続・貞視 帝司という男
ジングルベール・ジングルベールと、エンドレスで流れる店内放送。店に置かれるのはチキンやケーキ。派手に飾り付けられたツリーに、子供用お菓子の山。目に付くのは、ケーキのご予約はお早めに。とかかれたチラシ。今更、俺は異教徒ですから。なんていう人は少ないと思うが、興味のないことは変わりない。そして、なぜか食品全般が値上がりしていて買う気も削がれ、カップラーメンをカゴに入れた。冷凍食品のコーナーをくるりと回り、ロールキャベツを手に取る。たまには洋食もいいか。・・ん?これって洋食か?まあいい。コンソメスープのもとってあったっけ・・。店内にあるワインはボージョレーだの、シャンパンだの。何だか疲れながら会計を済ませて店を出た。外はまた、雪が降っていて景色は真っ白に塗られているようだ。これをクリスマス寒波。などと人は呼ぶ。恋人たちにはなんてロマンチックな風景なのだろう。と、思うんだろうか。雪なんて足を取られて滑るし、ズボンは汚れるし。寒いし。冷たいし・・。
誰もいない部屋に戻り、ストーブのスイッチを押すとピーピーピーと警告音が鳴り給油ランプが点灯した。面倒くさくなり、ストーブのスイッチを切り買ってきたものをしまう。コーヒーをたて、でき上がる前にパソコンの前に座った。年末も近いせいで仕事は速め速めに締め切りがやってくる。現在抱えているのは45本。嫌になり生き抜きに出た買い物もただ疲れただけで、吸い過ぎのタバコに手を伸ばしながら火をつけずにくわえたまま。パソコンの画面をよく見るためにかけた眼鏡も鬱陶しくなり後ろに放り投げた。簡単な仕事から手をつけてきて、でき上がっているのはまだ15本。締め切りは・・いつだったっけか・・。一つ一つ作動確認をしつつ、訂正、修正を加えてまた確認。プログラムを打ち込むにはもっと早く動く手が欲しいとか、背中にも手があれば、なんて考えるけど作動確認のワクワク感は・・・。いつまでも消えない。でき上がった嬉しさ。達成感というか、やり遂げただけではないような気持ち。高校に入ったあたりから目覚めて卒業する頃には立派にプログラマーを名乗るようになって。大学の入学金や授業料。車の免許もとったな。金のためじゃなくて、楽しくてたまらなかった。今はその気持ちが消えるのが怖い。締め切りに追われて、抱えているものが嫌になる。すべて投げてしまえば楽なのか。そうすれば、この・・恐怖から逃げられる?何馬鹿なこと考えてるんだ。そう、首を振りつつため息をついた。好きでしているんだから何を悩むんだよ。そう、考え直す。自動で動くもののようにキーを叩く指は動きつづけて、気がつけば煙草に火をつけてただ燃え尽きる。それでも作動を確かめている。モニターにくぎ付けになって他にはもう何も目に入らない。長くなりつつある髪をかきあげつつ、ふー・・と息をつくと、俺の視界を遮らない場所に白いコーヒーカップが映った。振り向くと、軽く微笑む貞視がいて俺にカップを差し出す。それを受け取りながら、パソコンモニターの隣に置いた小さな時計を眺めるともう、夜の九時を過ぎていて・・。
「あ・・。ごめん。飯・・。」
「ん。ただいま。」
「・・おかえり。ごめんな、気がつかなくって。ご飯食べちゃった?」
「いや。俺も今帰ってきたとこだからさ。優考、忙しい?」
万年床の上に座り、あぐらを掻く貞視はゆっくりとカップに口をつける。俺もつられて手にしていたコーヒーを口に運ぶが、・・苦い。コーヒーメーカーのこともすっかり忘れていて置きっぱなしだったから煮立ってしまったようだ。
「ん・・。貞視こそ、今・・。」
いや、彼は俺のことを考え、気遣ってくれたから今帰ったところ、なんて言ってくれたはず・・だ。忙しさに感けて人を傷つける。
「ん?何?」
「あ・・。い、いや・・。ごめん。本当に、何も作ってないんだ。カップラーメンならすぐできるけど・・。」
「それくらいできるよ。呼んだら来いよ。」
立ち上がろうとした俺の方に触れ、貞視がたち上がっていった。ヤカンに水を入れる音が聞こえて、ガスがつけられる。水が沸くまで。・・そんな時間も惜しくて、キーを叩きつづけて呼ばれたことにすら気がつかなくて。腕を掴みあげられ、今に連れて来られた。
「いただきます。」
そう手を合わせる貞視につられて手を合わせる。無言のままラーメンをすすり、よく噛まずに流し込んだような気がするがなんかどうでもいいような気がした。気がつけば部屋は温かく、ストーブがちゃんと温風を出している。脱ぎっぱなしの服もない。貞視は食べ終わったカップを二つ手にして台所に行き、新しいコーヒーをカップに注いで運んできてくれた。
「・・ごめん・・。俺、何もしてないな。」
「いや。」
何だか気まずい。黙ってコーヒーを飲むと、貞視は風呂に入る。と俺に背中を見せた。二人でいるのに。一人ずつのような・・。あれから忙しさに押されてずっと仕事をしていて、彼の要求にも応えられていない。仕事だけしていればいいのか・・。そうは思わないけど、しなければならないことは山積み。手が回ってない。それでもまたパソコンの前に座ってキーを打ちつづけ、貞視が布団に転がり込んで頭まですっぽりと布団の中にもぐりこむその音を聞きながら、髪をかきあげた。彼が仕事に行く時間は俺は寝ていて、帰ってくるのも知らないままに隣で寝ている。もう、一週間近く続く。やっぱり俺・・。人に愛してもらう資格はないのかもしれない。一人で、モニターを眺めながらただ暗号のようなものを打っている時間が一番、何も考えてない。一番・・楽だ。毎年この時期はそうなのに。何だかとても憂鬱で仕事に身が入っていない。できたはずのものにクレームがきたり、催促のメールばかりが目に付く。タバコももう、切れた。コーヒーもいらない。頭を抱えたまま、食事すら喉を通らず。何とか今年の仕事を切り上げ、すべて納品した。ほっとしたため息のようなものと同時に、外からメリークリスマース!!と騒ぐ声が聞こえた。
「なあ・・貞視。」
振り向いて気がついた。彼はいない。風呂にもトイレにも。愛想を尽かして出ていった。・・そうなのかもしれない。もともと、この部屋には彼の荷物のようなものはない。狭いから。と、どこかの倉庫を借りてそこに自分の荷物を預けたままだ。仕事が終わった開放感と、・・。なんだろう。虚脱感。さよならくらい言っていけばいいのに。いや、言ったのに俺が聞いてなかったのかな。所詮、体だけの付き合いだったんだ。そう、自分に言いつけた。言い聞かせた。命令した。もう、忘れろ。夢だった・・。都合のいい夢。見てただけ。都合がよかったのは俺のほうで、手に入れば部屋の隅に埃を被っているような玩具のような。ぼんやりと宙を見つめ、首を振って視界を戻して久しぶりのシャワーを浴びた。パジャマを着て、部屋に戻ってもあいつの姿はない。
「・・何、探してるんだよ・・。」
軽く苦笑してみた。一唱で終わらせたい。でも何か、ぽっかりとした空洞があるような・・。よくテレビとかの話で仕事と私とどっちが大切なの?なんて・・台詞。俺ならまず、・・仕事。と言い切れる。そういう奴だ。何度も何度も出てくる溜息。過呼吸になるぞ。なんて、笑い飛ばせない。じんわりとした実感が、眼の奥を熱くさせて・・。何とも思ってないジャン。なんて、言い聞かせたところで何もできなくて。無気力に。無意識に。目から流れる熱い水。
「ごめん・・。貞視。せっかく好きだって・・。言って・・くれたのにさ。」
何で誰もいないのに詫びてるんだろう。何であいつに。泣くほど、俺は・・。あいつのこと・・。
パーン
後ろで突然何かが弾ける音がして頭の上から紙ふぶきが舞った。慌てて振り向くと、そこには貞視と赤阪が赤い帽子を被って笑っていたが、俺の顔を見るなりあたふたと取り繕った。
「・・貞視・・。赤・・阪。何、その格好・・。」
「あ、い・・いや・・。優考こそ、何で・・。」
ゆっくりと近づく貞視。そっと触れてくるその手は冷たい。その手で俺の涙を拭い、髪を撫でた。赤阪は後ろ手にしていた手を前に戻し、俺に白い塊を差し出す。
「・・雪だるま・・?」
「あ、ああ。氷室が何だか元気がないからって、こいつに相談されてさ。ならクリスマス・パーティーでもしようかってことになって・・・。ケーキとか、買いに出て・・た。」
なぜか二人ともとても動揺していて、その姿が妙に変で思わず笑った。
「何だよ・・。」
困惑した表情の貞視。何でもない。そう、首を振ったがやっぱり何か心にはあって、涙が溢れて止まらない。嗚咽こそないが、俺に触れる貞視のその手に触れた。
「ごめん。優考。・・泣くなよ。寂しかった?」
「ん・・。俺のほうこそ。ごめんなさい・・。パーティー、するんだろ?・・ううん。してくれるん・・でしょ?俺、何か作るよ。あ・・ああ・・。何も・・ないけどさ。ロールキャベツあったかな・・。クリスマスにはそぐわない?シャンパンや、ワインとか・・。グラス・・ないや。イルミネーション・・。も、ツリーも・・。」
「優考!!」
貞視に強く呼ばれて何だか体を強張らせた。怒られたような気が・・したから。
「そんなもの何もいらないから。泣いている理由を・・教えて。」
じっと見つめられて・・。俺はただ首を振った。悲しいことを思い出しただけ。そう、告げた。もっと、何か言いたかった。たぶん・・。でも、何かがつっかえ棒になってて。それ以上言えないまま。言葉を飲み込んだ。
「本当に?」
「ああ・・。・・あ、ほら。赤阪。あがってよ。もう俺、大丈夫だから。ごめん。しめっぽくて。」
貞視の体を支えに立ち上がろうとして、俺の視界は酷く歪んで・・・・。あっという間に意識は吹き飛んだ。目覚めるともうすでに昼は過ぎた時間で、おき上がろうと体を持ち上げると貞視がそれに気がついたのか俺を布団に押し戻した。
「・・あれ?貞視、今日休み?」
「ああ。普通の土曜日。優考、大丈夫か?仕事に根詰めてたから、飯も食わないでさ。疲れが出たんだろ?」
「・・たぶん。ごめん・・な。パーティー・・。」
「ああ。それならあいつと二人でした。」
「ええ?」
「何だよ。悪いか?」
「・・い、いや・・。悪くない。あ、赤阪・・は?」
「さっき帰った。IT関連は今が一番忙しいって喚いてったけどな。」
何だか、嫌気が差しているようで、それが馴染んでいるような。いつからそんなに仲良くなったんだろう・・。
「もうちょっと寝てろよ。」
「いや、もう起きるよ。寝過ぎも疲れるし。」
「・・・。じゃあ。久しぶりに運動でもするか?」
「え?」
「軽くな。かるーく・・。」
そっと近づく貞視の顔。自然に目を閉じることができて・・。キスを受け入れた。離れる貞視の体。引き寄せたくてその胸元の服を握り締めた。
「うん・・。抱いて・・。」
一瞬。貞視の動きが止まった。何かに打ち震えるものを押さえ込んで、ふうっと深く息をつく。でも、何かを躊躇った。
「・・優考。まず、さ。したいんだ。」
「何を?」
貞視は俺の体を一気に起こし、自分の胸の中に押し付けた。そして強く。強く強く。俺の体を抱きしめる。でも痛くない。苦しくもない。強く力を入れているだけで、締め上げてるわけじゃない。
「昨日のわけを・・。いつか、話してくれ。もっと、優考に近づきたい。長く傍に居られるように・・。」
「・・・。長く・・・。」
「ああ。俺の二つ目の夢だから。俺、優考を守る。なんて言える立場じゃねぇし、お前も男だから守られたくはないだろうし。」
「一つ目の夢って、何だったんだ?」
「・・優考と・・暮らすこと。」
ぷっと吹き出してしまった。何だかシリアスだったのに、沸き起こってくる笑いのつぼ。
「何だよそれ。強引だったくせに。」
「そ、それは・・。まあ・・。ひとつの手段で・・。」
「へーぇー。・・。貞視。俺を・・守ってよ。図体だけはでかいんだから。」
「ゆたかっ。」
笑いつづけている俺の体を揺さぶりながら、動揺したままの貞視はつられるようにして笑った。
「貞視。早く抱いてよ。それともやめる?」
「やめない。」
貞視の、俺のパジャマを脱がすその手は早く・・。前戯もほどほどに欲しいと囁くと、猛った熱いものをぐっと射し込まれて思わず悲鳴を上げた。
「わ、わるいっ。痛い?」
「ん・・・。大丈夫。だから・・。動いてっ。突いて。もっと・・。」
自分で腰を動かしてしまうほど。求めた。もっともっともっと。もっと・・束縛してくれ。変な不安なんて。妙な考えなんて考えないくらい。何か痞えているものを取ってくれ。そんなもの無くして。砕いて。消して。
「あっあっあっ・・。」
腰を動かされるほど。馴らされていない場所が引きつる。欲しいのに腰を引いてしまう。離されないように必死でしがみついて、でもそれを解かれて・・。
「優考、何・・焦ってるんだよ。痛いんだろ?」
ひとつになっていた場所がまた二つに分かれて・・。
「や・・。だ。抜かないで・・。」
「お前が痛いんじゃ、意味がない。」
貞視の指が俺の口に入って、俺はそれをゆっくりと吸った。舐めて、唾液を絡ませて・。その指が口から抜かれて、そっと太ももの奥に滑りこんでいく。始めは襞を濡らして、徐々に中に差し込まれていく。
「ん・・ん・・。」
「求められるのは最高だけどね。」
貞視の体がすっと離れて、俺の足を開いて・・。その間に貞視の顔が沈む。中で指が動く。いいところを探してる。貞視の口が。舌が。先端だけを咥えてチュッと音を立てながら吸い付く。
「んっふぁ・・あっ・・。や、やだ・・。吸うな・・っ。」
奥まで咥えられた。軽く触れる歯。何もかも敏感になってて体がびくびくと跳ねる。二本目の指が入り込んでゆっくりと広げられてく。
「あ・・。」
もう・・。耐えられない。堪えられない。出るっ。声にならない声が漏れた。貞視の口の中に射精して、それでも舐めるのやめてくれない貞視。
「さ・・さだみ。欲しい。お前が欲しいんだってば。俺じゃ・・。俺はいいからっ。」
ようやく口の中から開放されたが、今度は大きな掌が包み込んだ。ゆっくりと擦りあげられる。俺の中ではまだ指が暴れてて、中を撫でている。
「帝司ってばぁー。」
「なぁ、優考。焦んなよ。もっと楽しんで。」
「馬鹿・やろう。そうじゃない。そんなんで・・抱かれたくない。楽しくて抱かれてんじゃないっ。」
ぐっと指が引き抜かれた。擦りあげる手も止まった。
「じゃあ、何で?」
悪戯っぽく笑って、俺の顔を覗きこむ。俺は思いきりその顔を平手で叩いた。パーンっ・・そう、静まり返った部屋に響く。それにはさすがの貞視も怒ったようだった。むっとした顔で、一言もなく俺の中に射し込み、ゆっくりとしたストローク無しでかき回された。両腕を布団に押し付けられて身動きできないまま。今度は何を言ってもやめないし、腕も離してくれなかった。そのまま一番奥で果たされて、射し込まれたまま二度続けざまに出した。
「満足かよ。」
捨て台詞・・。俺が言わない以上、彼だって絶対にわかりっこないのに。何を求めてるんだろう。その抱き方が違う。なんて言えない。
「うん・・。ありがと・・う・・。」
力なく礼を言った。
「優考、あのな、優考。何がしたいんだよ。言ってくれよ。こんなのが好いなんて嘘だろ?なあ優考っ!?」
「わからないよ!!人を好きになったことなんてないんだから・・。この気持ちが何なのかなんてわからねぇよ。何なのか教えて欲しいのはこっちだ・・。苦しいんだ。すごく・・。痛いんだ・・。」
ただ、体を丸めた。困惑してるはずの貞視の顔なんて見たくなかった。でも、抱き上げられて口を塞がれた。ただの我侭なのに・・。翻弄させて・・悪いのは俺なのに。
「ごめん・・。優考。俺は愛してるから。傍にいるから。焦られたのは・・俺だ。急がせた・・。」
「なんだよ・・それ・・。」
「離れないから。ゆっくり・・ついてきてくれ。」
俺を抱きしめる貞視の体が震えていた。怖いのは俺だけじゃ・・ないんだ。
「ん・・。」
ただ・・頷くだけが精一杯の・・気持ちだった。何も言えなくて。貞視の体に手を回すこともできない俺。貞視は・・。俺の何がいいんだろう。じゃあ、俺は?