「キース。靴と服が欲しい。」
「調達しろよ。そっちの奴の方が、目立たないって。」
走っている間に、夜が明けた。人通りのなかった場所に、溢れるほど人が流れ出す。病院から飛び出してきたままの姿は、やけに目立つらしい。腹も減った。煙草を手の中に出し、口にくわえる。
「現地調達・・ねぇ・・。」
ぽつり呟いてみるが、建物の中にある服を転移させてしまったら違法だよなぁ・・・。くわえ煙草のまま歩いていると、なんだか見なれた建物が目の前に広がる。
「・・あ・・。」
ここ、春珈がいた場所だ。俺はここを目指してきたのか・・。そう思える。取り敢えず走ってきただけなのに、目指していた・・?そんな馬鹿な。仕方なく、あの巨大な体を始末するため歩くと、その辺り一帯は侵入禁止区域になっていた。やはり、あの生物はイエロークロスによって変異したため、この星の生物ではない。ということになってしまったらしい。人込に紛れるにも、俺の姿は目立ち過ぎた。こっそりと建物の中に入りこんで、春珈が俺を閉じ込めた部屋に向かった。夜まで隠れていればあの死体を始末できるだろう。ドアに手を伸ばし、引こうと思ったらドアが開いた。どかっ。と思いきり板が俺の体に当たる。
「・・痛い・・・。」
「・・・ユー・・・・・リ・・・・・???」
すぐに部屋に引き込まれ、閉じられたドアに体を押し当てられた。目の前には春珈。その後ろに彼方が腕を組み、久住が本から顔を上げ驚いたような顔で俺を見上げている。
「あ・・・。居たんだ。」
「居たんだ。じゃない!!ユーリ!!」
勢いよく怒鳴られ・・。殴られるかと思ったが、春珈はそのまま俺の胸に額をつけた。
「は・・春珈?」
「心配・・したんだ・・。」
「春珈、一晩中身元も知れないあんたを探してたんだぞ。謝れ、馬鹿。」
哉太が呆れたようにはき捨てる。春珈は・・。春珈の肩は小刻みに揺れて・・・。
「春珈、泣いてる・・の?」
俺の服を掴む手に力が篭る。振るえる肩をそっと抱いてやった。
「ごめんな。俺みたいな素性知らずなんかの為に。」
「・・ホント・・だよ。何で俺が・・。」
「・・ん・・。」
「何で俺がこんなに心配しなきゃならないんだよ・・。でも・・。よかった。」
春珈は顔を上げ、自分の手で顔を擦り上げた。俺を布団の上に導き、座らせて体に巻かれた布を解く。
「荷物・・。持ってきたよ。」
「ああ、ありがとう。」
春珈は笑顔を見せるが、まだその表情はたどたどしい。
「・・傷・・。ない。」
「へ?」
哉太と久住が近寄り、俺の体をしげしげと見やった。
「どうして・・?」
「すぐ治るって言っただろ。それより、服が欲しいんだけど。」
俺は立ちあがり、机の上においてあった残りの荷物を体につけた。通信機から、「現在位置確認、食料転送」と機会音が聞こえる。すぐに空腹が満たされた。
「事情を説明してくれたらその願いを叶えてやる。交換だ。」
・・この交換条件は・・違法だろうか・・。建物内にあの、妙な音が鳴り響き・・。久住が慌てて「あとで僕にも教えろよな。」と言い捨て部屋を出ていった。この星の中で、二人なら・・いいだろうか。しばらく考え込んでいたが、俺は溜息を吐きつつ頷いた。掌を上に向け、メーブを転送させる。その中にイエロークロスの立体映像を映し出し、彼らの前に出した。
「見えるか?」
哉太は首を傾けたが、春珈はメーブをじっと見つめている。
「これ・・何?可愛い・・・。」
「何が?ただのガラスだまだろ?」
「哉太、見えないのか?中に、黄色い鞠みたいな・・。生き物?」
「・・。そう。イエロークロス。春珈は見えるのか。」
見えなければ事情説明など要らないと思ったが、見えてしまった以上・・。
「こいつが、動物の体に入りこんで悪さをするんだ。」
「悪さ?」
「ああ。俺が昨日殺した生き物のようになったりする。俺はこの生物を探してる。」
メーブをしまい、春珈を見た。突飛な話だ。信じられるわけがない。
「俺には見えないけど?」
「ああ、見える人と見えない人が居るんだ。」
「んで、具体的には?」
「あいつは、動物の口や、傷などから入りこむ。真っ先に脳を目指す。そして、脳の機能を乗っ取る。体を腐敗させてから分身を作り始め、肉体が役に立たなくなったときに破裂して分身を外に出す。」
「ウィルスみてぇだな・・。」
哉太は顔をしかめた。
「イエロークロスが入りこんで駆除できない場合、星が死ぬ。」
「星って・・。地球の・・事?」
春珈の問いに俺はただ頷いた。驚きを隠せない二人。
「この星に、四体入り込んだ。三体駆除したが、全部が本体からの分身。もう、三日経つ。少なくとも、四つの生物は寄生されてる。」
「何でそう言いきれるんだよ。」
「じゃあ、哉太は裸のまま外に出られるか?あいつ等にとって、肉体は服と同じ。身に纏うものだ。同時に、身を守るものであり、住処であり、繁殖地でもある。」
俺は煙草をくわえた。それが燃え尽きるまで、沈黙が続く。聞かなきゃよかった。とでも思っているのだろうか。それとも、関わってしまったことに強い畏怖の念でも・・。
「ユーリは・・。地球人じゃないんだね・・。」
春珈が俯いた。
「いや、半分は地球人。母がこの星の人間だ。」
「は?って事は、ほかにもあんたみたいな奴が居るって事か?」
「居ないよ。地球旅行は禁止されたから。あ・・。ほら、こっちの事情説明は済んだんだから、今度はそっち。俺の願いを叶えてくれよ。」
哉太は腕組みをしたまま、壁にもたれかかった。
「叶えてやりたいんだけどなぁ。金、ねえし。」
「・・金?」
「ああ。」
「金って、なんだ?」
「キンと交換できるもの。」
「キンって・・。鉱物の?それならいくらでもあるぞ。どのくらい要るんだ。」
「・・どのくらいって・・・。」
ずっと黙っていた春珈は・・。不意に俺にしがみ付いた。
「・・春珈?・・恐くなった?」
彼は首を振る。哉太をみても、彼も首を傾げるばかりだ。春珈を宥めつつ、キースにキンを頼んだ。キースは面倒だ。そう言いつつ、拳大ほどの金を送ってくる。
「ま・・まじ??まじに黄金?」
「こんな物が価値があるのか?変な話だな。」
哉太は金を手に取ると、じっくりとそれを眺めつつ。お前の方が変だ。そう言った。春珈はまだ俺にしがみついたまま。
「・・春珈・・?」
「ん・・うん。ごめんな。なんだか・・突然。寂しくなっちゃってさ。」
春珈は俺から離れつつ、照れ笑いをしてみせるがなんとなく気になった。
「じゃ、買い物に行こう。ユーリ。」
「ん、あ、ああ・・。」
突然屈託なく笑う春珈に戸惑いながら、俺は彼らのあとをついて゛買い物゛に出かけた。まず、キンをカネに換金しなければならない。というわけで、宝石商という場所に赴き、束になった絵のかかれた紙切れを貰った。地球ではこれが価値があるらしい。洋服屋。という場所に行って、服を選んだが、様々な女性がやってきては次から次へと服を着せられ・・・。イエロークロス駆除よりもどっと疲れた。だが、その店に武器になりそうな代物を見つけ・・。適度な重さ。握りやすさ。切れ味もありそうで、持っていても不自然でないようなもの。しばらく眺めていたら、哉太がそれを紙切れと交換してくれた。店を出ると、もう太陽は見えない。空は漆黒の世界だ。ただ一つ、丸く光り輝くものが空に浮かんでいる。
「ユーリ、これからどうする。飯でも食いにいく?」
「哉太・・。それ、ユーリのお金なんだから残りの全額返す。」
「エー?換金したの俺だぜ?」
そんなやり取りの中・・・。お遊びは終わりの予感だ。この辺り一帯にイエロークロス飛来・・か?
「哉太。さっき交換した奴くれ。」
「ん?ペーパーナイフ?そんなもの今どうするんだ?」
彼はぶつくさ言いつつも、袋の中からそれを出して俺に渡した。ここの生物は外皮が柔らかい。切ることは出来なくも、殴りつければ頭は吹っ飛ぶ。
「先に帰っててくれよ。」
「・・あのさ、あんた家分かるわけ?」
「朝になったらあの部屋に行く。」
「ユーリ・・。」
不安そうな表情の春珈。その彼に笑みを返し、ちょっと遊んでくるだけ。と言っては見たがなかなか納得はしてくれそうもない。ならば仕方ない。哉太に目で合図し、春珈の体をちょっと突き飛ばした。春珈はよろめきつつ・・・。哉太に掴まれ俺はその隙に人込の中に紛れた。
「キース。武器と服、調達完了っ。」
「ったく。何度呼びかけても変事もしないんだからなぁ・・。そのそばだよ。」
「ぼやくなって。こっちにも都合があるんだからさ。」
表通りから一歩。細い路地を抜けると、世界は一変した。華やかな場所の裏表・・か。
「さて・・・。と・・。」
ナビゲーションも・・役に立たなそうだな。勘だよりか・・。人間に入りこんだ奴は、見つけ難いんだよなぁ・・。