・・・・。
・・・・。・・・・・・。
 あれから・・。どのくらいの時間が経ったか。プログラムの果てに飛ばされたらしいことはわかるが、ここが何処だかは判らない。取り敢えず外に出たい。起動していないプログラムの空間は暗い闇に覆われ、寒い。腕と肩の出血は止まった様子だが痛いのに代わりはない。痛い。ソレハ生きた証拠。か・・?取り敢えずは生きているらしい。感覚より目を凝らし、ここから一番近い出口を探した。起動していて、なおかつ他の世界と繋がっている場所。ぼんやり眺めていると、俺のすぐ真横に光が差した。今まさにケーブルを繋いだ証拠だ。俺は気だるい体を持ち上げ、その光に腕を突っ込んだ。暖かいよりは少し熱い空気が腕の感覚を刺激する。腕を引っ込め、光に頭を突っ込むと鳩が豆鉄砲食らったような顔をした黒髪の少年が目を見開き、仰け反っていた。口をパクパクさせ、しきりに目を擦りあげる。まるで、夢でも見ている、といった顔だ。周りは小さな部屋で厚ぼったいカーテンが窓にかけられていてドアがしまっている。俺がここから出ることを知ったのはこの少年のみ。俺は頭を出したまま、腕を伸ばした。
На помощь
俺は助けてくれ。といったつもりだが、彼はきょとんと目を見開く。言葉が通じない場所に来てしまったらしい。仕方ないので、手招きした。が、だんだん彼は遠ざかる。仕方ないので目いっぱい腕を伸ばし、彼の腕を掴むと、彼は驚いて目いっぱい体を引き、俺はようやくプログラムの中から出ることが出来た。小さなモニターの中から無理やり体を引きずり出し、机から転がり落ちるようにして床に落ちる。腕と方を庇ったつもりだったが直撃したらしく、体中に激痛が走りまた出血が始まった。小さく唸りながら肩の傷を手で覆い、体制を整え、床にあぐらをかく。少年は、唖然と口を開けたまま・・目をぱちくりと動かしていたが、はっと何かに気がついたらしく布団のシーツを引き千切ると俺の肩にあてがった。
「あ・・。う・・。ええっと・・。」
言葉にならない声を出しながら、彼は慌てている。こんなときどうすればいいか。そんなことハーミットに教わったことはない。仕方なく、世界共通だといわれる英語を思い出しつつ・・。
「チャイニーズ?ジャパニーズ?」
そう、彼に指を指して聞いた。黒髪、黒目。幼い顔立ち。黄色の肌。多分、この当たりの人種だろう。
「じ・・。ジャパニーズ・・。」
彼自身。落ち着こうとしているのか。まだ、驚いているのか。もう一度、シーツを引き千切ると今度は俺の手の怪我のほうにもシーツを巻いてくれた。こう言う時、英語ではなんというのだっけか・・?そんなこと判らない。
Спасибо」
わかる言葉で止めておいた。ジャパニーズ、・・日本人、・・日本語。彼が止血してくれている手を解き、俺は今出てきたパソコンの前に立つと、その中から日本語のテキストを呼び出した。取り敢えずパソコンのデスクトップの中に腕を突っ込む。
「ん・・。相互性が・・悪いが・・。」
なんとか日本語を読み取り、少しだけ記憶に入れた。俺の頭はそんなに要領よくないので覚えられるのは少ないが、なんとかこれでお礼くらい言えるだろう。
「ありがとう。君のおかげで助かった。」
「ど・・。どういたしまして・・。」
彼はぺこりと頭を下げる。お辞儀。というものらしい。して返さねばならないのだろうか・・。
「って、そんな和やかな事してる場合じゃねぇんだよ。あんた何者??そんで、なんで素っ裸なんだよ。大怪我してるし。なんでこっから出て来るんだよ!!!」
・・・・。理解できませんでした。俺は首を傾げると、彼は大きく深呼吸をすると、無言のまま部屋を出ていった。しばらくして戻ってきた彼は、俺に服を差し出す。
「取り敢えず、これ着て。」
そう言われて手渡されたのは小さめなトランクスで、無理やりにも履けなかった。仕方ないので引き千切ったシーツの片割れを体に巻きつける。
「・・肩。痛くないか?病院・・。」
「痛い。病院は要らない。」
「じゃあ、どうするんだよ。放っとけば悪化するし、俺、治せないし・・。」
安心させてやりたかったが、俺には今どうする事も出来ない。血に染まる方のシーツを掴んで、小刻みに揺らす彼の小さな手を包み込んでやった。小柄な体。幼顔。まだ整わない声。シャグリーンより細く見えるその体躯の持ち主は、俺を恐れない。脅えない・・。それどころか、こうして傷の手当てをする。それが奇妙に感じる。どんな体躯のいい男だって、俺の姿を見れば化け物扱いした。・・脅えていたのは、俺のほうなのか。
「取り敢えず、煙草が欲しい。」
「・・駄目だ。体に障るだろ。それより、体を休めることが第一。」
彼はふ・・と、俺の顔を見上げて小さく微笑んだ。真っ直ぐな、真っ黒い瞳。見透かされるようなだな。
「俺、孝原千頼。ちより。あんたは?」
「・・ん?」
「名前。名前、何て言うんだよ。」
「・・。ショーハ。」
「ショーハ・・。」
彼はその言葉を噛み締めるように呟くと、吐息をつき肩の力を抜いた。
「身長、どのくらい?何cm?」
「・・198cm。」
「cm、だよな?フィート、じゃないな?」
「・・何の話だ。」
「あ。いや。服だよ、服。俺のじゃ着られないだろ。買ってくるから、じっとしてんだぞ。」
彼、いや・・千頼は、俺にそう指差しつつ言いつけると、まるで、迷子になった子供をあやすように俺の髪を撫でてから部屋を出ていった。子供じゃなくて、子犬や子猫を拾ったときのような感じなのかもしれない。でも・・。居心地は悪くない。
 じっとしていろ。そう言われても暇だ。体の傷は見た目は酷いが、馴れた痛みだ。ちょっと彼のパソコンをいじり、ロシアのハーミットとコンタクトを取ろうとしたが、向こうもまだトラブル中らしくその姿を隠したままだった。仕方がない。угрозаによってプログラムを爆破され、破壊されてしまったのだ。直接繋がっていたオンボロコンピュータが、いくら性能が___いっても被害を回避する事は無理だろう。俺が無事_ということくらいは伝えたかったが・・。あの場所、電話がない。この、家庭用パソコンを駆使して取り敢えずのパスポートを作り、あの、有名なスイスの国の銀行のトラブルに乗りカードを作った。そのプログラム内に怪我していない右手を突っ込み、実物を取り出す。この手の作業は違法だが、その場しのぎには使えるだろう。俺がここに飛ばされた以上、угрозаもこの辺りに潜んでいる可能性が高い。それを見つけるまでの辛抱だ。あいつ、千頼が戻ってきたら、このカードを使って買い物をしよう。・・知らない街を歩くのも面白い。それに、物資が足りない。この小さなモニターでは、出入りするのが不便。コンピュータのほうもロシアとコンタクトを取るには家庭用では限界がある。あくせく物事を考えているより、煙草をふかして彼を待っていたほうが得策だ。煙草が欲しい。飲食物はプログラムから取り出せないのが残念だ。無いものは・・欲しいな。部屋をきょろきょろと見まわすと、週間雑誌のようなものの中から女性のヌード写真集を発見。あの、童顔の彼は、一体幾つの男なのだろうか・・。