・・眠れない。時計の音が耳について離れない。
体を起こし、煙草を探り、暗い部屋の中ライターの火を点した。薄オレンジと、青い光が揺らめく。
煙草に火をつけ、赤く燃える葉を見つめ・・紫煙に目を凝らした。
そのまま、ベッドから出てふらふらと迷うように歩き、キッチンにたどり着いた。
不注意でその床に灰を落としつつ、冷蔵庫を開ける。
白いような眩しい明かりの中。高梁のビールを掴み、プルトップを空けた。
カシュ・・・と乾いた音が響き、その中身を喉に流す。ビールを一気に飲み干し、その間の中に煙草を投げ入れ、二本目のビールを空けた。
酔いが回ってこない。三本目のビールに手を伸ばす。
喉が渇く。煙草が欲しい。空ろになりつつある意識を頭を振って呼び戻しながら、今手にしているビールが開かないうちにもう一本のビールのプルトップを空けていた。
ビールは六缶組みになっているはずだった。帰らない高梁を・・待っていたのか。
開けっ放しになっている冷蔵庫の冷気が冷たい・・。あたりまえ・・か。
流し台に体を預け、ライターの火を何度も何度もつけた。
このまま・・何もかも。何事もなかったように仕向けることが出来たなら・・。
俺、自身の記憶とか・・。いや、俺がここに存在していなければ・・。
待つこともない。待たせることもない。あの時・・。
「・・いっしょに・・。」
燃えていればよかった・・かな。
そうすれば、高梁なんかと逢わなくて済んだ。こんな思いしなくてよかったはずなのに。
この火を・・服に・・・?
突然腕を掴まれ、体ごと引き上げられた。アルコールのせいで上手く立てない。
冷蔵庫の明かりだけで、後は暗く、その人物を特定することは出来ないが多分・・・。
「・・なんで・・帰ってきちゃうんだよ。」
多分。高梁。一言も発しないけど・・多分。
そのまま抱き上げられ、俺はベッドに突き落とされた。彼の溜息が聞こえる。
ベッドがきしみ、また、聞こえる溜息。
「あゆき。今日、夜勤じゃなかったんだな。珍しく、俺に嘘をつくじゃないか。」
「・・。誰かさんとヨロシクしてたんだろ?好都合じゃん。」
「どういう意味だよ。酒なんか飲んで・・。アルコールは分解できないって・・。」
「いいじゃん・・。べつに。俺はお前のものじゃないんだし・・。」
「あゆき・・。」
「お前には新しい人できたんだから、俺は邪魔だろ??・・ハハハ・・もう・・。」
「意味がわからないよ。俺には、お前しかいない。」
高梁の奴。怒っているのか、乾いた笑いでは誤魔化しきれない。
医者である以上。人を救う道を選んだものが、自殺を選ぶのは卑怯だ。
「嘘付き。」
「嘘?」
「だって・・。榎本と・・。」
「榎本?あ、ああ。あの金髪の新人君。あの人が何?」
「あいつの上に覆い被さっていたじゃないか。」
「・・俺が?何か夢でも見たんじゃないか?」
「夢なものか。じゃあ、何で俺が夜勤だって知ってるんだよ!!」
「ああ、それは榎本に聞いて・・。」
「あの研究室の中で淫らな行為に耽った後、囁かれたんだろ?あの声で・・。どうせ俺なんか、その場しのぎの玩具なんだろ。毎朝毎晩世話焼いて可愛がるだけのペット・・」
言い切る前に、高梁は振り向いて俺の頬を叩いた。
パンっ・・とした音が耳に響き残り、口の中に血の味が滲む。
「あ・・ごめん・・。」
「・・謝るぐらいなら・・やるなよ。そこで怒るってことは、図星なんだろ?」
「いいかげんにしろ、あゆき。俺と榎本の間には何もない。それに、俺はお前のことをペットなんて思ったことは一度もない。」
「じゃあ、ていのいいだっちワイフ?動くし。あ、女じゃないからワイフじゃないか。」
高梁は何も言わず立ち上がり、部屋を出て行った。今ごろになって酔いがまわって・・目が回る。
体が熱い・・。
溜息が聞こえ、また、ベッドがきしんだ。上半身を起こされて両手を掴まれ、そのての中に冷たいグラスを握らされる。
「飲んで。ほら・・。ゆっくり。」
「・・。」
「いいか、あゆき。お前が何を見たか知らないが、俺はあいつと何もしていない。お前が俺のことでそんなに卑屈になるのなら・・。俺は何をすればいい?」
「・・。」
「離れたくないよ。10年待ったんだ。」
そんな答えが出るくらいなら・・。俺は・・。
「俺は・・。」
本当に、高梁のことが・・必要なのだろうか。そんな気持ち、無くなってしまえば、楽なのに。
やっぱり、・・感情なんて必要ない。
「ほら、水飲んで。」
「・・いらない。」
「は?おい・・。飲めば楽に・・。ったく。」
高梁はコップを奪うと、それを自分の口に運んで俺の顔を持ち上げた。
近づく顔・・は、唇が触れあい・・。口に含まされる液体は喉の奥へと流れていく。
「ほら、楽に・・。」
「たかはし・・。」
「なに?」
「つむぎの・・ばぁか!!」
「???????」
「何で・・そんなに優しいんだよ。何で・・。」
「俺が優しい?そう、あゆきだけにね。ほら、もうお休み。疲れただろう?」
丁寧に髪を撫でてもらい、俺は・・高梁の胸の中に顔を埋めた。
意識化において、感情を消すなんてことは出来ない。今欲しいのは眠りなんていう安息じゃない。
高梁のシャツのボタンを手探りで外し、開いたその鎖骨の真中にキスをした。舌を滑らせると彼はくすぐったそうに笑い体を揺らす。俺の素肌に回される手・・。俺は額を彼の鎖骨につけたままその動きを待った。彼の手は、俺の服をたくし上げ、腰に触れ・・・。俺の体を強く抱き寄せた。苦しいほど・・強く。
「酔っぱらった君がこんなに淫らになるなら、月に一度は飲ませようかな・・?」
ふと上げた顔。視線が交わって・・。俺は彼を誘うようにベッドに横になった。彼もゆっくりと俺に覆い被さる。首に歯があたり・・。筋を噛んでいるような動き。チロチロ動く舌の感触。
「・・あ・・。」
漏れる声。刺激されたように服を脱ぎ捨てる高梁。彼の体は、何かスポーツをしているような引き締まった肉体。割れそうな腹筋に手を当て、爪を掻いた。
彼の手でズボンを下着ごと脱がされ、彼は俺のものを何かいとおしいものを見るような目で眺める。
「・・明かり・・つける?」
ライトの紐に伸びる手を阻まれ・・。キスで言葉を塞がれ、絡んでくる舌をあわせるように動かす。高梁の舌は、俺の歯の一本っ一本を確かめるように口の中を泳いだ。それから逃れるように顔をそむけると、彼の顔は耳元に降りていく。
「ねぇ・・。愛撫は要らないから。繋がりたい・・。紬が欲しい・・。」
「・・あゆき・・。」
耳元で囁かれる声はくすぐったく、耳の穴に息を吹きかけられて俺は逃げた。笑う紬。
「何だよ。」
「ん?急に色っぽいからさ。どんどん変わっていく君も・・可愛い。とても素敵だ。」
紬の手が俺のものに伸びて・・熱い手で包み込む。それだけで達してしまいそうで、そそり立つ。
手は、するするとそこを通り過ぎ、裏に回って。指が入り込んで、俺の体は素直に仰け反った。
濡れていない指。軋むヒダ。それでも離したくない。欲深さ。
「俺・・俺、我侭だったんだ。」
「・・・?」
「昔から・・・っ。」
指が中で動き始める。俺のイイトコロを知り尽くしたような引っかくような動き。強く、優しく・・。
「あっ・・あっ・・はやく・・。いれて・・。」
「焦るなよ。傷つく。」
「いっ・・いいからっ。」
紬のからだの重みが消え、腰を浮かされた。指はまだ奥に入り込み、俺のものが温かいものの中に包み込まれ、滑っとした感触のものにほどされて・・。強く吸われて・・。耐え切れないものが先から零れ落ちていくのを滑らかなものが濾し取っていく。絶えられない快感と屈辱。悦楽に犯される身体。
何か掴むものが欲しくて手を伸ばすと、紬の髪に触れた。
「つ・・む・・っ。駄目・・だ・・。」
ストロークを早める指が。なまめましく絡まる舌が。浮いた腰を支えている彼の下半身のそそり立つものの感触が・・。
「んああっ」
一気に上り、彼の口の中で吐き出す。彼はそれを飲み下すと、俺と繋がっていた指を抜き、包みっぱなしだった俺のものを外に出した。湿り気を帯びたものは外気に触れ・・しかし、まだ熱い。俺も、彼に触れたい。食べて・・みたい。仰向けに責められていた身体はうつ伏せにされ、腰を高く持ち上げられるとそこに息を吹きかけられた。シーツに俺のものが零れていくのが見える・・。
「紬・・・。も、もう・・苛めないで・・。おれ。・・こわれ・・そ・・。」
「もう少し・・。」
さっきまで指が出入りしていた場所に、今度はあの滑らかな舌が入り込んだ。逃げようと動くが、彼の制御力のほうが勝っている。ヒダやそのまわり、内部まで濡らされ、腰どころか足までが言うことを聞かない。ようやく舌が抜かれ、彼はおもむろに膝立ちになった。そして・・・・。
太いものがするすると入り込んでくる。指よりも硬く、舌よりも滑らかで・・熱い。
「も・・もっと・・。」
紬のほうも息が荒い。次第に早まるストロークと・・高まる熱。奥へ奥へと入り込んでくるときに零れていく粘液。
「くっ。」
俺の中、一番奥で動きを止めた紬の腰。彼のうめきにも似た声と共に吐き出される液体。俺と紬をつないでいたものが取り除かれ、俺はベッドに倒れこんだ。
「あゆき?大丈夫か?」
「・・ん・・・。」
眠りの中に落ちていく意識・・。何かが一つ、開放された・・・。