壁に背をあて、煙草をくわえ・・。せめて、臭いがあれば分かりやすい。腕の機械の反応は。この辺りに六つ。多すぎる。見える限り、ここにいる人間の数は12。メーブの最大収容数は3。ダリアは2。足りない。せっかく買った武器も、この狭い路地で役に立つ・・か。この路地を力で囲むには広すぎる。
「・・はぁい。お・に・い・さんっ。遊びましょ。」
二人の女性がよろめきながら近づいてきて、俺が寄りかかる壁に手を当てた。色気。それがわかればむしゃぶりつきたい。そう思うのだろうか。彼女ら二人を相手にするのはまだ俺には早すぎる。一人づつ、その顎に触れて顔を上げさせ、その瞳の曇り具合を見る。だが・・。何か余計な薬でも服用しているんだろう。焦点が定まらず濁りきっている。ただ・・。もう一人の中には居るな。爪の中が腐り始めている。それを隠すために塗料を塗ってはいるが思ったより進行度が早かったせいか、指先まで腐り始めている。
「ねえってば。あたしとアソボーよー。」
「悪い。こっちの彼女が好みでね。」
黙ったままだった女・・。いや、肉体は艶かしくニンマリと微笑んだ。だが、もう意識はない。操り人形だ。裏路地でも、表でも。見えないような場所に体を連れていき、壁に押しつける。話が出来なくなっていて好都合だ。人間を潰すのは少し、心苦しい。
「キース。」
「何だよ。」
「・・何でもない。」
目を閉じ。拳に力を込めた。グシュッとした潰す感触と飛び散った血肉が降り注ぐ音。生臭さ。メーブで潜伏していたイエロークロスを回収し、横たわる肉体を・・焼いた。その炎で煙草に火をつけ、メープの中のイエロークロスを見ながら煙草をふかした。やはりエラ体だが、腐蝕が黒い。すぐに転送し、その場を離れた。あと五体。仲間の宿木を潰された。それで寄って来ればいいけど・・。
「ねぇ、もうお楽しみは・・。」
さっき俺に声をかけてきた女性は、俺の姿を見るなり目を見開き両足を振るわせると声にならない声をあげた。逃げようとする彼女の腕を掴んで壁に押しつける。
「さっきの女と、キスした?」
彼女は振るえ・・。何度も何度も頷く。しゃばしゃば・・。そんな音がして足元を見ると、彼女は恐怖で失禁していた。
「大丈夫。まだそれだけ意識があれば乗っ取られないから。」
手の中から一つ。従来のイエロークロス用退治薬を出して引き攣っている彼女の口に押し込んだ。
「飲んで。」
彼女の喉が動くのを確認して、手を放してやったが彼女はそのままその場に座り込んだまま白目を向いた。腕の探知機が音を上げていく。
「ユー。四体以上傍に居る。警報だ!逃げろ。」
「キース。逃げたら面白くない。せっかく武器を調達したんだから。」
「・・戦闘馬鹿・・。」
白目を向いている彼女の上着を掴み上げ、なるべく安全な場所に放った。哉太が、ペーパーナイフ。と呼んだものを手のうちに入れ、身を翻して壁を背にする。一体のリテラ体が分裂し増えたとしてその半径はあの屋上から眺められた部分ほど。鳥、黒い動物二体。女。どれも同じ色の腐蝕だった。ならば、ここに居る残りも同じ分身。小虫のように切り殺しても問題ないだろう。うまく出来れば、ね。突如、暗闇の中から鋭い刃が向かってきてナイフで弾いた。が、簡単に傷が付いてしまった。物質強化くらいなら問題ないだろう。ペーパーナイフを手の中に入れ、念を込める。
「お前か?」
「・・何が?」
「仲間の悲鳴を聞いたぞ。」
「喋る相手・・・か。その体は居心地がいいらしいな。」
「ああ・・。」
四人の女と・・一人の男。喋っているのは男だ。・・いや、声帯を借りてるだけか。
「この場所もいい。」
「・・だろうね。隠れやすそうだ。」
女たちが一斉に拳を突き出した。咄嗟にしゃがみこむと、頭の上から壁の破片が落ち・・・。彼女等の腕が壁にめり込んでいる。
「ウソォ・・。」
喋ってる暇はなさそうだ。踏まれそうになり、地面を転がる。起きあがり、溜息をつきつつ髪をかき上げた。
「ここの人間、そんなに頑丈だっけ?」
「・・変えた。入りやすいが弱すぎるのが難点だったんでね。」
「そりゃ、ご苦労様・・。」
手の中のペーパーナイフの物質強化が終わり、柄を握った。少し間合いを取りたいので、少しずつ力を注ぎ・・。それを大きくしていく。なるべく気づかれないように。徐々に・・。力を使いながらの戦闘はちょっと辛い。あまり動き回りたくないんだよね。
「でもさぁ。それ、燃えるだろ?」
「・・。何が言いたい。」
「さてね。」
刀身を太く、長く。強く。・・・熱く。触れるだけで燃えるように・・。極限まで熱を持たせ・・。肉体ごとイエロークロスを燃やせれば・・。って、このペーパーナイフがそれに耐えられるかな?
「何だ。ただの脅しか?」
「いーや。時間稼ぎさ。・・出来あがったから、見てみるか?」
手慣らしにそれを回し、逆手に構えた。女たちは今度は一気には来ず、二人ずつに分かれたようだ。1組はナイフ。1組は・・素手って事はないよな?
両手にナイフを持った一人が素早く俺の懐に潜りこみ微笑みながらナイフを突き刺そうと腕を伸ばす。その腕を切り落とした。落ちるナイフ空中で手にし、飛びこんでくる女の額めがけて投げる。ナイフは見事眉間に命中。腕を切り落とした女の腹に蹴りを入れ、壁に叩きつけた。その瞬間にその体が燃えあがる。
「ぎゃぁああああっッ」
燃える女の断末魔を聴きながら、眉間にナイフが刺さり地面に突っ伏している女の背中に剣を突き立てた。それを抜くとすぐその体が燃えあがる。
「・・ほう・・・。」
「面白いだろ?・・ただ、疲れるんだなぁ、これ。」
あと二人。女は男の前に立った。地面に伏せ燃えあがる女を避けつつ間合いを詰める。不意に足首を掴まれ、気が逸れたその瞬間に聞こえた銃声・・・・。見事。左胸に命中。足を掴んでいた手を振り解き、刀身を前に突き出し地面を蹴った。銃声が聞こえる。何発か、体をかすって行ったが、勢いに乗ったまま女の体を突き刺した。それを真横に引き俺に拳を入れようとする女の腕を切り取る。銃を持った女の頭を掴み、隣の女の頭を目掛けて叩きつけそのまま壁で潰した。しばらくすればその体は燃える。
「さて。あとはあんただけだけど?」
「・・胸の傷は・・痛まないのか?」
「そりゃ、スッゲー痛い。お前等にも痛みはあるのかよ。」
「・・愚問だ。」
頭を狙って刀身を振りかざしたが、簡単に素手で受けとめられた。蹴りを入れたが効き目なし。奴はニタリ・・と微笑むと、俺の胸の傷に拳を捻じ込んだ。力が抜け、剣が地面に落ちる。手から離れてしまうと、折角仕込んだ力が失われて・・。もとの小さなペーパーナイフに戻っていく。
「・・あ・・・。」
気が遠くなる・・。その腕を勢いよく引き抜かれ、俺はその場に膝間づいた。視界が歪み、目の前が暗くなっていく・・・。
「はっ。弱いな。」
男は身を翻し、ゆっくりと歩いていくのが見える。地面に転がるペーパーナイフを掴み上げ・・。思いきり奴に投げつけた。奴は簡単にそれを避け、高笑いをして見せた。
「その程度か。笑わせる。」
「・・ああ。お終いだ。」
奴が高笑いをしている中、ダリアを転がした。ダリアは奴のつま先に触れ・・。標的を認識すると同時にその大きさを把握し、包み込むようにして奴を飲み込むと警戒音を鳴らした。ゴオっと音を立て炎が噴出し、奴の体を包んでいく。あれほど大きいダリアの中にあれば炎の音で断末魔も聞こえない。しばらくして、消去完了しました。と音が響いたが・・・。俺の耳はそれを聞き入れることは出来なかった・・・。