しばらく走ると、ネットで囲まれた場所で何か運動している者達が見え、それを通りすぎると砂で覆われた場所にでた。何か棒のようなものを振りまわし、球をその棒で打ちつけている。一本、その棒が地面に転がっていたので手に取った。振り回してみたが、意外と重い。
「ユー!!来たよ。」
「・・ああ・・。」
散らばっていた人が何かに追われるように駆け出した。彼らを追うのは黒い物体。四足で走る動物。もう既に、イエロークロスの手中の中・・。操られ、仲間を増やそうと手当たり次第に傷をつけてその体内に侵入する気満万だ。棒の隣にあった球を掴み上げ、思い切りその動物に向かって投げつけた。球は的に大当たりで、ぎゃんっと声をあげ倒れる。その隙に逃げ惑っていた彼らは立ち止まったが、動物がまた起きあがろうとしたのでまた走り出した。俺はその逆に走り、黒い物体の前まで行くと突然そいつは俺に向かって牙を剥いた。唸り声を上げ、長く伸びた口からタラタラと唾液を垂らす。奴は助走もなく俺に飛びかかり、俺の左腕に噛り付いた。痛い。というより、すぐそれを振り払って地面に叩き付けると持っていた棒を振りかざす。狙うは・・頭。奴は素早く起きあがり、また飛びかかってきたのでそのまま頭めがけて棒を振った。グシュッ・・とした音と感触。飛び散る赤い体液と肉片。どさりと落ちた肉体。目玉だけがよろめきながら動き、それを踏み潰した。足を退けると、行き場をなくしたイエロークロスが辺りを見まわしている。その前に捕獲機を転がしてやると、奴はそのまま透明な球体の中に滑りこんだ。持っていた棒を捨て、メーブを拾い上げる。
「捕獲完了。だけど・・エラ体だ。」
「ユー!後ろ!!」
キースの声に振り向くのが遅く・・。強烈な体当たりを浮け、俺はすっ飛んだ。起きあがってみれば、さっきのよりは三倍はでかい黒い動物・・。
「・・いてえな・・。」
武器だった棒は奴の足元に転がっているし、メーブは飛んでいった拍子に何かにぶつかって割れたらしい。イエロークロスが飛んで、でかい動物の頭に吸いこまれるようにして入っていくのが見えた。黒く、でかい動物は唸り声を上げ両前足を上げるとまた二周りは大きく変化していく。牙が伸び、前足の爪が鋭く伸び尻尾から尖った槍のようなものが出た。戦闘態勢・・完了・・ですか・・?
「キース。俺に武器をくれ。」
「駄目だって。そっちの何かでやってくれなきゃ。違法だよ。」
「・・今、そんな事言っている状況・・?」
奴が素早い動きで右腕を振り下ろし、飛び退いたが次の左腕が振り下ろされる。避けたはいいが、尻尾の槍が俺の頭を狙う。咄嗟に避けたが、その尻尾が俺の首に巻き付いて俺の体はそのまま持ち上げられた。俺だって人間。首絞められたら苦しい・・・。もがく暇も与えられず奴は鋭い爪で俺の体を引き裂き、左肩に噛り付いた。悲鳴も上げられない・・。が、頭を近づけてくれてありがとう・・。右手で拳を作り、懇親の力を込めて米神部分を殴りつけた。意外にその体は脆く、拳はそのまま奴の頭部を突き破り、首を絞めてくれた尻尾が緩んで地面に叩きつけられた。奴の体がぐらりと揺らぎ倒れこむかと思ったが、やはり甘くない。頭に大きな穴があいただけで、頭部が木っ端微塵になったわけじゃない。咽込みながら立ちあがり、棒を拾いによたよたと歩いた。棒を拾い上げ、振り向きざまにそれを振りかざす。飛びかかってくるような気がして正解。奴の頭は粉々に砕け、その巨体はその場に倒れた。二体のイエロークロスが今度は俺に向かって飛んでくる。メーブで捕獲している暇はなく・・・。仕方なく、捕殺機(ダリア)を手にして飛んできたメーブの前に出した。勢いよく飛んできたイエロークロスは止まることなくダリアの中に入る。ダリアは、メーブと違い、収納したものを消滅させる機能を持つ、四角い形状のものだ。ダリアは、イエロークロス収納確認の後に小さな発信音を出し、その四角い形状の中に炎を吐き出した。イエロークロスは断末魔もなく消去される。その場にへたり込み、ほっと息をついた。
「か・・完了・・・。もう居ないよなぁ・・?」
「ああ、大丈夫。ご苦労様。ん・・で、無事か?」
「お前はこれが無事だと???・・いてぇ・・。それに、武器が現地調達ってのはどう言うことだ!!そっちの転送してくれりゃー、こんなっ。」
「ユーリっ!!」
俺を呼ぶ声がして怒鳴っていた言葉を遮った。春珈、哉太。久住が駆け寄り、呆然と立ち竦む。だが、春珈はすぐに自分のシャツを脱ぐと、俺の左肩に強くあてがった。
「何だよ・・これ。」
横たわる肉体を見て彼方は顔をしかめぼやいた。
「そんなのどうでもいいだろ!!哉太ッ、手、貸してッ。ユーリ、立てる?」
「ん・・。ああ。大丈夫・・。少し待てば治るから。」
「こ、こんな傷待って治るわけ無いじゃん・・。ユーリ・・馬鹿だ・・・。」
半無き状態の春珈。それでも気丈に振るまい、震える手で俺の肩の止血に当たる。俺は彼の頭を撫でてやりたかったが、あれの頭を打ち抜いたせいで手は赤い体液だらけ。自分の服で拭っては見たが、服も体液だらけで拭ったのかそうでないのか見分けがつかない。久住と彼方が俺の腕を掴み、体を引き上げ支えた。動かしたせいで体中の傷が軋み、声が漏れてしまった。すぐ治るとはいえ、痛いものは痛い。
「ユーリ??」
「だ・・。大丈夫、大丈夫。だから・・。泣くな。」
思ったより出血が多く・・。二人に支えられたまま、そのまま気を失った。
目を開けると、知らない建物の中。白いベッドに寝ていて、春珈が俺の右手を掴んだまま布団に突っ伏して寝ている。右手首にあるはずの機械がなく、服も違う。変わりに、体中白い布が巻かれていて何やらわからない液体が管を伝って俺の中に注ぎ込まれている。キースからの声も聞こえない。春珈を起こさないよう、そっと体を持ち上げたが、やはり動いたせいで彼は起きてしまった。軽く目を擦りながら彼は体を上げる。
「・・ユー・・リ・・?」
「ん・・。ご免なぁ。春珈。ここ、何処だ?俺の・・・。」
「ユーリ?・・それ、何語?」
そうだ。あれがないと、言葉が通じない・・。それに、春珈の言葉も理解できない。俺は数回首を振った。そして、右手首を指差してみた。春珈はしばらく考えていたが、俺をベッドに倒すと部屋の中にあった棚のような場所から機械を持ってきてくれた。
「ありがとう。」
「ううん・・。ユーリ、大丈夫か?」
「ああ。たいしたことない。春珈、ここは何処だ?」
「病院に決まってるじゃないか。大学中、大騒ぎになったんだぞ。あれ、・・。」
彼はそう言いかけ、小さく首を振った。
「何?」
「ううん。何でもない。もう少し体を・・・。」
不意に、ドアを叩く音がしてドアが開いた。白い服を着た男が入ってくる。
「あ・・。先生・・。」
呟き、立ちあがる春珈。ぺこりと頭を下げる。
「君、気分は?」
彼は俺を見下ろして聞いた。
「別に悪くないよ。あんた、誰。」
「ユーリ、お医者さんだよ。ユーリを治してくれた人。」
「・・・・・・。」
刹那の沈黙。医者、という人物は、春珈に部屋から出るように示唆した。春珈はうやうやしく部屋から出て行く。
「君、自分の血液型を知っているかい?」
医者は春珈が部屋から出たのを確認して、そう呟いた。そう、体は人間だ。地球人の母から生まれたのだから、その細部にいたっても母親の体に近い。だが体液はそうは行かない・・。傷は白い布に覆われていて分からないが、もう完治している。ここにとって。俺は異質だ。病院とは、医療所のことだろう。
「どうしました?」
「・・いや。体液分析の話なら、わかっているからいい。」
腕に挿し込まれていた管を抜き、布団を蹴り上げた。ベッドから降りて、春珈が機械を持ってきた棚を開ける。服がかけてあったが、上着だけを掴み、通信機をつかんだ。
「キミッ。」
医者が手を伸ばす。それを振り払い、窓に透明なマクがあったが、構わずそこから飛び降りた。地上に降り立ち、上着を羽織る。走りながら通信機を耳につけた。
「ユー!!応答しろっ。」
「ああ!キース。聞こえてる。そう怒鳴るな。煩い。」
「煩いー?おま、こっちがどれだけ心配したかっ。位置が動いてない・・けど?」
「ああ。忘れた。外気温変動装置?も忘れた。取り敢えず隠れる。」
「お前ねぇ・・。どうやって食料転送すんだよ。食わないくせに・・。」
「どうにかする。」
はあ・・・。キースの溜息が聞こえたが、あの場所に戻るのは危険だ。出来るだけ遠くに。と、走っているとひときわ大きな車の中から久住と彼方が降りてくるのが見え、走っているのも変かと思い立ち止まった。
「あれ?お前、なんでこんなとこにいるわけ?」
「え・・・。あ・・・。」
「怪我は?」
「あ・・はははは・・。」
後ずさりすると・・・。腕を掴まれた。・・掴まってしまった。クルリと身を翻され、俺の腕を掴んだ主に平手打ちを食らう。・・春珈だ。
「ユーリ。戻って。あの人、悪い人じゃないよ。恐がらなくていい。」
「・・・。」
「怪我を治してくれた人だって言っただろう?ユーリ?」
「・・。ごめん。あの場所には行きたくない。」
「じゃあ、他にいくあてがあるって言うのか?走って?」
じっと俺の目を見据え・・・。瞬きもせず。・・春珈、怒ってるな・・。
「春珈・・。」
「事情を説明してくれ。納得いくまで。」
「出来ない。」
病院という建物から人が走ってくる。仕方なく、春珈の腕を振り払った。動き出そうとしていた大きな車の屋根に飛び乗り、軽く手を振った。
「ユーリ!!!」
春珈達からどんどん離れていく。彼が何か叫んでいたが、車の上から他の建物の上に飛び移り・・・。また、適当に走った・・・・。