ここは宇宙の僻地。四人の人間が椅子を並べ、透明な丸いポットの中で惑星、流星、隕石などの衝突。及び爆発などの衝撃により生み出される小生命(ウィルスなどの微生物)の発生確認及び、飛来確認。捕獲、駆除。警報発令などの仕事を受け持つ宇宙間疫病検疫所所属、疫病発生探査隊第114施設。太陽のような自発光星が無いため、人工光とポット兼モニターの光だけで暮らしている。居住区とは言わんばかりの寝るだけスペースのベッドに転がりつつ、地球で覚えた煙草をふかしながら見飽きた宇宙をぼんやり眺めた。重力に引かれたもの。何かに吹き飛ばされたもの。そこに留まるもの。留まることの無い同じ形の無い塊を眺めつつ、瞼が重くなっていくのを感じる。燃え付きそうな煙草を飲み物が残るカップに沈めながら俺はベッドに沈んでいった。他の三人は、睡眠を必要としない。ここは混ざりものの俺だけが使用しているようなもので、殆ど俺の個室として使われているが・・・。ウトウトとしかけた矢先、けたたましい警告音が狭いポット中に鳴り響いた。丸めて抱いていた布団を頭の上まで深く被り、耳障りな音をかき消そうとしたが細い手が俺の体を揺すった。
「ユー。起きて。緊急事態よ。」
動揺の無い平坦な声。コースマス星団イチ感情表現の薄い星ネリピア星出身。ここ、唯一の女派遣隊員のギリツの声だ。俺は布団を強く握り締めたが、彼女の手によって無理やり引き剥がされた。無表情の白い瞳が俺を見下ろす。
「聞こえてるでしょ?緊急事態なの。起きて。」
「寝みぃーんだよ。」
「そうみたいね。でも、この地球時間の4時間後には一番近いロカルクター星生物が滅びるわよ。」
「・・は?」
「イエロークロス。発生・・。」
彼女はそう言い残すと、極限まで短く切り、つんつんと立つ茶濃色の髪に手ぐしを通してエアーカーテンでしきられるモニタールームに姿を消した。俺はベッドから体を上げ、素足を床につけると欠伸をしながら首を鳴らし、枕横に置く残り少ない煙草を口にくわえて立ちあがった。足元まですっぽりと覆う長いシャツを着こみつつ、エアーカーテンをくぐるとキースが巡視奉告マイクに向かって何度も何度も同じ事を叫んでいる。ポットの中は気が狂いそうな大きな音で「緊急事態」と音声が繰り返され、バルトークがモニターに向かって危険微生物の発生源特定に躍起になっており、俺はキース側の椅子に座って溜息交じりに艦内放送のスイッチを切った。
「イエロークロス発生。緊急事態、イエロークロス発生。発生ポイント・・。」
キースがちらりとバルトークを見る。彼はモニターを睨みつけながら、艦体となっている透明な壁に映るモニターの1区画を丸で囲った。
「ロカルクター星、約6、78マク。惑星衝突により、イエロークロス発生。緊急事態。惑星衝突により、ロカルクター星、距離約6、78マクでイエロークロス発生。」
「ロカルクターより、イエロークロス確認。検疫隊派遣要請。」
「了解。本部検疫隊派遣要請受理。」
「本部、ロカルクター星より検疫隊派遣要請です。」
キース、ギリツ両名がマイクに向かって声を荒げる一方、バルトークは発生微生物の四散状況を計算し始めている。俺は、咥えていた煙草に火をつけひとふかしした後、艦体にとりついたと思われる微生物の除去装置を立ち上げた。モニターになる艦体の壁はありとあらゆるデータで埋め尽くされようとしていたが、一体のイエロークロスが飛んできて艦体に叩きつかり潰れた。その体内の色は体と同じ黄色だが、その液体から何千万とそのコピーが生まれ船体に広がり始める。思ったより移動速度が速いことにバルトークが溜息をもらし、計算式を直し始めた。
「排除ロセクター、起動。・・揺れるぜ。」
モニターに触れた途端船体ががくっと大きく揺れ全てのモニターが一瞬機能を失った。が、船体角度が元に戻るとすぐにモニターは復活する。広い宇宙を隕石などを巻き込みながら飛んでいく丸い黄色い微生物。緊急放送を終えたキースが椅子に持たれかかりながら空を見上げた。
「なぁーあー、バルゥトークゥー・・。飛散状況は・・?」
「早過ぎる。」
「本部、ロカルクター派遣要請受諾。転送許可要請。」
「転送許可。」
ギリツとロカルクター星のやり取りの中、バルトークは眉間に皺を寄せた。
「イエロークロス。ロカルクター飛来。数2千万。リテラ体500。」
「リテラ体500??」
思わずキースが声をあげ、そのまま口をあけたまま翠の目を見開く。俺はモニターにロカルクター星を映した。ようやく、惑星体防御網が発射され、徐々に網が開いていく。開ききらない網の隙間からイエロークロスは惑星に吸いこまれるようにして降り注いでいく。監視ポットの中ではこれが精一杯の仕事だ。後はどんなことがあっても手助けすることが出来ない。その設備はこのポットには・・無い。有ったとしても、母船クラスのものでも追いつく事も出来ないだろう。俺は半分ほどただ燃えてしまった煙草をふかしつつ、船外排出装置の中に微生物誘導捕獲機を投げ入れた。通称、メーブ。宿生、奇声種が自ら好んで宿るように作られたもので、それが船外に出た途端その中に一体のイエロークロスが入りこんだ。そのメープをすぐに回収する。メープは自動的にその微生種を解析し、船体と同じ構造で外壁いっぱいにデータを映す。黄色い鞠状の体。上から触覚が二本。その先に楕円形の腐乱袋がある。その色が赤いとリテラ体。黄色いと、そのリテラ体が壊れた後に生み出されるエラ体。エラ体はリテラ体のコピーのようなもので増殖機能は無いが、リテラ体は無数に増えることが出来る。それも自発的に、だ。
「駆除。」
メープに呟くと、それは自動的に駆除剤を散布し、透明な球はまた空になった。
「ユー。特徴は?」
「昔、ビネウを滅ぼしたやつと同じタイプだって事だけだ。生命力が強く、よく増えて。腐乱スピードも速い。・・俺、寝なおす。排除ロセクター切るなよ。」
ファアアアとでかい欠伸をするとバルトークは呆れたような顔で首を振った。
「地球人ってのは不便だな。眠るなんて効率の悪い。」
「仕方ねぇだろーが。体内構造がそう刻まれてるんだからさ。」
「でも、ローグ星の人はどの星の人より長く生きるわ。バルトーク、貴方より彼のほうがここの勤務長いのよ。まぁ・・。煙草って言う地球の悪癖は私も感心しないわね。」
「同じようなものならライノの星にもあるよ。・・ロカルクター・・にもね。」
モニターに映し出されたままのロカルクター星。防御網が完全に開き星を覆って効力を発揮し始めたが、半分以上のイエロークロスが惑星内に浸入したのを確認済みだ。後は本部から派遣された衛生隊に任せるしかない。三人の話に耳を傾けつつ、エアーカーテンをくぐり、倒れるようにしてベッドに入りこんで布団を抱いた。