続・貞視 帝司という男

 体の上に柔らかな毛布がかけられ、ぼんやりと目をあけた。どうやら眠ってしまっていたらしい。起こしちゃったね。そう、母さんの声が聞こえて俺は体を上げた。座卓の上には溢れんばかりの料理が並んでおり、グラスとお猪口が二つずつ置かれているのが見える。まだ、貞視は戻っていない。
「ねえ、ユーちゃん。」
「・・何?」
「お母さん、とっても嬉しいのよ。」
「・・なんで・・?」
ぼんやりした頭を振り、小さく息をついてからタバコに手を伸ばした。机を挟んで正座で座り、丸いお盆を抱えてじっと俺を見上げる母さん。とても穏やかに笑っている。
「何が?」
カチッとライターを鳴らし、煙草に火をつけて紫煙をふかした。
「うん。ユーちゃんが、帰ってきてくれたからかな。それと、初めてお友達を連れてきてくれたこと。」
「・・はじめてだっけ?」
「そうよ。それもあーんなカッコイイ子。ユーちゃんって、面食いだったのねぇ。」
「・・母さんまで・・。」
ぽやん。と天井を眺めてうっとりと呟く彼女。なんか、論点がずれた親族だな・・。
「あら、本当に違うの?お母さんは、てっきりあなたがお父さんに紹介して、認めてもらうために帰ってきたんだと思ったのに。」
「どうして・・。そう思ったの?」
「うん。あのね。おかあさんね。もう、あなたが戻ってこないんじゃないかなぁって・・考えてたの。東京の大学に行くって言ったときから、帰ってこない子だと思ってた。でも、一年に一度だけ戻ってきてくれてたじゃない?お母さん、それだけでとても嬉しかったのよ。でも、去年は・・。つまんないような、疲れたような顔をしてた。」
「・・そう?」
「うん。そうね。だから、帰ってこないと思ったのよね。」
一時の沈黙が流れて、彼女はふとグラスにビールを注ぎ入れた。一つを俺に差し出して、一つを自分の口に運ぶ。美味しそうにビールを飲むと、軽く笑った。
「あなた、どうしたいか分からなくなっちゃったんでしょ。だから、連れてきたんでしょ?」
「・・さあ。自分でもよく分からなくて・・。成り行きかな。」
「ううん。違うわ。誰かに背中を押して貰いたかったのよ。それで良いんだって。認めて欲しかったのよ。彼は、あなたの事をとても大切にしてくれてる。」
「・・そう・・だね。」
嬉しそうだが、淡々と語る彼女を直視できなかった。言い当てられているようでもないのだが、何か・・後ろめたい。何かに迷っていて、何所か決定できていなくて。あやふやな自分の気持ちに決着もつかなくて。いつも何か成り行き任せでいて・・。大切にしてくれている。そう、言いきられると納得するような・・気もする。
「ユーちゃんも、彼が大事よね。」
「え?」
「えっ・・て。そうじゃなくちゃ、そんなに綺麗にならないわよ。・・でも。髪形はお母さんには許せないわ。また自分で切ったんでしょー?」
「・・うん。」
何に。何所に。どの言葉に。返事をしたんだろう。手の中にあるグラスを口に運びつつ、なんとなく喉に流し入れた。炭酸が喉を刺す。
「ねえ、ゆーちゃん。」
「何?」
「世間体とか、考えてる?」
もう、完全に。彼女の中では俺と貞視はそう言った関係の仲。と落ち着いて話している。その流れに乗ったほうが正解なのかもしれない。たぶんきっと、否定しても覆されるだろう。ビールが入るグラスを口に運ぶ彼女は、それを確信しているのか。親だから、何かわかるんだろうか。
「お父さんと、お母さんは。この家だから、認めてもらったの。中学卒業と同時くらいにみのり君を生んだのね。そりゃ、幸せだったわよ。年が明けるより早く、あなたが生まれて・・。でも、慣れてしまうと、学校に行きたいの。自分の両親に会いたいの。絶縁されてしまっていて・・。会えないの知ってても。行けば良かったのよね。親なんだもの。」
「・・かあさん。・・俺は。」
「できない・・。ううん。しないことに後悔したわ。自分で選んだのよ。」
「俺は・・。」
「思うように。しなさい。このうちの人なら、誰もあなたを軽蔑しないわ。後悔してもいいの。私は幸せだから。」
「・・・強いんだよね。このうちの人達は。自信があって、誇れるものがあって。守っていくものが・・。俺にはまだ、ないような気がしてる。踏み込めないのも、・・もやもやしたものもあって。見えないものに後悔もないし、でもだからつまんないような気がしてて・・。」
グラスの中身を飲み干すと、彼女はすぐに注ぎ足してくれた。
「見つかったから。不安なのよね。消えてしまうことに、怖さがあるのよね。認めてしまうと、壊れたときを考えて後悔する。流されてるふりをしてるの。」
「・・。」
「だって、ゆーちゃん。彼を探してたわ。」
「・・。」
何も言い返せなくなってきて、俺はまたビールを飲んだ。煙草に手を伸ばして火をつける。
「恋をするのが初めてで、怖いのね。」
「・・そうなのかな。」
「ふふふ。」
軽く笑う彼女は、不意に立ち上がって俺の隣に座ると、俺の顔をその胸に収めた。柔らかい腕が頭をすっぽりと覆う。聞こえる呼吸音と・・心臓の鼓動。軽く髪を撫でられて・・。そんな中、戸が開いて貞視が姿を現したが、一拍置いてからごめんといい戻ろうとする。母さんは立ち上がって貞視と交代するように部屋を出ていった。ゆっくりと戸が締まり、妙な沈黙が流れる。
「・・どうした?」
貞視がそう口を開き、俺は首を振った。持っていただけの煙草を消して、立ち上がり貞視の前に立つ。胸元を見ていた。ゆっくりと顔をあげて貞視を見上げて・・。彼の首に手を回してしがみついて・・。彼の腕が俺の腰に回った。
「優考・・?」
「・・ん・・。もう、呑まない・・か?」
「ん、ああ・・。そうだな。」
「呑みすぎた?」
「少し。」
「疲れた・・?」
「・・。」
俺の腰に回る貞視の腕に力が入り、体を密着させられた。俺は貞視の顔を見上げて、何かの合図をしたように貞視の顔が降りてきて、軽い口付けを交わした。貞視の顔がそのまま、俺の首元に降りてきて肌を吸う。嫌じゃない。彼の首に腕を回したまま、肌を座れる感覚に酔った。貞視の手が、俺の服をたくし上げていく。肌を撫でられて敏感にも反応してしまう。欲しくてたまらない。貞視を・・離したくない。必死にしがみつくが、体が痺れていくような感覚に不覚にも手を放してしまった。だけどもう・・自力で立っていられない。
「優考、酔ってる?」
「・・少し。」
「後で怒るなよ。誘惑したんだからな。」
「・・ん・・。」
ベッドに押し倒され、少し強引に服を剥ぎ取られ肌という肌を食われた。生暖かい舌が全身を這い回る。耐えきれずに止めさせようと貞視の肩を押すが、その手を押さえつけられた。足を開かされて、その口に咥えられ、舌で包まれなぞられて。押さえられた手を振り解き洩れそうになる声を手で塞いだ。貞視の手が伸びてきてその手まで捕られて泣きそうになるのに堪えて首を振る。やっとその口腔内から解放されたとおもえば、大きい掌に包まれた。
「優考。聞かせろよ。」
「や・・や・・だ・・。響くから・・。や・・。」
くいっと軽く擦られて体が跳ね上がった。
「ぁああっ・・。・ふ・・・んんっ・っ。」
その手を止めようと手を伸ばしたら、指を舐められた。
「さ、さだみっ。」
「ん?」
「意地悪・・。」
「何で?誘ったの優考だろ?ちゃんと聞かせてくれれば・・。」
服を着たままの貞視の体が覆い被さってきて、キスをした。舌を絡めて激しいほど吸いあって・・。穴に指先が触れ、入ってくる。中を撫でられてる。二本目が押し込まれて・・。悲鳴に似たような声が出た。体中に汗が滲んで流れてく。布地に擦られてまた吹き出す。指が奥まで差込まれて擦り上げられていくような漏らすような、腰が浮いたまま力が入らない。カチャカチャとベルトが外れる音がして、そっと指が・・引き抜かれた。突然体を抱き起こされ、簡単に持ち上げられ・・。硬く突き上げられたものが自重と共に突き刺さる。貞視の体に強くしがみついた。
「あっああっっ・・。ううっ・・。」
「力抜いて。」
「ぬ・・抜けないっ。」
小さく腰を突き動かされてあげた悲鳴。深く深く突き進んでくる。中で動いてる・・。ベッドがギシギシ鳴り・・。支えられながら上下運動。息も絶え絶えにしがみつく。繋がったまま、ベッドに寝かされて耳たぶをあまがみされた。唇を塞がれ、体が離れたと思えばすぐに突き動かされた。強く激しくなってくる。前も握られ、弄られて擦りあげられ、もう・・耐えられない。
「て・・いじっ。帝司ていじっ。・・も・・め・・だめ・・。く・・。」
「ああ、俺も・・いい。」
帝司が、クッと声を漏らして一番奥に突き上げられ、それが合図のように射った。ぐったりとベッドに体を預け、中に広がっていく帝司の体液の感触を・・感じて・・。
「帝司・・。服・・。ごめん・・。」
「洗えばいいじゃん。そんなの。・・勿体ねぇけどな・・。」
まだ繋がったまま、帝司は服を脱ぎ捨てた。
「足りねぇだろ?もっと突いてやるよ。」
「え・・?ちょ、ちょっと待って・・。休ませて。」
「い・や・だ。ほれ、ここだってまだ満足してなさそうだぜ?」
きゅっと前を握られてじわりと残りの液が溢れた。小刻みに揺らされて、まだ繋がったままの中を擦られる。
「ま、待って。マジ。タンマ。」
「待たない。」
そう言っても、帝司は俺の中から抜いてくれた。が、俺をうつ伏せにひっくり返すと腰を持ち上げて尻の肉を広げた。まじまじと眺めて指で突ついて吐息がかかったかと思うと・・。ぺろりと舐められた。
「ひゃっ。」
「くすぐったい?」
「ばっばか。止めろっ。」
「だからぁ、止めないってば。」
袋の裏まで舐めまわされて、とろりとした液が布団に伸びて・・。くちゅくちゅと音を立てながら自分の精液でコーティングされたものを弄られた。揉まれたまま、硬いものが入れられていく。枕に顔を押し付けたままその中で声を出した。ぐいぐいと突き動かされて、それに耐える力はもうないのに体は固定されていて・・。さっきよりまだ深い場所を行き来する、反しのついたような硬いもの。ゴリゴリと中を抉ってはまた潜り込んでくる。さっきのものが出し入れと共に溢れて足を伝っていく。耐えられないまま、掌の中で射くと、貞視はその液体をまた俺のものに丁寧に塗った。ぐっと掴まれては上下に擦られる。先端で止まっては爪で探られて・・。その動きとは別に腰の動きは激しくて一番奥まで突付かれるとその奥で棒が跳ね、穴を広げるようにして回され・・。一気に熱いものがもっと奥に入り込むように吐き出されて息もできなくなった。
「・・あ・・ふ・・ふ・・・ぅぁ・・。て・・いじ・・ぃ・・。」
「イイ?」
「も・・ゆる・・して・・。」
「ああ。」
グチュッ・・といやらしい音を立てながら、俺立ちは二つずつの体になった。横向きに寝かされ、意識は遠のいていく。それでも帝司は俺のものを弄り、玩んで反応を楽しんでいる。足を広げて先端にキスをしてストローのように吸い・・。別の生き物のようにぴくぴくと・・反応してる。
「帝司・・は・・。満足して・・ないの・・?まだ・・・」
「優考、もう無理だろ?いいよ。これ以上やると、お前泣かすし。」
「は・・ははは・・。泣く・・もんか。」
「ああ。・・強がり。そのままお休み。」
優しく髪を撫でられて・・・。そのまま意識は消えた。
 どしりと重たいものが体にのしかかり、目が覚めた。貞視が寝返りを打って、俺の体に腕が乗ったのだ。その腕を退けて、体を起こそうとしたが・・。腰に力が入らない。それでも何とか上半身を持ち上げて枕もとにあった貞視のタバコを一本口に運ぶ。火をつけようとライターを探していたら、背中につつつーっと指が当てられて身震いした。
「何すんだよっ。」
「怒ってる?かなっ・・てさ。」
「・・べ、別に・・。」
「なあ。俺の眼鏡知らない?記憶がないんだけど。」
「知らないよ。」
・・そう言えば、部屋に入ってきた時点で眼鏡かけてなかったような・・。
「優考のイク顔。良く見えなかったんだよなぁ・・。」
「見、見なくていい。」
「見たかった・・。」
そっと腕を引かれて近づく顔・・。俺が貞視に覆い被さる形で、重ねた唇。あいた手で乳首を摘まれ、辛くも反応してしまう体。
「何だ。優考も満足してなかったんじゃねぇの?」
からかい半分のその顔に思わず手が出てしまったが、簡単に掴まれて・・。ベッドと貞視に挟まれた。近づいてくる顔。キスをして・・擦り抜けていく。首元・・鎖骨・・・。俺の体をなぞるように這う掌・・。
「・・馬鹿・・。サル・・。」
「ああ・・。」
今度は酔った勢いじゃなくて・・。ちゃんとしっかりとしがみついて、貞視に爪あとを刻んだ。昨日の余韻もある。その中に滑りこむ貞視。足を絡ませると貞視に力が入った。
「もっと・・突いて・・。」
耳元で囁いた。今まで経験したことないような太さに突き動かされ・・。
「ユタカッ。」
「ぁあああっ。」
絞り出すような声に・・。同時に果ててベッドの中で転がった。
「さ・・先。射くとこだった・・。」
潰れたようなタバコを口に咥え、何所からともなく探り当てたライターで火をつけ煙草をふかす貞視。俺はその真っ直ぐ伸びる紫煙を眺め・・。貞視の口からタバコを取り上げ、一服ふかしてからその口に戻した。
「・・苦い。」
「ばあか。自分の吸え。自分の。」
「うん。じゃあ、起こして。」
「・・良すぎて腰立たない?」
「・・・・うん。俺・・もう駄目かも。」
「な、何が?」
「さぁ・・。」
たぶん。好き。きっと・・好き。貞視が大事・・。
「おい、いいかげんに起きろよ!何時まで寝てるんだ?イチャイチャするのも・・。」
ガラっ戸とが開き、兄貴がはっとした顔で俺達を見つめた。そして、ニヤニヤすると「若いね」と一言いい部屋を出て行く。
「片桐さん!風呂沸かしてくれ!!」
そんな声が屋敷に響き渡った。
「・・なあ、優考。お兄さん幾つだ?」
「25。」
「俺より若けえじゃん。」
「貞視、・・幾つ?」
「28。」
なんとなく気まずくなり・・・。風呂も別々に入った。朝食のような、昼食のようなものを食べてお茶を啜り・・。広い座敷の中、二人っきりでまったりとした時間を過ごし・・。
「なあ。俺の眼鏡さぁ・・。」
「知らないってぱ・・。」
誰も居ない広い屋敷で、一時の休息を感じた。