き咽る声が掠れるように聞こえ・・・。
医員室に戻り、椅子に腰掛けると髪をかきあげてタバコに火を点した。部屋で泣く、ナースと、それを取り囲む女。無性に腹が立った。何故、廊下で患者の名を告げたのか。何故ここで泣かなければならないのか。俺は頭を振ると、溜息をついた。
「そこで泣くな。それから、何故患者の名を叫んだ。病室だけでよかったはずだ。」
「湯水先生。あの、この子・・。初めての患者さんだったんです。それで・・。」
取り巻きの一人が口を挟んだ。俺が聞きたいのは回りの看護婦の言葉ではない。
「それがどうした。患者の前では、全てが信頼できる看護婦でなければならない。何処で教育を受けたか知らないが、常識だ。泣くなら、ロッカーにでも篭って一人で泣け!!」
思わず怒鳴ると、取り巻き立ちは口々に文句を言うが、泣いている本人だけは深々と頭を下げて「すみません」と口にし、奥に入っていった。髪をかきむしると、机に珈琲が運ばれた。
「湯水先生。私が言っておきますから。」
穏やかな女性の声に顔を上げると、宥めるような笑顔で返された。
「・・婦長。・・俺、言いすぎたかな。」
「そうお思いでしたなら、彼女。」
婦長は右手の人差し指を天井に向けた。数回頷き、珈琲に手をやる。婦長も仕事に戻り、俺は二本目のタバコに手を伸ばすと小さな力で白衣を引っ張られ、小さな目が俺を見上げていた。
「おお。気が付かなかった。さやちゃんどうしたの。」
今にも泣きそうな顔で、俺を見つめる少女。タバコをしまい、タバコの匂いを消すために珈琲を口に運んだ。
「せんせー。怒ってるの?」
「え?怒ってないよ。どうして?」
「看護婦さん泣いてたの。せんせーに怒られちゃったって。」
「あ・・。うん。でも、ちょっと怒りすぎちゃったんだ。その看護婦さん、何処に居た?」
「屋上。」
「そっか。」
彼女を抱きかかえ、病室に戻した後屋上に足を向けた。名前も覚えていないナースの一人を探すのは困難化と思えば、堂々とベンチに腰を下ろし俯く姿を発見。周りではしゃいでいる子供たちから見ればあの場所だけ雰囲気が違って・・暗い。
「全く・・わかってない女だな。」
溜息混じりに呟くと、彼女は顔を上げた。今まで泣きはらしていました。そういわんばかりの表情で俺を見上げ、目を擦る。
「湯水先生・・。」
「隣、いいか。」
ベンチに腰を下ろし、手持ち無沙汰で煙草に火をつける。紫煙が空高く舞い上がり、見上げた空はもうオレンジがかる水色・・。日暮れ、早くなったな。
「先生・・私・・。」
「ン。泣くな。とは言わないよ。ただ、患者の前ではタブーだ。特に、子供は感情が移りやすい。君が今こうしていることも、子供にとっては哀しいことなんだ。現に、俺に告げ口してきた子もいる。何故だか解るか?」
「・・・。」
「寂しかったから。いつも笑ってくれる看護婦が笑ってくれないから。俺だって泣きたくなることもある。誠心誠意尽くして、その結果だから。でも、他の患者のことも考えなきゃ・・。さ。」
「・・。」
なんだか俺が一方的に話していて、でかい独り言のようだ。女って・・面倒くさい・・。
「先生・・。」
「はい?」
「・・あの、済みませんでした。私・・。」
「謝るべきところは俺じゃないはず。分かればいいよ。」
彼女はすっくと立ち上がり、俺に一礼してかけていった。よく頭を下げられる、下げる日だ。ぼんやり空を見上げ、目を伏せる。なんだか俺も・・泣きそう。
「あゆきっ。」
不意に聞きなれた声に呼ばれ、涙が一筋流れ落ちた。
「・・高梁・・。何で・・ここに?」
「笠原さんに呼び出されて。・・またかと・・。」
白いワイシャツに深い青のネクタイ。白衣姿の彼を見るのは久しぶりだ。なんだか照れる。
「・・なんでもないよ。お前、笠原さんの言うことは聞くんだな。」
「・・・・。」
高梁は俺の顔に手を伸ばし、親指で涙を拭うと小さく奥歯を噛み締めた。
「なんでもないなら何故・・。」
「・・なんでもないんだよ。本当に・・。」
焦らした覚えは無いが、高梁は俺の白衣の襟元を掴んだ。それを引き離そうとその手に手を乗せると、もう一方の手が俺の顎に触れ・・。体を引き上げられ。俺の手が奴の胸元に触れると同時に唇が重なり合った。ぺろっと唇を舐められ高梁を突き飛ばす。白衣の高梁に緊張しているのに・・こんなとこで堂々とキスなんて・・・。
「元気、出たな。」
「おまえっ。俺をからかって?!」
にっこりと微笑む彼。溜息がこぼれる。手を上げ、背を向けていく彼に対してポツリと・・。今度はしっかりとした独り言。
「かっこつけすぎ・・。」
妙に惚れるというか、なんと言うか。気恥ずかしさを頭を振ることで紛らわし、ベンチから腰を挙げた。

 六時過ぎに、琉璃ちゃんの遺体は運ばれ、家路に向かっていく。関わった医師団含め、全員で頭を下げた。それから、俺も家路につこうと白衣を脱ぎ、病院を出た。このところいつもあいつの帰りが遅いので徒歩で帰るのだが、今日は何故かあいつの車がそこにあり、遠慮なく乗り込んだ。
「なんだよ。今日はいいのか?」
「なにが?」
「残業。」
「何言ってるんだよ。朝と、夜仕事だったんだ。メモしてただろ?」
・・読まなかった。というと怒るだろうか。
「・・今日で終わりなんだ。」
「ああ。今日はなに食べたい?久しぶりに外食するか?」
上機嫌で車を発信させる高梁。スーツ姿も・・久しぶりに見る。
「・・・。」
「あゆき?」
「・・・欲しい。」
「ん?」
「・・なんでもない。」
紬が欲しいなんて・・言えない。そのまま無言のまま家に着き、俺は先に車を降りて家に続く階段を上がった。後から追いかけるようにして登る高梁は、すぐに追いついて玄関のカギをあけると、俺がドアをあけた。扉が閉まり、高梁は俺の腕を掴むと俺を壁に押し付け眼鏡を引っ手繰り・・。口を口で塞がれ、その中を舌で探られて・・。腰が抜けてその場に座り込んだ。横抱きに抱かれてソファーに座らされ、ネクタイを外される。なんだか、なすがままになっている自分が・・ズルイ。柔らかいキスを受けている中、俺は手探りで彼のネクタイを外しに掛かったが・・どうも違う。引っ張ると、紬はキスをやめて自分でネクタイを外した。どうやら首が絞まったらしい。上着を剥がされ、シャツのボタンを外され・・・。座ったまま左手の指から徐々に競り上がるキスを貰って・・。なんだか、視覚的にもすっごく・・エロくさい。情熱的なキスで体を倒され、ベルトが外されていく。硬く強張っていた体がだんだん柔らかくなるような気がして、ソファーに全体重を預けた。紬は俺の腹の臍あたりに顔を貼り付け、右手で俺の乳首を摘むと左手でズボンを脱がす。すぐ反応してしまう自分がヤラシイ。
「あゆき・・。いいんだよな。」
「・・バカ・・。聞くなよ。」
恥ずかしさ大爆発な発言。俺の乳首を弄っていた手が、口の中に入って・・・。下半身の方は剥き出しにされ、紬の吐息がくすぐったくて。紬の指が入っているせいで奥歯を噛み締めることが出来ない。だんだん感じていく体のせいで息が熱くなってきた。指を抜こうにも上手く力が入らない。紬の舌が、ソフトクリームを食べる仕草で俺を舐めて・・・。キスされて・・。あま噛み。もう、言うことを聞かなくなったオレ。紬はそれを丁寧に弄り、舌先と唇と歯で愛撫を重ね・・そして・・パクンっと音がするような勢いで頬張った。紬の中は温かく、吸い付かれると無意識に腰が浮いて・・。こういう行為は初めてなのに体が動くのは本能のせいなのだろうか。体中ゾクゾクして気持ちいい。
「・・ぁ・・・。や・・っ。つむ・・ぎぃ。」
「いいよ。イッて。」
「オ、お・・オレだけ?」
「いや。俺も気持ちいい。」
口から指が外され、その濡れた手が下半身を掴みシゴカレテ、俺はあっという間に高みに登らされた。出したその先は、なんと、紬の口の中。荒い息を抑えることも出来ないまま、漏れる声を止めようと両手で口をふさいだが、紬にそれを阻まれた。キスと共に圧し掛かる体重。掌を重ねあい、無意識に足を広げ、腰を浮かす。首を目一杯吸われ、下の穴に指を入れられた。濡れているから痛くないのか・・それとも、紬の入れ方が上手いのか。違和感が前身を駆け巡る。
「あ。ああ。そ、そこ、そこは・・。」
「ん?ここがいいところ?それともこっちか?」
中で指がクニクニと動き回り、逃げたくても逃げられない。快感で体が思うように動かない。動けない。
「あっ・・んンンっ。」
さっきイッたばかりなのに、もうせり立ってる・・・。穴から指が抜かれ、ホッとしたのも束の間。紬のソレが差し込まれ俺は思いっきり紬の背中に爪を立てた。腰を動かされ、その動きを止めようにも手は二つしかなく、その両手は紬の背中に突き刺さるようにして動かない。
「あっ・・アンっ。つむぎっ。つむぎっ。」
「あゆき・・いくよ。」
紬の体に垂れる汗がぽたりと落ち・・。紬は俺の中の一番奥まで突き刺さると、腰の動きを止めた。俺の中に紬が一杯入り込み、逆流している感じがする。キスをくれる紬の吐息も熱く火照っていた。
 素っ裸のまま、煙草に火をつけ暗い部屋の中テレビのスイッチを押した。眼鏡が無いため、ぼんやりとした視界の中画面だけが明るい。実は、腰が抜けたまま立てないでいる。あいつは。というと、シャワーを浴びずにさっき脱いだ服を着て、夕食を作っている。何であんなに元気なんだろう。上機嫌で、鼻歌まで歌っている。俺は当分・・・動けそうも無い。