угрозаの卵周辺にフリーズをかけ、機能を停止させた。それはつまり、その周辺プログラムを経由しなければ起動できないプログラム全ての停止。それがどんな重要なものであっても無視した処置だ。世界中に混乱を招くかもしれない。何本目か数え切れないほどの煙草を吹かしながら、フリーズを解除しようとするプログラムを排除した。もう、主要都市の日は明けている頃だろう。送られてくるプログラムの量も増えつつある。それがどこから送られてくるか、そんなことを調べている隙も与えないほどの数。溜息も吐きたくなる。それほどこの場所が重要な場所で、あいつはそこに目をつけた。いかにすばやく増えられるか。その場所を知って卵を産み付けた。・・頭のいいугроза。あれだけは他のバグと違う。ウィルスでもない。だから、主要プログラムを傷つけることはない。それが危険だ。何もしないから排除されない。語さ程度の容量でプログラムミスに化けている。実体換算だと、いったいどのくらいの大きさなのか。俺達がプログラムの中に入って見る場合とは多分。違うんだろうな・・。
「よう。代わろうか?」
そんな声に振り向くと、軽やかにピースサインをするピーチボーイの姿。ブイサインするその五指が赤い。プログラム作業に関してはハーミットを上回る。無言で席を譲ると、彼は嬉しげにキーボードのキーを打った。
「へぇー。よく護ってたねぇ。ショーハ。ここ、スイスのユーメイなバンクだよん。」
軽さは、ロコと優劣を競うが、その軽い言葉とは裏腹な見事なキーさばき。任せていいだろう。安心したせいか、眠気が襲ってきた。空いた椅子に腰掛けると、そのまま睡魔に引きずり混まれ・・・。
「やだぁ!!!シャグも行くんだもん!!」
「駄目だって。危ないから。」
「いーやーぁ!!だって、シャグが行かなきゃあのугрозаがどんな特性かわかんないじゃん。」
「・・外でアドバイスしてくれればいいから。」
「やだぁっ。シャグだけ退けもんはいやだ。」
そんな騒ぎに恐る恐る眼を開けると・・。髪を振り乱しながら駄々をこねるシャグリーンの姿とそれに困惑極まる男達の群れ。そーっと煙草に手を伸ばして口にくわえ、火をつけようとした途端彼女が俺の元に跳ぶようにして近づき抱きついた。曲がる。折れる。砕ける煙草・・。
「ねぇ!!ショーハ。いいでしょ??シャグも行っていいでしょ???ねぇっ。」
今にも大粒の涙を落としそうな潤んだ瞳で見つめるシャグリーン。
「シャグ。多数決って知ってるか?」
「少数意見尊重!!」
「・・。」
男達の群れは、全員が一斉に溜息をついた。
「・・。シャグリーン・・。俺と残ろう。それならいいか。」
「ん?ショーハ、残るの?」
彼女は少しの間首を傾げていたが、なんとなく納得したように首を数回縦に振った。
「うん。じゃあ、残る。」
しっかと抱きついた彼女の腕を少し緩ませ、俺は新たな煙草を口にくわえた。
「じゃあ、私とピーチボーイ。ショーハ、シャグリーン。このメンバーが居残り。アルトワ、ロコ、ゲン、・・・と。パネルはまだ休んでるか。気をつけてな。」
ハーミットの言葉にプログラムに入り込む三人が強く頷く。その三人はいつも組んでいるから問題はないだろう。ピーチボーイは続けて外からの監視。俺達は居残り組み。三人は大スクリーンの前に立つとパッパと服を脱ぎそれぞれゆっくりとスクリーンの中に溶け込んでいった。彼らをあのугрозаの元に導くのがピーチボーイの仕事で、彼は手早くキーを打ちこんでいく。その動きをモニターで眺めていたが、シャグリーンに抱きつかれているせいで身動きは取れずじまいだった。
「いいかい。フリーズを解くよ。」
ピーチボーイがマイク越しに言い切り、キーを叩いた。見た目には変わらないが中ではプログラムの流れが生じる。угрозаが目覚め、孵化する時間が備わる。三人はコンピュータ内部のプログラムを用いてугрозаの卵を縮小させ始めた。簡単な圧縮作業だと・・見えた。それが奴に危機感を与えたのか。卵に亀裂が入り始め・・。俺は彼女の体を降りきってピーチボーイのマイクを掴んで叫んだ。
「離れろ!!」
飛び退くようにして卵から離れる三人。ピーチボーイはすぐにその場所にフリーズをかけ、卵諸共。三人の動きが止まる。
「痛いなぁ。ショーハ!!」
「・・ああ。悪い。」
飛びつこうとする彼女を捕まえ、ハーミットの腕の中に彼女を突き付けた。
「アンッ。」
「ハーミット。暴れても離すなよ。ピーチ、俺を飛ばせ。フリーズ解除したらすぐに三人を連れ戻せ。」
「OK。すぐ入れるぜ。」
「いやぁーー!!ショーハ!!」
叫ぶ彼女の声を聞く暇もなく。俺はスクリーンの中に飛び込んだ。一瞬にしてあのугрозаのいる場所につき、フリーズが解除されると同時に三人は別の場所に移転される。угрозаの卵は、見る間に殻を破っていき・・。俺はすぐ隔離プログラムを奴に放ったが難なく跳ね返されてしまった。まだ、孵化していない卵に、だ。
「チッ。」
思わず舌打ちし、軽く指を鳴らした。掌の中に自己破壊プログラム入りウィルスを詰めた弾丸の入るピストルを読みこむ。この周辺に多大な被害を及ぼすが、勝手に修復してくれ。そんな思いとともに銃を奴に向ける。躊躇いなく引き金を引くと玉はугрозаの卵に見事命中。ウィルスプログラムが弾け、起動するまでの時間、コンマ何秒。構えていた銃を下ろそうか・・・と気ゆるめた瞬間に何かが俺を弾き飛ばした。咄嗟に構えた従は何処かに飛ばされ、それを持っていた手が血で滲む。俺の目の前に一匹のугроза。後ろにも一つ気配がある。卵の中には・・プログラムが発動し、死んだугрозаが一匹。形状はパラダイス・バード崩れ。圧縮をかけたせいか、それに耐え切れず分裂したのか・・。それとも、もっと多量に入っていたものがくっついて三つになったのか。
「・・イテぇな・・このバカヤロウ。」
そう呟きつつ、前方の奴に指を指して指を鳴らした。姿が見えれば捕獲消去プログラムで捕らえることが出来る。すぐに網のようなものが舞い降り、前方のугрозаはそれに絡め捕られ、網が縮むにしたがいその姿は消去されていった。問題は後ろ。俺はそのものが見えていなければ何も出来ない。迂闊に振り向きでもしたら・・。
「ショーハ!!」
ピーチボーイの声が叫び、俺は振り向きざまに構えることしかできなかった。奴は、その鋭く長い嘴のようなものをもっと尖らせ俺に向かって飛んでた。そのまま肩に嘴が突き刺さる。貫通した手応えに、俺はその嘴の根元を掴んだ。
「ギ・・・」
угрозаが鳴く。俺がその嘴を肩から引き抜こうとしたその時。奴は何と、頭をもう一つ頭部分から生み出し、・・ニタァ・・と微笑んだ。鳥の目が笑う。そんな気味の悪いことはない。そしてそいつは・・。新しい頭から眩い閃光を放ち、爆発した。嘴で肩を貫通されては逃げることは出来ず。俺は何処かに吹っ飛ばされ、意識を失った・・・。