続・貞視 帝司という男
「優考。デートしようよ。デート。」
ぼんやりとタバコをふかしながら、雪の降る外の景色を眺めている俺に貞視は切り出した。
「嫌だ。」
間髪入れずに返答する。この寒いのに。外になんて出たくない。かといって、昨日全ての仕事を仕上げてしまったのですることはないのだが・・。ぼんやりと寛いで、コーヒーなんて飲んでたらいいような休日。外は真っ白な雪で覆われてるし。でも、俺たちって、デートって物をしたことないような・・。
「優考。じゃあ、飯でも食いに行こう。美味いラーメン屋でもさ。」
「インスタントで十分だ。」
「・・なあ。」
「寒いから嫌なんだよ。汚れたらクリーニング高いし。」
「優考って・・。給料そんなに低いのか?」
「別に。金はあるよ。」
「・・・。なあ・・。」
貞視は俺の後ろに立っていたらしい。俺の両肩を引き、俺の体を床に転がせると、顔を見下ろす。
「何だよ。」
「月収いくら?」
「300万。」
「は?月収だぞ。」
「ああ。そうだ。だから、金はある。雪降ってるし、寒いから外に行くのは嫌だといってるんだ。だから別に、デートやラーメンが嫌なわけじゃ・・。」
貞視は何か妙な顔をしながら、首を傾げつつ。俺の体を引き上げてくるりと反転させるとじっと俺の目を見る。そして、ゆっくりと顔が近づいてきて・・。俺は自分の顔と奴の顔の前に手を挟んだ。
「優考ぁ。」
「何だよ。」
「寒けりゃ俺が暖めてやるから。デートしようよ。今日は25日だぞ。」
「だから・・。」
「ただの教師の薄給使って奢るから。」
なんとなく必死でせがむような子供のような。これ以上嫌がると泣くのかなぁ・・。見てみたいような気もするけど、鬱陶しそうだ。
「別にいいよ。」
「いいって、デートしてくれるのか?」
「・・わかったよ。行くよ。行く。着替えるから待ってて。」
数少ない服の中から、セーターなどの暖かい物を選んでクリーニングの袋を破り捨てた。ここの土地柄、実家よりもずっと暖かいと思っていたからなかなか着る機会はなかったのだが、慣れてしまえば寒いものは寒い。近所のスーパーに行くジャケットではなく、眺めのコートも出して着こんだ。マフラー、どこかにあったかなぁ。雑誌、ハードカバーの本。CDロム。行き場のないコピー機とスキャナー。パソコン周辺機器の山のようなところをあさり、何年前のものか分からないようなマフラーを引き釣り出した。そう言えば・・。今年はどうしようか。実家に帰省しなきゃ、煩いだろうか。電話もない家だし、催促も来ないけど。
「優考?まだ?」
「ん・・。ああ。行く。財布、どこに置いたっけ・・。」
「いいよ。今日は俺の奢りで。ま、まあ。昨日の・・。侘びって・・。」
貞視はぽりぽりと指で頬を掻きながら、口を尖らせた。詫びられることはないと思う。謝らなければならないのは俺のほうだ。
「ま、いいや。どこに連れてってくれるって?」
「ん。」
なんか、納得したんだろう。彼は先に部屋を出て、俺が家から出ると鍵をかけた。やっぱり、寒い。息を吐けば真っ白に空気が濁り、外は嫌になるほど白い。あまり車通りは多くない通りだが、轍も白いままだった。
こうやって、二人で並んで歩くことはなかったような気がする。貞視の身長は、ずいぶん高い。すらりと伸びた体躯。黒いコートを靡かせながら歩く姿はスタイリッシュだ。女ならいくらでも手に入るような気がするのに、何で俺なんだろう。人の心理を分析するような趣味は持ち合わせていないが、判らないことだらけだ。一頻歩き、駅のホームで缶コーヒーを啜り。楽しそうで、嬉しそうな貞視の顔を見上げ、見下ろされて何故か顔を背けた。変に気恥ずかしい。コーヒーを飲み終わり、ごみ箱に缶を捨てた頃。頃合良く電車がホームに滑りこみ、下りてくる疎らな客の間をすりぬけて電車に乗り込んだ。どこにでも簡単に座れそうだったが、ドア側のポールに手をかけてドアが締まるのを待つ。貞視は俺の後ろに立ち、俺の手よりもずっと高い場所に手を置く。ゆっくりとドアが締まり・・。動き出す鉄の塊。たった10分。揺られているだけだが、車窓を眺める余裕がない。後ろにいる貞視のことが気にかかる。どんな顔してるのか・・。何を考えているのか。電車が止まり、頭の上から「下りるよ」との声がかかったとき。ほっとするよりも心臓が爆発するんじゃないかと思うほど胸が高鳴った。改札を出て、中刷り見た?なんて話し掛けられ、うまく受け答えができない。実際見ていないのだから仕方ない。首を振ると、他愛のない会話が始まり、それを聞いて頷いているがどこか上の空だった。俺、何を動揺してるんだろう。街には大勢の人の流れがあったが、ウィンドーの中にあるのはクリスマスコーナーセールの文字。ケーキ半額。コート売り尽くし。など。
「優考、ここ、ここ。」
不意に腕を掴み引かれ、立ち止まる。何の変哲もない、古いような外観のラーメン屋。その暖簾をくぐり、華奢なツインテールの女の子に案内されつつテーブル席に座る。貞視は俺の斜め前に座わった。水が運ばれ、その隣に灰皿があるのに気がついて煙草を取り出して火をつけた。
「ここのチャーシュー麺が美味いんだ。量は多めだから、優考には多いのかもしれないけどね。」
貞視も煙草をくわえながらメニューを指差す。
「ふーん・・。」
何気なく店内を見渡し、サイドメニューなどを眺めて挑戦者歓迎。の文字を見つけた。只今25人挑戦者あり。5人前超大盛り特性ラーメン。美味いものは美味いうちに。一時間間食で挑戦者×一万円。
「お決まりですかぁ?」
ツインテールの彼女が小さな紙を持ってテーブル脇で聞いた。
「チャーシュー麺。優考は?」
「・・あれ。」
「あれ?」
貞視の位置では振り向かなければ見えない場所を指差す。彼は振り向き、眺めてから驚愕の表情でへ?と口をあけた。
「あれって・・あれ?挑戦すんの?」
「ああ。あれ。大盛り特性ラーメン。味は選べるの?」
彼女を見上げると、彼女は澄ました顔のままハイ。と応えた。
「じゃあ。とんこつで。」
「はい。じゃあ、以上でよろしいですか?」
はい。と貞視は応えたが、彼女がいなくなった後机に肘をついた。
「大丈夫なのかー?普段、そんなに食わないじゃんか。それも、とんこつって・・お前。」
「大丈夫。美味いんだろ?」
「ま、まあ・・ね。」
タバコをふかしつつ待つと、最初に貞視のラーメンが運ばれてきた。チャーシュー麺。とは言ったが、厚切りチャーシュー10枚。それも大きめな器に麺が見えないほど並んでいる。
「な、多いだろ?これで600円だぞ。」
「特盛はいくらなんだろうな。食いきれなかったら、貞視、食う?」
「・・食えりゃーな。」
パチン。と割り箸を割り、彼はお先。と食べ始めた。醤油ベースのいい香りがする。
「挑戦コースでーす。」
そう運ばれたものはツインテールの子と、厨房の人だろうか。白い服を着た男の人が二人で運んできた。机に青いスケルトン式の目覚し時計が置かれる。人の頭が二つほど入るような大きな器。どこに売ってるんだろう。とんこつの香りが香ばしい。
「スープまで飲みきって、間食とさせていただきます。制限時間は一時間。それを超えての間食は賞金は入りませんのでご了承ください。万が一食べきれなかった場合、1万円です。制限時間を過ぎての助っ人はOKです。よろしいですか?」
ツインテールの子が説明し、俺ははい。と返事をした。
「では、割り箸を割ってくださーい。」
言われるままに箸を二つに割る。
「では。スタート。」
カチ。と時計を進ませてから、彼女は戻っていった。
「いただきます。」
軽く手を合わせ、とりあえずスープを飲んだ。
「うん。美味い。」
「優考、のんびりしてていいのか・・?」
「ん?味わって悪いのかよ。美味いよ。」
「・・そりゃ・・。よかったな。」
呆れ顔の貞視を余所に、麺をすする。少し太めの縮れ麺。麺の中からほうれん草や、シナチク。モヤシ。ナルトもあった。煮卵好きだ。チャーシュー7枚。
「あ。きくらげ見つけた。」
「余裕だなあ・・。」
「好きなんだ。きくらげ。」
ぱくりと口に運びつつ。スープを飲もうにも、器を持ち上げられなかったからレンゲで飲んだ。
「ごちそうさまでした。」
そう箸を置き、手を合わせる。厨房から店主が出てきて、カウベルのようなものを鳴らした。店内から拍手が沸き起こる。目を白黒させている貞視。
「見事。45分で間食!!失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」
白い封筒に、賞金。と書かれたものを差し出しながら、少し髪の毛の薄い腹の出た店主が聞いた。
「別に、名乗るほどじゃ。おいしかったです。ご馳走様。」
賞金を受け取り、頭を下げた。煙草をくわえて火をつけると、貞視はまだラーメンをすすっている。
「あれ?まだ食べてたんだ。」
「ああ。見とれてた。優考ってさぁ。ちゃんと、男だったんだな。」
「何だよそれ。時々馬鹿食いしたくなるだけで、普段からじゃないし。女性だって大食いの人たくさんいるだろ?」
「・・まあね。」
煙草を吸いつつ、食休みと貞視の食べ終わるのを待つ。
「また、降ってきた・・。」
外の景色を眺めて呟く。白い白い雪。雪を見ると実家を思い出す。豪雪地帯の・・古い日本家屋。
「なあ、貞視。お前は正月どうするんだ?」
「ん?何もしないけど。」
ようやく食べ終わった貞視も水を一杯飲み干してから煙草をくわえた。
「優考、何かするのか?」
「俺はいつも実家に戻るんだけど。どうしようかな・・って。」
「実家?どこにあるんだ?」
「新潟の山の中。一年に一回は帰って来いって煩いんだけど。・・貞視・・。」
へえ。そう紫煙を高く上げつつ、貞視は天井を見上げた。お前がいるから帰らない。なんて・・変な言い訳だよな。
「とりあえず、これからどこ行く?」
「ん。どこでもいい。」
会計を済ませてからまた、街の流れに滑りこんだ。ぼんやりと歩く街。ショーウィンドーに映る貞視。立ち止まって見ていると、隣に立ってガラスの中を見ていた。俺が見ているのは・・貞視だ。
「ピアス?優考、穴ないジャン。」
穴。そう聞き、思いきり噴出した。慌てて口を塞ぐ。貞視、どんな顔してる?
「優考。・・休んでくか?」
少し躊躇しつつ、頷いた。メインストリートから一本外れれば、一つや二つそう言った店はある。まだ昼間なのに。意味深な二人連れが肩を抱きながら入っていく姿を目で追う。入り口付近まできて、立ち止まった。
「茶店のほうが・・いい。」
呟いて見たが、軽く背中を押された。貞視が部屋を選んで鍵を受け取ると、手を引かれてエレベーターに乗り込む。俺はずっと俯いていた。何回に来て、どこで降りてどの部屋に入ったのか。手を引かれたまま部屋に入り、ドアを閉め鍵がかかる音を聞いて息を飲んだ。男同士でこんな所・・入れるんだな。そう、笑いを誘うように言って見たがあまり効果はなかった。大き目のベッドに座らされて頬に触れられ、見上げればゆったりとしたキスをされ・・。途端に気恥ずかしくなって貞視の体を押し戻して見たが、軽く頭を撫でられた。
「別に、寝てもいいんだぞ。・・普通に、就寝の方な。」
コートを脱ぎ、机にそれを置きながら貞視は俺の隣に腰を下ろす。机からテレビのリモコンを取り、スイッチを入れてからチャンネルをぱらぱらと変えて見ていた。
「テレビ見るの久しぶりだなぁ・・。」
「ん?いつから無いんだ?」
「大学に・・入った時から。実家でもあんまりテレビって見てなかったから、必要無かったんだ。貞視は欲しい?」
「ん、別に・・。あればあるでいいし、なけりゃ無いでも。」
「買ってあげようか。さっきの賞金で。俺と居ても暇だろうし・・。」
貞視はテレビのスイッチを突然切った。リモコンを捨てるようにして机に投げて、俺の着ているコートを脱がしにかかる。
「ちょ、ちょっと。ただ寝るんじゃ・・。」
「今日、散々誘惑されたんだ。それに、今も俺を誘っただろ?」
「い、何時だよ。」
「ずっと見てたろ?やっぱ俺ってカッコイイカラなぁ。」
「はあ?」
抵抗空しく。・・ではなく。無抵抗で。素直に服を脱がされた。丸太のように、ごろりとベッドに横たわる。ふかふかな布団。柔らかいスプリング。貞視も服を脱ぎ捨ててベッドに上がり、ギシ・・と撓るベッド。俺の両肩の上に両手を置き跨る彼。さらりと流れた髪が・・ゆっくりと下りてくる。
「テレビより、ベッドがいいけど。あの部屋じゃ置けないよな。」
耳元で呟き、一人苦笑する貞視。軽く触れられただけでもう・・感じる。昨日あんなに抱かれたのに。・・だからなのか。その続きのような、まだ体が火照っているような・・。乳首を舐められて貞視の頭を強く抱き、声を堪えると口に指が入ってきた。
「どんな大声出しても隣にャ聞こえないよ。家より立派に防音設備だ。お前の声、もっと聞きたいよ。」
カッと顔が赤らむ。そう言えばあの家・・。安普請だ。もしかして、いつもの声は隣に筒抜け・・・?
「可愛いな。お前・・。」
「さ・・さ・・ささ・・・。貞視。」
「んん?」
「当分、家でしないから・・。だから、だけど・・。その・・。お前が、満足行くまで・・。好きにして・・くれ。て、・・。いいよ。」
恥ずかしいことを言うとき。声が出ているように感じない。
「引っ越すか?俺の給料全て使った家賃のとこに。そうすりゃ・・聞けるよな。」
首筋に唇があたる。舌が動き、なぞられて・・。軽く歯があたる。貞視の体重が全身にかかってくる。太ももにあたる貞視のものが、硬くなってきてる。
「なあ・・貞視。俺が。してやろう・・か?」
「へ?」
「・・その・・さ。いつも俺だけ・・。貞視に射れたいんじゃなくて、・・舐めてやろうか・・。」
貞視がぶるるるっと身震いした。
「じゃあ、シックスナインはどう?」
「え?なにそれ。」
こう。と、貞視がベッドに寝転がり、俺の体は軽々と持ち上げられて奴の体の上に乗せられた。
「んで、優考の頭があっち。腰はこっち。」
指を指して示してくれるその姿を想像すると・・。提案しなきゃ良かったような・・。絶対、無理強いはしない。だから、俺が自ら動かなけりゃならない。貞視に跨り、彼の頭の上に腰を浮かして・・。初めて間近に見る男の代物。自分のものでもこう、観察することなんて無い。貞視のを手で触れるのも初めてだ。自慰とは違う。握るその・・感触。体格もあるが、貞視の奴のがずっとでかい。
「ひゃっ。」
アナルをぺろりと舐められて思わず叫んでしまった。
「何すんだよ。」
「何って・・。俺達、何してるわけ?」
「・・。」
気を取りなおして奴のものを握り、すっと上下に擦って見た。これが・・俺の中に入ってるわけだよな。亀頭、とは良く言ったものだ。そんな・・感じするよ。意を決して、先っぽを口に入れた。ぴくっと口の中で跳ねるそれに驚いて離してしまい、再度口に含んで・・。貞視が俺にしてくれるように、舌先で転がして見るがどうもうまく行かない。吸い付いて見るけど、貞視・・気持ちいいのか?う、とも。あ。とも声が無い。それどころか、貞視が俺の腰に触れて舐め始めてくれるその方に意識が集中してしまい、四つん這いになっている態勢がきつい。腰が砕けそうだ。舌が中に入りこんで舐めまわされるその快感に痺れてモノを口から出してしまった。
「優考には無理だよ。・・おいで。」
優しい声に・・。俺は貞視の胸に頭を埋めた。足を開かされて、指がアナルの中を弄る。
「て・・帝司・・。俺・・。」
「無理すんなよ。大丈夫。リードは任せな。」
「・・下手・・で・・ごめん。」
「巧いほうが心配。」
入ったものが指から太いものに変わって・・。貞視がゆっくりと体を上げてくる。胸に埋まったままの俺を一緒に持ち上げて、ズブズブと・・奥に入ってくる・・・。
「あっあ・・・あ・・。」
「痛い・・?」
細かく首を振る。そっか。そう、貞視は呟き小さく笑うと、ベッドのスプリングを生かして跳ねた。
「あああっ」
しっかりと体を支えられて上下され、いつもより深い場所で暴れてくれるそれを感じて・・。貞視の手が、俺のものに触れて一擦りしないうちに俺は果てた。
「あ・・。」
「いいよ。」
繋がったまま。俺がベッドにおろされて・・。深く、浅くストロークされて回されて・・。息もできないくらい声が出て・・。
「くっ。」
貞視が中で弾けた。初めて声聞いた。
「優考・・。」
「ん・・んっ・・。」
長い長いキス。されながら乳首を摘まれて弄られて腰は動いていて・・。
「ふ・・あ・あ・・ああ・・っ。帝司・・。もうっだめ・・。」
無理やり口を離して声にした。ぐっと一番奥まで突きつかれて、ほぼ同時に果てる。熱く湿り、汗が滲んだ貞視の体がゆっくりと俺に覆い被って耳元でふっと息をついた。一仕事終えた職人のようだ。
「優考、泊まっていこうか?」
「・・帝司が・・したいなら・・。」
「ああ。もう少しこのまま、繋がって居たい。」
取れなくなったりして。ふふっと苦笑する貞視。重たいとか、そんなのは・・。安堵感が消していった。もっともっと・・。ずっと。こいつを見ていたい。
「・・俺も・・。」
呟いた言葉が、休み無しのセカンドステージに突入するとは思わなかったけど・・。