寝ているはずの俺の体が浮きあがったような感覚がして目を開けた。俺はキースに抱きかかえられたまま、薄寝ぼけたまま彼の歩みの振動にまた眠りに吸いこまれそうになったが、どさりと椅子に下ろされ思いきり机に頭を打ち付けた。ライノ星人は力持ちだが、乱暴なのがたまに傷だ。
「・・痛い・・。」
「おはよう、ユーリアス君。」
聞きなれない声に重たい頭を持ち上げ、右手で支えた。俺の前に座り両手を組んでいる奴が着ている服は・・見覚えがある。たしか・・。衛生局本部司令官が・・。そんな制服を着ていたよう・・な・・?
「しっかり起きたまえ。ユーリアス君。君は、駆りの腕は良かったね。」
「・・まぁ・・。一通りは出来るけど・・。」
ぼんやりとした視界を頭を振って立てなおし、でかい欠伸をして目いっぱい肺に空気をとりいれた。次第に鮮明になっていく視界。目の前にいる人間をまじまじに見つめると、寝ぼけていた頭が一瞬で冴えた。目の前にいるのは、コースマス星団及び関連友好条約に基づく惑星団最上人物。つまり、星々のトップクラスを纏め上げる唯一無二の議長。ギュア。衛生局本部司令官より、ずっとずっとずーーっと上のお偉いさんより地位も高く、権力も偉大な人物。お偉いさんの一番上という存在には到底見えない青年だが、統括能力に優れた逸材だそうだ。それがこんな隔離されたようなとこに何の用だ・・?
「目、覚めたかい?ユー。煙草と、これは珈琲。」
キースはそう言うと、机にそれぞれを置いて俺に背を向けた。
「お、おい、キース。」
「ユーに直々に用事なんだってさ。」
彼はそのまま、背を向けたままエアカーテンの向こうに行ってしまった。俺はそれを眺めつつ、キースが置いていった煙草を手に取り口に運ぶ。
「ほぅ。それが地球の・・煙草、ですか。どうするんです?」
「この先に火をつけてふかすだけ。食えないよ。毒だから。」
目の前の彼にタバコを勧めたが、彼は静かに首を振った。俺はその煙草をしまい、指を鳴らして煙草に火をつける。空気中の水素を擦り合わせて発火させるというのが原理らしいが、ローグ星人の殆どが使える力だ。
「で、お偉いさんが直々に俺なんかに何の用なんですか?」
「君を地球に派遣したい。」
「・・は?」
「だから、君に地球に行ってもらいたいんだ。」
いきなり本題過ぎたかな。彼はそう呟いて苦笑した。
「何で俺が?だって・・。」
「そう、太陽系第三惑星地球。そこはこの惑星条約に関連はない。発展途上、未開発惑星と言ってもいい。だが、イエロークロス、リテラ体一体が地球に落ちた。地球は遠いが、だからと言って放っておくと星で増えるだろうイエロークロスがここまで飛来しないとも限らない。それに、知っているものが知らないものを見殺しにするって言うのも・・どうだろうか?」
彼の目の奥が、俺の考えなんか全て見通せていると言わんばかりの視線を送ってくる。当然そうなんだろう。俺が何を言っても、覆されることはなさそうだ。しかし。
「俺が地球生まれだから?母親が地球人だから?その星を見捨てられない・・と?」
「君が地球生まれだから、星を見捨てられないとは思っていないよ。ただ、君の体が星に適している、という理由だ。幼少時を地球で過ごした君の体には僕等には知り得ない病原体の抗体が備わっている。今現在ある新しい病体も今・・。」
彼がちらりとエアカーテンを見やると、偶然か必然か。キースが注射器を持って浮かれ顔で現れた。
「出来たてほやほやー。キース様特製。ユーにしか合わない地球産病原体抗体。オマケ付き。地球がぶっ壊れるか、ユーが寿命で死ぬのが早いか。とにかく、病気では死なないようっと。」
キースはそう言いながら俺の右腕を掴むと、あっという間に注射着の針を俺の腕に射し込んだ。
「ぶしゅーーっと。」
「擬音付けなくていいって・・。」
ポンっと俺の腕から引き抜かれた針。その針を指した個所の上に、丸いチップを貼るキース。
「嬉しそうだな、キース。俺がいなくなるのがそんなに嬉しいのか?」
「んー。ここからエリートが生まれたってのが嬉しいね。議長様に会えたって事も嬉しいしさぁ。それに、ここで無駄口叩いてる暇はないんだよね。あと300人分の抗体作りしなきゃ。人手が足りないのさぁー。」
キースはそう言いつつ、両手を肩の位置まで挙げてまたエアーカーテンの奥に消えていった。
「適任は君しかいない。地球には我々の血筋も残っているだろうが、あの船に乗っていた君の父親が唯一のローグ星人。その殆どがマリム星人。知っているだろうが、マリム星の人はこの協定惑星の中で一番寿命が短い。こちらのことを知っている人間はいないと確信していい。」
もはや・・溜息も出ない。適任、どころか、・・強制的だ。それも通信手段も持ち合わせていない未開発惑星・・とはね。俺の母が地球人とはいえ・・。あんまりだ。
「準備期限は地球時間で三日。その頃には、さっき君に入れたものが定着するだろうし、小型通信機なども改良が済む。・・任せていいかな?」
「議長さん・・さぁ・・。それ、脅迫だよね?」
「はははは。脅してはいないつもりだけどなぁ。」
彼は、俺の肩にポンっと手を添えた。そして、にっこりと微笑むと転送装置を動かし、どこかにすっ飛んでいった。キースに貰った珈琲を飲むということも出来ず。二本目の煙草に手を伸ばすこともできないまま。俺は呆れて頭を抱えていた・・・。